伊藤光はキャッチャーとして生きる 新天地DeNAで目指す頂上の座

日比野恭三

移籍決定から目まぐるしい日々

オリックスからDeNAへ移籍した伊藤、11年目の29歳のいま、「折り返し地点なのかな」と口にする 【(C)YDB】

 7月9日――。

 13時に始まるウエスタン・リーグの試合に向けて、伊藤光は準備を行っていた。オリックスの球団職員に声をかけられ、「とにかく来てくれ」と通された事務所の一室で、伊藤は横浜DeNAとの間でトレードが合意に達したことを告げられた。

 オリックスからは伊藤と3年目右腕の赤間謙、DeNAからは白崎浩之と高城俊人。2対2の交換トレードの発表は両球団のファンに大きな衝撃を与えた。

 その瞬間を境にして、目まぐるしい日々が始まった。

 伊藤はまず、自身を見出してくれた元スカウトで現在は副寮長を務める谷真一のもとを訪れ、別れのあいさつをした。トレードを知った選手たちからは「寂しい」と惜しまれ、ファームの監督やコーチたちからは「これはチャンスだぞ」と背中を押された。11日には早くも横浜で入団会見を行った後、いったん帰阪。14日早朝に自らハンドルを握って再び横浜へ向かい、その日の夜には初めて横浜スタジアムでの全体練習に参加した。

 伊藤は言う。

「10年間、オリックスでプレーしてきて、(トレードの通告から)5日後にはベイスターズの一員として練習してる……そんな自分を想像したことがなかったので、自分でもよくわからないというか、何とも言いようがない気持ちでした」

順調に見えたキャリアだったが…

 明徳義塾高からプロ入りした伊藤は、入団4年目、5年目とそれぞれ66試合に出場して1軍経験を積み、6年目の2013年には137試合に出場。打率もキャリアハイの2割8分5厘をマークし、24歳にして正捕手となった。翌14年には僅差でリーグ優勝を逃したものの、ゴールデングラブ賞やベストナイン、金子千尋とともに授与された最優秀バッテリー賞など、数々の個人タイトルを手にした。

 順調と見えたキャリアに影が差すのは15年からだ。チームは前年の80勝62敗2分(リーグ2位)から一転、61勝80敗2分の同5位に沈み、主力捕手もまたその責任を免れなかった。15年以降の先発マスクは72試合、37試合、45試合。チーム事情もあって、ファーストやサードして試合に出ることも増えていった。

 どんな形であれ、チームの勝利に貢献したかった。その一方で、これからもキャッチャーとして生きたいという思いもやはり隠しきれなかった。

「サードやファーストでも2番手でしたし、ずっとそのポジションをやろうという気持ちもなかったですし……。それであれば、自分のこの先の野球人生のためには、どっちつかずで終わるのは何か違うなと。キャッチャーとしての時間を過ごすことがこの先いずれ必要になると思ったし、たとえ試合に出られなくても、もっと成長したい、もっとうまくなりたいという気持ちがあったので。そういうことを球団(オリックス)には伝えさせていただきました」

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著者プロフィール

1981年、宮崎県生まれ。2010年より『Number』編集部の所属となり、同誌の編集および執筆に従事。6年間の在籍を経て2016年、フリーに。野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを中心的なフィールドとして活動中。

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