川崎F・大島僚太が語るW杯とこれから 「自分がやるべきことを書き殴った」

原田大輔

W杯から帰国して1週間後、川崎のクラブハウスでインタビューに応じてくれた 【スポーツナビ】

 淡々と、粛々と、川崎フロンターレの大島僚太は、いつもと何ら変わらずインタビューに答えてくれる。ただ、それでもにじみ出る悔しさと、見返してやろうとする反骨心はひしひしと伝わってきた。

 自身にとって初となるワールドカップ(W杯)ロシア大会での出場はかなわなかった。いわゆる国内組と海外組の差も実感したし、ピッチに立つことはできなかったが、世界との差も痛感した。ベルギー戦のあとに殴り書きしたという一枚の紙――記した内容は覚えていないというが、きっと心に焼き付いているのだろう。これからも大島は、淡々と、粛々と、目の前の自分に向き合っていく。(取材日:2018年7月12日)

今は「4年後に向けて」は考えられない

――W杯ロシア大会で、日本代表はグループステージを突破し、2大会ぶりの決勝トーナメント進出を果たしました。一方で大島選手は出場機会を得られず、悔しさもあったかと思います。今、振り返ってみると、どんな期間でしたか?

 正直、振り返っていないんですよね。というのも、自分は今まで試合に出て反省し、課題を見つけて、それをひとつひとつクリアしていくことでここまでやってきた。だからこそ、やっぱり試合に出なければ、具体的に何を反省し課題として取り組めばいいのか、正直、整理ができていないんです。

 もちろん、整理する必要はあると思っています。(W杯に臨む日本代表の)メンバーに選ばれるということに関しては、ひとつたどり着けたので、これまで自分がやってきたことが間違っていたとも思わないし、後悔するようなこともない。でも、ピッチで体感できなかったということは、自分に何かが足りなかったということ。そこは今後、考えていかなければと思っています。ただ、帰国してチームからもらったオフの期間は、サッカーのことはあまり考えなかったというか、大会を振り返るようなことはしなかったですね。

――大島選手にとって、W杯はそれだけの大会だったということですよね。

 気が付けば、ですけれどね。ただ僕自身、ロシアW杯のメンバーに選ばれるために、これまで生活してきたわけではなかったので、そのスタンスはこれからも変わらない。大会後、「4年後に向けて」と聞かれましたけれど、今は一切、考えられない。だって4年後には、もしかしたらサッカーを続けていないかもしれない。それくらい自分は目の前のことしか考えられないんです。これまでどおり自分のペースというか、その時その時で出た課題に向き合って取り組んでいければなと思います。

――少し時間を巻き戻すと、日本は大会直前の4月に監督交代がありました。その出来事をどう受け止めていましたか?

 僕自身は、(ヴァイッド・)ハリルホジッチ監督以前の日本代表を知らないので、そこには感謝もあります。実際、(ハリルホジッチ前監督がよく言っていた)球際の部分は、相手に対して強くいく習慣がつきましたからね。それはJリーグの試合でも感じること。自分だけでなく、みんなが意識してやっていたと思います。

 自分の中で「デュエル」というのは、いわゆるボールを奪い切ることだと解釈しているんですけれど、ガツンと(相手に)当たることだけではなく、自分の中でうまく消化して考えてきました。

Jで試したい「デュエルのうまさと賢さ」

W杯直前の親善試合では存在感を示したが、本大会では出場機会に恵まれず 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

――西野朗監督が率いるようになってからは、メンバー発表前日に行われたガーナ戦と、オーストリア合宿に入ってから行われたスイス戦に先発出場しました。攻撃の起点になっていたことから、キーマンにも挙げられていました。

 正直、自分の中で手応えはなかったです。ガーナ戦は初めて3バックを採用したこともあって、みんなも迷いながらプレーしているところがあった。スイス戦は4バックに戻ったので、みんなの考えも整理されていましたけれど、まだまだ(チームとして)詰め切れていないところも多かった。

 特にスイスはゴール前での脅威こそ、それほど感じなかったですけれど、ビルドアップに関してはかなりうまくて、僕らとしてはどこで人数をかけてボールを奪いにいくかという決め事が足りていなかったと思います。自分自身も相手にとって嫌なプレーができていなかったというか、シュートを打てたとしても、どこか打たされている感触があった。それだけに、自分自身に物足りなさを感じました。

――物足りないと思った一方で、できたと感じられた部分は?

 瞬間、瞬間で言えば、できた部分もあったとは思います。守備では、相手よりも先に体を入れられたこともそのひとつ。ただ、それにしても、こちらにとって五分以上の状況だったり、うまく予測できていないと難しかった。それを特に感じたのはガーナ戦。相手は上半身と下半身を使い分けていたし、こっちが6割くらい有利な状況でも、(体勢を)逆転してボールを持っていってしまう強さがあった。

 そこはハリルホジッチさんも言っていたデュエルのうまさであり、賢さなのかなと。上半身から体を入れるのか、もしくは下半身から体を入れるのか。そこは実戦で補っていくしかない。小さい自分の体でどこまでやり切れるのか。早く試合で試していきたいですね。

――スイス戦では腰を負傷して、ロシアに入ってからも全体練習に合流できない日々が続きました。

 自分では単なる打撲だと思っていたので、すぐに練習に合流できるだろうと。それが、(合流)できなかったんですけどね……。

――グループステージでの戦いを振り返ってみるとどうですか?

 コロンビアとの初戦に勝ったときは、チーム全体としてもかなり盛り上がりました。さらに(セネガルとの)2戦目に引き分け、次(決勝トーナメント)に進める確率が高くなり、チームとして練習に対するモチベーションもかなり高まったと思います。

――W杯を戦った日本代表には一体感を感じました。実際、チームの中にいた1人としてはどうでしたか?

 チームとしてのまとまりという点においては、日本人監督だったというのが大きかったと思います。代表に選ばれるような選手たちは我が強くて、はっきり物を言う選手ばかり。西野さんはそれを容認してくれたというか、受け止めてくれたことで、みんながより意見を出し合えるようになった。1試合目からずっと、どう守るか、どう相手をはめていくかという意見を出し合える環境だったので、みんながすごく生き生きできたと思います。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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