さらばラ・リーガの偉大なクラックたち ワンクラブマンの時代にも終わりのとき

各クラブを去りゆく古参の英雄たち

アトレティコ育ちの英雄F・トーレスも愛するクラブに別れを告げた 【写真:ロイター/アフロ】

 同じ試合を最後にレアル・ソシエダひと筋だったキャリアに幕を下ろしたシャビ・プリエトも、最終節の主役の1人だ。スペクタクルな演出の中でイニエスタとの別れを惜しんだカンプ・ノウのファンは、スペインフットボール界が生んだ偉大なクラック(名手)の1人である彼にも、盛大な拍手を送っていた。

 カンプ・ノウがイニエスタコールに包まれる2時間と少し前、ワンダ・メトロポリターノではアトレティコ・マドリーのアイドル、フェルナンド・トーレスが別れを迎えた。その数日前にヨーロッパリーグ(EL)を制し、アトレティコの選手として悲願の初タイトルを手にした彼は、ネプトゥーノの泉で行われた祝勝会でも涙ながらに喜びを語っていた。

 クラブの混迷期に若くしてエースの重責を担った“エル・ニーニョ”は、当時深刻な経営難に瀕していたクラブを救うべく、23歳の時に多額の移籍金を残してプレミアリーグへ移籍した。そしていつか戻ると公言していた通り、黄金期を過ごすクラブに復帰したのが15年1月のこと。その後はピッチ上で結果を出すことで契約延長を勝ち取ってきたが、今季は出場機会が激減していた。

 レガネスでは、3部時代からの生き残りである主将のマルティン・マントバーニ、そして同じく5シーズンにわたってチームを率いたアシエル・ガリターノ監督が退団する。

「渡り鳥」キャリアが当たり前の時代

元バルサのネイマールにはパリ経由マドリー行きのうわさが根強い 【Getty Images】

 金満クラブの行き過ぎたオファー攻勢により、近年は所属クラブを転々とするキャリアが当たり前になっている。そのような背景の下、ジャンルイジ・ブッフォンのユベントス退団を含めた先週末の別れの光景は、特定の選手がいちクラブを象徴する時代が終わりに差し掛かっていることを示していると言えた。

 その意味で現在のラ・リーガには2つの象徴的な例がある。1つはネイマールだ。

 昨夏にバルセロナからパリ・サンジェルマンへ電撃移籍したブラジル人クラックは、今夏のレアル・マドリー移籍が長らく報じられてきた。この件についてはさまざまな反応が出ており、バルセロナひと筋のキャリアを貫くメッシは「ネイマールがレアル・マドリーの選手になったら恐ろしいことだ」とコメントしている。

 もう1つの例はアントワーヌ・グリーズマンだ。先日のEL決勝マルセイユ戦で2ゴールを挙げ、タイトル獲得の立役者になったばかりの彼は、来季からバルセロナでプレーすることが確実視されてきた。アトレティコは全力で彼の引き止めに努めているが、悲願のビッグタイトル獲得も、ファンや関係者の愛に包まれた環境も、彼の意思を揺るがす決定打になるかどうかは分からない。

 1つのユニホームに愛着を抱き、少なくともライバルクラブでプレーすることなどあり得ないと考える「ワンクラブマン」の時代は終わりを迎え、新たな考え方が主流になろうとしている。寂しいことだが、それが現実なのだ。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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