好調ホッフェンハイムを支える「脳トレ」 29歳ナーゲルスマン監督の目指すスタイル
昇格後、初めてバイエルンに勝利!
バイエルン相手に初勝利を挙げたホッフェンハイム。4月4日は歴史的な日になった 【Getty Images】
人口約3200人の「村」のクラブは、2008年に初めてブンデスリーガに昇格して以来、1度もバイエルンに勝ったことがなかった。それがついに、アンドレイ・クラマリッチのゴールによって1−0で勝利したのだ。ホッフェンハイムにとって、ブンデス100勝の節目でもあった。
試合後、ホッフェンハイムを率いるユリアン・ナーゲルスマン監督に、ある質問が飛んだ。もしバイエルンからオファーが来たら、どうするかと。これまでその手の問いはユーモアではぐらかしてきた29歳の指揮官も、ついに野心を口にした。
「もしいつかバイエルンが問い合わせをしてきて、自分の状況が合えば、もちろん就任を考えたい。それが論理的な判断だ」
ホッフェンハイムは3位(第27節終了時)の座を守り、クラブ史上初のチャンピオンリーグ出場へまた1歩近づいた。
攻撃的なポゼッションスタイルを確立
開幕から4試合連続ドローと苦しんだものの、前半戦は無敗で乗り切った 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】
一方、そのブレイクの陰で、地道に順位を上げ続けてきたのがホッフェンハイムだ。開幕から4試合連続ドローで苦しんだが、第5節でMFのケビン・フォクトを3バックの中央にコンバートしてシャルケに勝利(2−1)すると、前半戦を無敗で乗り切った。13勝12分け2敗と引き分けが多いのは気になるところだが、この数字は守備を固めず打ち合いを好むからでもある。失点をしても追いつくだけの得点力があり(得点数はバイエルン、ドルトムントに次いでリーグ3位タイ)、攻撃的なポゼッションスタイルは、バイエルンのウリ・ヘーネス会長もほめるほどだ。
もともとホッフェンハイムは、ラングニックが土台を築いたこともあり、カウンターサッカーが基本だった。昨年2月、クラブが降格危機に陥り、ナーゲルスマンが当時28歳で火中の栗を拾ったときも、カウンタースタイルを継続した。
だが、あくまでそれは残留を果たすための、一時的な選択だったのだ。昨夏、ナーゲルスマンは初めて長い準備期間を手にすると、ポゼッションサッカーを追求し始めた。初めは苦労したが、今では新スタイルとして確立されている。
「4人のパッサー+6人のレシーバー」
ナーゲルスマン流ポゼッションサッカーの基本システム 【スポーツナビ】
アンカーをドイツ代表に復帰したセバスティアン・ルディが務め、その前のインサイドハーフは左にナディエム・アミリ、右にケレム・デミルバイ。両ウイングバックは左がスイス代表のシュテフェン・ツーバー、右がチェコ代表のパベル・カデジャベク(もしくはジェレミー・トルヤン)。そして2トップはザンドロ・バグナーと、クロアチア代表のクラマリッチ(もしくはマルク・ウート)だ。
彼らの特徴は、攻撃のスタートからすでに見て取れる。GKオリバー・バウマンがDFラインにボールを渡すと、いくら激しくプレスをかけられても3バックとアンカーの4人が執拗(しつよう)にビルドアップを試み、クリアをしない。相手もそれを分かっているのでルディをつぶしに来るが、ルディは斜め方向にボールを流すフリックなどを使ってプレスをかわす。途中から相手が嫌になってプレスをやめるのが、お決まりの展開だ。
と言っても、彼らはショートパスによってチマチマとボールを回すタイプのポゼッションではない。3バックとルディがプレスをかわしている間、前線の6人がフリーランニングを繰り返してかき回し、そこへロングパスを通す。各駅停車のパスではなく、「人を飛ばす」急行のパスだ。「4人のパッサー+6人のレシーバー」というイメージである。中央をえぐるようなパスが通ったら、一気に全員が前へ走り、少ないタッチのパス交換で崩す。とにかく静から動へのスイッチがすごい。
ナーゲルスマン監督はフォクトの役割を、アメリカンフットボールのクオーターバックにたとえる。
「フォクトは視野が広く、フリーのスペースを見つけることができる。たくさんボールを触り、たくさんボールを配給する、クオーターバックのような役割だ」
MFからのコンバートによって新境地を開いたフォクトは、「ナーゲルスマン監督のアドバイスによって変わることができた」と感謝する。