- 大野美夏
- 2018年6月27日(水) 10:30
コスタリカ戦後に泣きじゃくったネイマール

ワールドカップ(W杯)ロシア大会、ブラジル対コスタリカの一戦。あの90分間はまるでサッカー王国の人々が、W杯でセレソンの試合を見ていないのではないかと思えるほど静かだった。
しかし、ついにフィリペ・コウチーニョのゴールが決まった瞬間、『ゴール!』と叫ぶ人々の声とブブゼラの音があちこちで響き渡り、誰しもが固唾(かたず)を飲んで先制点をじっと待っていたことが分かった。そしてアディショナルタイム、この試合でも倒され続けていたネイマールが2点目を決めたと同時に試合終了。安堵(あんど)のあまり、思わず涙が出た。耐えに耐えて最後に勝利したことと、倒されても倒されても最後にはゴールを決めたネイマールの姿に感極まったのだが、これは14歳の誕生日にネイマールと出会ってから見守り続けている私の心の中に、自称「日本のお母さん」として母親的な視線が加わって、感情が溢れ出したものだった。
テレビ画面には、ピッチで顔を覆いながら泣き崩れるネイマールが映されていた。この光景を見るのは2年ぶりだ。
2016年リオデジャネイロ五輪の男子サッカー決勝戦、マラカナン・スタジアムでブラジルが宿敵ドイツを破って金メダルを取った時、試合終了とともにネイマールは泣きじゃくった。そして、それまで受け続けた批判に対して、「今度はみんなが僕の言うことを聞く番だ」とちょっとジョーク交じりに、しかし本気で言ったものだ。そして、「プレッシャーに耐えられないから、キャプテンはもうしない」と宣言をして……。
容赦がないサッカー王国のファン

あれから2年。ブラジルのスターとして、ネイマールに並ぶ選手はいない。当然、プレッシャーが減ることはなかった。それどころか、金メダルというこれ以上ないタイトルを取りながらも、より一層プレッシャーと批判は増えるばかりだった。この王国の人々から見れば、けがから復帰したばかりだの、ストッキングに穴が開いただの、倒されてばかりだの、「だからどうした?」にすぎない。W杯優勝しか認めないのだから。
ネイマールはその日のインスタグラムで「ここに来るまでどれだけ僕が厳しい道のりを歩いてきたかなんて、みんな分かっちゃいない。しゃべるだけならオウムだってできる。でも、実行できるのは、ほんのひと握りの人間だ。この涙は喜び、達成感、闘志、勝利への飽くなき欲望の涙だ。苦しいことはいっぱいある。でも、夢は続く。いや、夢じゃなくて目標だ。チームメートたちにおめでとうと言いたい」と批判に対してのメッセージを出した。
「3カ月半ぶりに実戦に戻ったばかりで、彼だって人間だ。元の状態に戻るのには時間がかかる。ネイマールに依存することがないように、チームのパフォーマンスを上げる必要がある」と、チッチ監督はネイマールをかばった。
しかし、王国の人々は容赦がない。ネイマールの良いプレーはあったが、自分へのファウル、自分に不利な判定にイライラを募らせ、無駄なイエローカードをもらい、審判に文句を言い、あわやレッドカードの危険さえあった。メンタルの不安定さがチームに悪い空気を伝染させ、良くない意味でも大いに貢献したと揶揄(やゆ)されている。
コウチーニョの活躍は希望になっているが、「自分にボールをよこせ、俺が決めてやる」というタイプの選手や、チームに喝を入れるような選手がいないことにも、不安の声が挙がっている。