ロシアW杯で適用される3つの新ルール  テクノロジー導入で采配革命が起こる

清水英斗

電子機器の使用により“奇策”の効果は薄くなる?

電子機器の使用が許可されることで、采配の精度を高めるチームは間違いなく増えるだろう 【Getty Images】

 そして、電子機器の使用だ。18−19シーズンからは、携帯電話、タブレット、マイク、ヘッドフォン、スマートウォッチ、ノートPCなど、小型の電子デバイスをベンチに持ち込み、試合中に戦術的またはコーチングの目的で使用することが認められる。昨シーズンまでは選手の安全や保護の目的に限り、使用が認められていたが、その目的が拡大された。これも非常に大きな変化だ。

 ロシアW杯では、FIFAが各チームにタブレットを提供し、それらを観客席にいるテクニカルスタッフ、ベンチ入りしたコーチが使用できる。彼らのタブレットには、選手のトラッキングデータ、ポジショナルデータがリアルタイムに送信される。それを、例えば観客席のスタッフが分析し、図解してベンチのスタッフに送信したり、あるいは通信によって通話したり、チャットツールを使うことも可能だ。今回のW杯では、試合のトピックスとして、ベンチでタブレットを操作するスタッフにもカメラが向けられるだろう。

 この改正が、監督の采配にどのような影響をもたらすのだろうか。

 今までもハーフタイムにロッカールームで、分析データを用いることは可能だったが、今後はリアルタイムで采配にも生かすことができる。例えば、コンディションに不安のある選手のトラッキングデータを常に監視し、できる限り早い交代を実現したり、あるいは同じことを相手チームの選手に対して行い、弱点をあぶり出してみたり。ポジショニングを崩す選手、あるいはポジショニングに一定のパターンがある選手。自分たちの変化、相手の変化……。リアルタイムデータを生かし、采配の精度を上げるチームは間違いなく増えるだろう。ロシアW杯では、采配革命が起こる。

 “奇策”と呼ばれる采配も、今後は効果が薄くなるかもしれない。その狙い、ポジショニングは、あっという間に分析される。奇策の効果は1分持つかどうかだろう。あるいは奇策を打たれる前に、戦術的欠陥に手当てされてしまうかもしれない。そう考えると、この采配革命が成熟された場合、今後のサッカーは監督の力量差が出づらくなり、より個人の能力にフォーカスされるかもしれない。リアルタイム分析サッカーが成熟すれば、その展開は充分にあり得るだろう。

監督が退席処分を受けた場合にも影響が……

このサッカーの変化に、日本代表はどう適応するのだろうか 【写真:ロイター/アフロ】

 かつてはベンチ内での電子機器の使用は制限されていた。それは主に、八百長(fixed match)を防ぐためだ。極端な話をすれば、試合中にベンチ内のスタッフや監督に、身内を誘拐したとの脅迫の電話が入れば、そこで八百長が成立してしまう。そのようなリスクを避けるために、これまでベンチ内での電子機器の利用は認められていなかった。

 ところが、昨今のテクノロジーの発展の前には、制限しようにも限界がある。例えば、ウェアラブルデバイス(手首や腕などに付けるデバイスのこと)。スマートウォッチを着け、それをコーチング目的のためにこっそりと使用されてしまえば、監視しようにもし切れないし、規制にも限界がある。それなら、オープンな状態で監視したほうがいいというわけだ。

 もともと電子機器を戦術的な目的で利用することに、何か問題があったわけではない。隠れてやられるとリスクが増えるため、今後は公に認めることで、方法ではなく、行動の内容をチェックする方針に切り替えた。欧米らしい合理的な考え方だ。

 今後は監督が退席処分を受けたケースにも影響が及ぶ。例えば、監督が観客席へ移った場合、あるいはスタジアムの外に出た場合でも、電子機器による通信を使って指示を出すことが可能になる。やや釈然としないが、それもOKにしようということになった。最も導入が難しい競技と言われたサッカーにおいて、ビデオ判定が可能になったことを含め、昨今のテクノロジーの発展が、背中を押していることは確かだ。

 翻って、このサッカーの変化に、日本代表はどう適応するのだろうか。西野ジャパンは選手の高齢化が指摘されているが、高齢化しているのはコーチ陣も同じこと。データや電子デバイスに親和性の高い世代が頭角を現すことは、今後の日本サッカーを発展させるキーファクターになりそうだ。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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