王者・久我「はっきりしたKOで勝つ」 世界へとつながる注目の国内頂上決戦

船橋真二郎

スーパーバンタム級の国内頂上決戦となる久我勇作(右)と和氣慎吾の戦いが27日に行われる 【船橋真二郎】

 注目の国内頂上決戦のときが迫っている。7月27日、東京・後楽園ホールで行われるプロボクシングの日本スーパーバンタム級タイトルマッチ、王者の久我勇作(ワタナベ)と挑戦者の和氣慎吾(FLARE山上)が激突する一戦は、すでに前売りチケットが完売。その反響の大きさを証明している。

 27歳の久我は、昨年2月に2度目の挑戦で日本タイトルを奪うと、ここまで2度防衛中。2013年8月、元アマチュア6冠の上林巨人(竹原慎二&畑山隆則)と引き分けるもダウンを奪い、名前を売った。以後、5連勝の余勢を駆って、日本タイトルに初挑戦するも判定負けで王座奪取ならず。王座獲得戦では、そのベテラン石本康隆(帝拳)に2回TKOの速攻劇で雪辱を果たし、一気に評価を上昇させた。今年3月の2度目の防衛戦では、ランキング1位の小坂遼(真正)を圧巻の初回KOで沈め、勢いに乗っている。

 久我の日本王座に挑む形になるが、経験と実績では和氣が上だ。リーゼントヘアがトレードマークの31歳(試合時)。13年3月、のちのIBF世界スーパーバンタム級王者、小國以載(VADY→角海老宝石)を敵地・神戸で10回終了TKOに下し、5度の防衛に成功。一昨年7月にはジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)とIBF王座決定戦を争い、11回TKO負けでタイトル奪取とはならなかった。心機一転、17年4月にジムを移籍。再起後、ここまで4連続KO勝ちで再び世界を狙う位置まで戻ってきた。

 すでに世界挑戦権を持つ世界ランカー同士。この試合が支持を集めているのは、何より両者の心意気だろう。同じ階級に日本人世界ランカーが並び立ち、ライバル対決を望まれても実現することは少ないのが現状。敗者は世界ランクを失い、世界戦線から大きく後退するリスクを背負うことになるからだ。

 それでも「ここで負けているようじゃ、世界なんて言ってられない」と久我。「まず負けると思ってないんで、リスクすら感じていない」と和氣。ともに国内最強の座を勝ち取り、堂々と世界に打って出ようという気概にあふれている。

 世界初挑戦を目指す新鋭、再び頂点をうかがうベテランのサバイバルマッチは、それだけでもスリリングだが、両者の対照的なスタイルが想像をかきたて、試合の予想を面白くすることも人気を集めている理由だろう。ハードパンチャーの王者に対し、挑戦者はスピードスターのサウスポー。和氣がスピードを生かして、展開をリードする可能性もあれば、久我がパワーで局面をガラリと変える可能性もあり、予断を許さない。

 プライドを懸けた大一番に向けて、双方に話を聞いた。今回は久我のインタビューをお届けする。

 なお主催のDANGANプロモーションによると当日の後楽園ホールは満員札止めで当日券は販売されないが、前日計量は一般に公開され、対戦直前の空気を肌で感じられる。その公開計量は東京ドームシティ内『MLB cafe TOKYO』で26日13時から行われる。また試合の模様は28日の深夜、TBSで録画放送される。

「和氣さんに勝てなきゃ世界とは言えない」

「和氣さんとなら面白い試合になるだろうなという気持ちがある」と話す久我 【船橋真二郎】

――あらためて和氣選手との試合を受けたのは、どういう気持ちからですか?

 今回、試合が決まってからの反響がすごいですし、僕の周りの反応もいつもよりいいんですけど、それと同じ気持ちですね。プロとして、和氣さんとなら面白い試合になるだろうなという気持ちがありましたし、自分自身が楽しみなので。それに適当に(チャンスを)待って世界戦というのも、つまらないじゃないですか(笑)。

――対戦相手として和氣選手の名前を聞いたときの気持ちは?

「おお、来た!」って感じです。前回の試合(初回KOで終わらせた2度目の防衛戦)をする前から、プロモーターのほうから和氣さんの名前が少し出ていたんですけど、お互いに世界ランカーなので、これに勝てば、次が見えてくる試合だと思いますし、ただ防衛しているよりも近道ですよね。

――その一方でリスクもありますよね。もし負けてしまったら、世界ランクもベルトも一気に失ってしまう。そのリスクについては、どう考えていますか?

 いや、ここで負けているようじゃ、世界なんて言ってられないので。リスクというよりは、和氣さんに勝てなきゃ、世界とは言えないっていう気持ちですかね。だから、普通に勝ちにいきますよ(笑)。

――久我選手が通ってきた道を振り返ると、日本タイトルのときに一度、石本選手に挑戦して敗れたあと、チャンスを待つのではなく、挑戦者決定戦(最強後楽園)に出て、自ら挑戦権を勝ち取って、石本選手との再戦で日本タイトルを獲っています。

 あのときは、実は最強後楽園があることを知らなくて(笑)、ほかの試合が決まりかけていたんですけど、あとから知って。相手の選手には申し訳なかったんですけど、頭を下げて、出させてくださいとお願いしたんです。

――その最強後楽園の相手はジョナタン・バァト(カシミ)。老かいなフィリピン人のベテランサウスポーでした。一歩間違えれば、ごまかされるリスクもあった相手です。

 あのときは、もう1回、石本さんとやりたいという気持ちだけでしたね。順番待ちするよりは、最強後楽園に勝てば、確実に石本さんとできるじゃないですか?

――あのときも今回もリスクよりも勝てば先につながる。そういう道筋は自分でつけるということですね。

 そうですね。先につながる試合が目の前にあるのに出ないなんて、すごくもったいないし、出ないという選択肢はないですよね。

今までに2度のスパーリング

――和氣選手が神戸で小國選手から東洋太平洋タイトルを獲ったころ、久我選手は4回戦から6回戦に上がって、B級ボクサー(6回戦)のトーナメント戦に出る前でした。あの辺りから和氣選手の名前が頭に入ってきた感じですか。

 そうですね。小國選手に勝った辺りから、ドーンと来たんじゃないですか(笑)。すごいなと思いましたね。敵地で獲ったわけだし、その後もずっと防衛を続けていましたし。

――久我選手も、直後のB級トーナメントでアマチュア出身の鈴木悠介(現・日本バンタム級1位/八王子中屋→三迫)選手に勝って、決勝戦の元アマチュア6冠の上林選手とは引き分けましたが、ダウンを獲って評価を上げました。久我選手もだんだん上に上がっていくタイミングですが、あのころは、どう見ていましたか。

 いや、相手というよりは、当時は和氣さん、小國さん、日本チャンピオンの芹江(匡晋=伴流)さんもいましたけど、チャンピオンってすごいな、ぐらいじゃないですかね?(笑)

――今、“対戦相手”として見る和氣選手はどんな感じでしょう?

 あのときから考えたら、考えられないんですけど、今は自分が世界に行くまでの、そのひとつ手前にいる人という感じですね。もちろん強いと思いますけど、僕も強い相手とやってきましたし、そこはいつもと変わらないです。

――特別な試合という感覚はある?

「いつもより注目してもらっている」という特別感はあるんですけど、相手を見て、特別という感じはしないです。今までも気の抜ける相手とやってきたつもりはないですし、相手に対しては特にいつもと変わらない感覚ですね。

――これまで和氣選手とは2回、スパーリングをやったことがあるそうですけど、最初はどれくらいのタイミングだったんですか。

 最初は、確か和氣さんがチャンピオンになる前だったと思います。僕が4回戦、6回戦ぐらいで、和氣さんは日本ランカーだったんですかね。まだ前のジム(ワタナベジムは14年11月に同じ五反田で移転している)でしたし。

――ということはワタナベジムで。そのときの印象は?

 それが全然、覚えていないんですよ(笑)。

――まったく覚えていない?(笑)

 そういえば、やったなっていうぐらいしか(笑)。どんな内容だったのかも覚えてないですし。まあ、ボッコボコにされたとかだったら、覚えているんでしょうけど。

――ということは、そこまで強烈な印象を与えられたわけではないということ?

 そうだと思います。

――2回目が和氣選手の世界戦の前ですよね?

 はい。それは比較的、最近なので覚えているんですけど。あのときは古口ジム(和氣が所属していたジム)だったので、リングが狭めで、足を使う和氣さんはやりづらいだろうなと思ったんですけど。

――久我選手がプレッシャーをかける展開に?

 プレッシャーをかけやすいリングでしたからね。まあ、本番のリングはもっと広いですし、和氣さんはもっと足を使えると思うので、あまり参考にはならないです。

――和氣選手から直接、受けた印象は?

 みなさんのイメージどおり、ハンドスピードが速くて、速い選手という印象です。

――パワーの久我、スピードの和氣という見方が一般的ですが、それについては?

 ハンドスピードは向こうが上、パンチ力は僕のほうが上だと思います。でも自分の踏み込みのスピードもまあまあ速いと思っているんですけどね。和氣さんは(距離を取って)足を使ってくると思うんで、距離の取り合いになるんじゃないかと思いますけど。

――パワーだけじゃないぞ、という気持ちもありますか。

 ちょっと見せたいですよね。ただ力任せに倒すというより、ちゃんとボクシングをして倒したいという気持ちがあるんですけどね。

――石本選手に負けたあと、小技というか、そういう部分をプラスしたいと言っていましたよね。

 そうですね。じょじょに身に着いてきているんで、そういう部分も見せられたら。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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