王者・久我「はっきりしたKOで勝つ」 世界へとつながる注目の国内頂上決戦

船橋真二郎

勝率は100%でも「サウスポーは苦手」

世界戦を経験している和氣に対し、「その経験値は注意すべきところ」と警戒している 【船橋真二郎】

――ところでサウスポーは得意とは胸を張っては言えない?

 いや、苦手ですね。はっきり言って、超苦手です(笑)。

――と言いながら、サウスポーとの対戦は5戦5勝です。それでも苦手な感覚が?

 そうですね。サウスポー相手に楽勝で勝てた相手はいないですよね。バァト戦は、練習してきたことがハマったんですけど(4回KO勝ち)、ほかは大体、苦戦していますね(笑)。サウスポーとの試合は全部嫌だな、距離が遠くて打ちづらいなという感覚がありました。

――そうなると質問が戻って、やはりリスクの高い戦いになりそうですね。

 でも、サウスポーの世界チャンピオン(IBF王者の岩佐亮佑/セレス)もいますからね(笑)。苦手なんて言ってられないんで、ここで勝っておかないとダメですよね。まあ、少しずつ、(感覚を)つかめてきてはいるので。

――和氣選手は、スピードもリーチもあって、サウスポーならではの懐の深さもある選手ですよね。

 身長が同じくらいでも(久我は身長171センチ、和氣は173センチ)、サウスポーだとオーソドックスよりも遠く感じるんで。そこは当日、リングに立ってみないと、どう感じるかは分からないところですね。

――何が勝敗を分けるポイントになると考えていますか?

 どういう感じで距離を詰められるか、自分のポジショニングが大事ですね。サウスポー相手だと、正面に立っちゃうことが多いんで。特に和氣さんの左ストレートは切れるので、それだけは注意したいです。

――世界戦直前にスパーリングもしたということですが、和氣選手の2年前の世界戦を見て、どのように感じましたか?

 感想としては、世界って、やっぱりすごいんだなということですね。和氣さんでも歯が立たなかったわけですから。ただ世界戦を経験しているのはデカいことですし、その経験値は注意すべきところだと思っています。

――その後、和氣選手はジムを移籍して、再起してからは4連続KOです。その後の彼のことは、どう見てきましたか?

 多分、1試合も見てないんですよね(笑)。まあ、あまり映像は見ないようにして、変な先入観は入れないようにしようかなと思っています。打ち合いにきてくれたら、それはそれでラッキーですし(笑)、足を使うなら使うでイメージどおりだし。

――いつも相手の映像は見ないほうですか。

 まったく知らない選手だったら、少しは見ますけど。ただ、見過ぎてしまうと変にこれというイメージを自分の中でつくってしまうことがあるので、まったく知らない人とやりたいというのが本音です。だから、スパーをやったことがある選手とはあまりやりたくないんですよ(笑)。どうしても頭に残ってしまうので。

――まっさらな状態でやりたい?

 そのほうが新鮮でいいですよね。まあ、ここまできたら、いろいろな選手とスパーもしていますし、そういうわけにはいかないですけど(笑)。

世界戦しか見たことがない人にも見てもらいたい

ワタナベジムで内山、河野、田口、京口といった世界王者の姿を見て、意識は変わってきている 【船橋真二郎】

――石本選手との再戦に勝って、日本チャンピオンになってから1年が過ぎました。自分自身の変化、成長をどう感じていますか。

 どうですかね? チャンピオンになってからもレベルは上がっていると思いますし、試合ごとに強くなっているとは思いますけど。

――どういう部分が強くなっている、レベルが上がっていると感じていますか?

 本当に細かいところですね。この試合で何が悪かった、何ができなかったかを考えて、それを練習して、新しい引き出しが増えるとか。そういう繰り返しでここまで来ましたから。今まで弱い相手とばかりやっていたら、気も緩んでそうはいかないと思うんですけど、ずっと強い相手とやってきましたし、1試合ごとに成長できていると思います。

――試合のたびに課題が出てくるような相手と対戦。だからこその成長ということですね。

 そうですね。簡単に勝てるような相手とはやってきていないので。前回は、たまたま早いラウンドで終わりましたけど、1ラウンドKOって、4回戦の3戦目以来なんですよ(笑)。

――もっと、しているイメージがありますけどね(笑)。

 めちゃくちゃ久しぶりです(笑)。

――その小坂選手との試合前は「相手は1位だけど、やってきた相手が違うから、キャリアを見せつけないといけないし、そういう試合になる」と言っていて、そのとおりになりました。チャンピオンの風格が出てきたようにも感じましたが。

 ありがとうございます(笑)。でも自分がチャンピオンとか、ベルトを守るとか、意識したことはないですし、気持ちはずっと変わらないですね。ただ、試合のとき、ベルトを先頭に入場するじゃないですか。あれはカッコいいなというぐらいですね(笑)。

――和氣選手の経験値は侮れないということですが、ワタナベジムは内山高志さん、河野公平選手、田口良一選手、今は京口紘人選手、常に世界チャンピオンが身近にいる環境です。そういう中でやってきた強みもあるのではないですか?

 少しずつですけど、意識が変わってきましたね。最初のころ、内山さんを見ているときは、「世界は違うな」という感じでしたけど、「自分もいつかは」という感じに変わってきましたから。あそこに自分も早く行きたいという気持ちが強くなりましたね。

――彼らの姿を身近で見て、感じることも多かったのではないですか?

 とにかく世界戦の前の追い込み方はすごいですよね。もちろん、今は自分も同じような気持ちでやっているつもりです。

――今、久我選手の目にこの先の世界はどのように映っていますか?

 今のところ考えてないですし、今は和氣さんを倒すことしか考えてないです。その後のことはなるようになると思うんで、渡辺(均)会長に任せて。

――注目されていることも実感していて、絶好の機会でもあると思いますが、どのような自分をアピールしたいですか?

 ぎりぎり勝っているようでは厳しいと思っているんで、はっきりした形で勝って、もう久我は世界だなと思わせるような試合を見せたいですね。

――日本タイトルマッチに注目が集まるのはうれしいことですよね?

 めちゃくちゃうれしいです。いろいろな人に見てもらいたいですよね。たとえば、普段は世界戦しか見たことがない人とか、そういう人たちにも見てもらいたいです。

――そういう人たちに対して、どういう試合を見せたいですか?

 もちろん、分かりやすいのはKOですよね。判定で、どっちが勝ったんだという接戦もいいっちゃいいですけど、倒すか倒されるか。そういう面白い試合をして、はっきりしたKOで自分が勝つつもりです。

16勝11KO2敗1分の戦績。この戦いの先には初の世界挑戦も視野に入れている 【船橋真二郎】

■久我 勇作(くが・ゆうさく)プロフィール
1990年11月5日生まれ、東京都大田区出身。16勝11KO2敗1分の右ボクサーファイター。日本スーパーバンタム級王者。2010年11月、初回TKO勝ちでプロデビュー。2015年12月、日本タイトル初挑戦で日本スーパーバンタム級王者の石本康隆(帝拳)に判定で敗れて、王座獲得ならず。2017年2月、再び石本に挑戦。今度は2回TKO勝ちで雪辱を果たし、王座を奪取した。今年3月、同級1位の小坂遼(真正)を初回TKOで一蹴し、2度目の防衛に成功。現在は5連勝(4KO)中。WBA、WBCの7位を最上位に世界主要4団体すべてでランクインし、世界初挑戦を視野に入れている。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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