強豪国の苦戦が目立ったグループリーグ 効かなくなったハイプレスと撤退守備

西部謙司

厳しい戦いを強いられた強豪国

いつになく厳しい戦いを強いられ強豪国だったが、結局はドイツを除いてグループリーグを突破した 【写真:ロイター/アフロ】

 グループリーグとノックアウトラウンドでは試合の様相ががらりと変わる。ワールドカップ(W杯)は毎回そうなる。ここからはまた別の戦いになるだろう。

 6月28日(現地時間)に終了したW杯ロシア大会のグループリーグを振り返ると、優勝候補とされる強豪国の苦戦が目立った。結局はドイツを除いてグループリーグを突破しているが、いつになく厳しい戦いを強いられていた。その要因はハイプレスが効かなくなり、撤退守備がメーンになったことが挙げられる。

 サッカーにおいて、速攻と遅攻では速攻が有利なのは自明である。しかし、強豪と対戦する相手は初めから引いて守備を固める傾向がはっきりしていた。強豪でなくても、今大会では前線からプレスして高い位置でボールを奪う戦術が通用していない。自陣からのビルドアップが進歩し、前からプレスしても奪えず、かえってカウンターを許す展開になってしまう。そのためハイプレスを実行するチームはごく限られていて、ミドルプレスないしロープレスの守備が支配的だった。強豪と対戦するチームはロープレスを選択した。

 相手に引き切られてしまえば、強豪といえども得点は容易ではない。しかし一方で、自陣深く引いた守備から長い距離のカウンターアタックを成功させる力がないと、結局のところ、一方的に攻撃してくる強豪国に押し切られてしまう。守備では持ちこたえながらも、攻撃に決め手を欠いたために最後は強豪が生き残る形に収まった。

 撤退守備だけでなくロングカウンターを打てたメキシコがドイツを仕留め、それがドイツのグループリーグ敗退につながっている。逆に言うと、撤退守備で強豪を苦しめたチームは多かったものの、自ら勝ち上がれたのはメキシコだけで、唯一、姿を消した強豪がドイツだったという事実に符合する。

撤退守備への明確な答えを持っているスペインとブラジル

スペインは撤退守備を破る攻撃力があり、相手のカウンターをつぶす守備も確立されている 【写真:ロイター/アフロ】

 グループAはウルグアイの一強だった。前評判も実際もそうだった。ウルグアイは堅守速攻型の典型的なチームだが、今回はビルドアップにも進歩を見せている。相手のハイプレスをいなすパスワークを身につけてスケールアップしていた。

 グループBは二強のスペイン、ポルトガルが順当に突破したものの、内容はぎりぎり。ただ、スペインは32チームの中でブラジルとともに頭ひとつ抜きんでている。撤退守備を破る攻撃力があり、相手のカウンターをつぶす守備も確立されている。撤退守備攻略に関しては、サイドでボールをキープしてパスワークで突破できる力があった。突破が難しいときはやり直して執ように攻め続ける。パスワークのレベルは従来のサッカーを超えて、ハンドボールやバスケットボールに近づいていると感じられる唯一の存在だった。

 攻撃時にはセンターバックがハーフウェーラインを越えて敵陣に入っていて、そのために敵陣で相手のカウンターの芽を摘む守備ができる。ただし、どのチームもビルドアップ能力が軒並み上がったため、この守備方法にリスクがあるのも確か。とはいえ、スペインは撤退守備とカウンターに対して、攻守両面で明確な答えを用意している唯一のチームと言える。イラン戦では、相手が5−5−0の徹底守備を実行して苦戦、モロッコにも紙一重の勝利。最も完成度の高いスペインでもそうなったところにグループリーグの傾向が明確に出ていた。

 グループCはフランスが難なく突破。個々の能力は高いが、オーソドックスな戦術でスペインのような先進性はない。ただし、バンジャマン・メンディ、ジブリル・シディベといったスピードとパワーに優れたサイドバックが復調したのは好材料だろう。ゴール前で高さ強さのあるFWオリビエ・ジルーを生かしてパワーで押し切る体制が整いつつある。

 ユーロ(欧州選手権)2016でもすでに撤退守備に対する手詰まりは明らかになっていた。W杯ロシア大会はその2年前の課題に強豪国がどういう回答を出すかが焦点だったのだが、明確な答えを持っているのは今のところスペインとブラジルだけだ。ただ、フィジカルで押し切るというフランスのアプローチは2年前と同じながら一定の効果はあるだろう。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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