リベロ酒井大祐が引退後の心境を語る 指導者として歩む、第2のバレー人生

米虫紀子

新リーグでは、全員にプロ意識が必要

酒井はプロ選手と社員選手にある意識の差を語る(写真は08年) 【写真:築田純/アフロスポーツ】

――プロ選手が少しずつ増えています。この状況をどうとらえていますか。以前、「プロ選手が増えなければいけないとは思わない」とおっしゃっていましたが。

 その考えは変わっていません。総合的に考えてプロになりたいならなればいいし、やっぱり安定は捨てられないという生き方ももちろんあると思います。

 バレーボール自体が企業スポーツ、アマチュアスポーツという中で、プロ選手と社員選手がいる。もちろん勝ちたいという気持ちはみんな一緒だと思うけれど、やっぱり1年という時間に対する対価は、どうしてもプロ選手の方がシビアになる。それは当たり前のことですが、その差が埋まってこないと、両方が可哀想だと思います。

 プロ選手は1試合1試合が給料に直結しますが、社員選手はそうではない。それなら違うところでそれに代わるものを見いだしてあげてはどうかと。そうすることによって選手たちのモチベーションやベクトルが、より近づくようになってもらいたいと思う。今年から新リーグで独立採算制になるのであれば、なおさら何か必要だと感じます。

――例えばチーム成績や個人成績を残すほど、何かが選手自身に返ってくるようなイメージでしょうか。

 そうですね。これからは全チームが考えていかなければいけないんじゃないかと思います。今後は自分たちでお客さんを呼ばなければいけない。それは事務局だけではなく、チームにいる人間全員でやらなければいけないし、選手の中でももっとできることがあると思う。それをすることが、自分たちがここにいる価値を見いだすことにもなるかもしれない。

 例えば試合にお客さんを何人か集めたら、チームがその選手を表彰していくらかの金額をバックするとか。そういうチーム運営に関わる部分でも、選手に返ってくるものが今後はあっていいと思います。

 よく、プロ意識を持とうという言い方をしますが、例えばプロ野球やサッカーのように、バレーボールもスーツ移動にするとか。1つ1つのプレーはもちろんですが、プロ意識はそういう普段のところからの方が生まれやすいんじゃないかと思うんです。移動中に電車に乗っていたら、「お、なんだ、あのスーツ着てる集団は?」となりますよね。見られているという意識が、プロ意識にもつながるんじゃないでしょうか。

ナンバーワンの指導者になりたい

酒井は“人”を大切にしながらナンバーワンの指導者を目指す 【写真:アフロスポーツ】

――これからは指導者という立場でバレー界に携わっていくわけですが、今後のバレー界にどうなってほしいと思いますか?

 それは難しい(苦笑)。そんな大きいことはあまり考えたことがないですけれど、危機感はあります。2020年の東京五輪後、24年のパリ五輪の時には日本のバレーボールはどうなっているのか。バレーだけでなくスポーツ全体が、東京五輪が終わったら衰退するんじゃないかと……。

 東京五輪まではスポンサーもついてくれますが、そのあとは一気に撤退するかもしれない。自分の会社やチームのことだけではなく、本当にそこはみんなが考えていかなきゃいけないことだと思います。

――サントリーのコーチとして指導者生活をスタートされました。今、意識されていることは?

 今までの自分の生き方はそんなに変えられないし、結局は対“人”だと思う。リベロの時も、人を動かさないと勝てないと思っていたし、今はもう自分が動いてプレーするわけではないので、よりいっそう話をして理解してもらえるよう意識していますね。まだ今は手探りですけれど(苦笑)。自分が選手だったときよりも、選手たちの顔は見ようとしています。「どう思ってるのかな?」と。

――いずれはどこかで監督を務めることが目標ですか? どんな指導者になりたいですか?

 なりたいと思ってはいます。そりゃあ、ナンバーワンの指導者になりたいですよね。日本で一番、1位になることが多いとか、勝たせられる指導者に。

 シーズンを戦っている間は別に嫌われていてもいい。好かれたいなんて思っていないし、この職業は孤独だと思っていますから。でも最後に勝った後や、負けたとしてもシーズンが終わった時に、「この1年、あなたとできて良かった」と思われるような指導者になりたいですね。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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