イニエスタの退団でバルサはどう変わる 優勝ゲームで垣間見えた来季のイメージ

「イニエスタ後」のバルサをイメージ

イニエスタは、自身9度目のリーグ優勝を決めたデポルティーボ戦でスタメンには入らなかった 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 過去10年間で7度目のリーグ優勝を決めたデポルティーボ戦にて、バルセロナの監督エルネスト・バルベルデは2人のボランチの両脇にフィリペ・コウチーニョとウスマン・デンベレを配置し、前線にリオネル・メッシとルイス・スアレスを並べるシステムで試合をスタートした。

 バルベルデがラコルーニャでアンドレス・イニエスタを先発起用しなかった理由は、彼が今季終了後に退団する意思を発表したことと無関係ではないだろう。フエンテアルビージャが生んだ“頭脳”が不在の11人は、来季のバルセロナの姿をイメージさせるものだった。

 この日3ゴールを挙げてゴールデンシュー(欧州得点王)争いの首位に立ったメッシの活躍により、バルセロナは一週間前に制した国王杯とラ・リーガの2冠を獲得した。だがイニエスタを失う今後は、これまで10年以上も維持してきた基盤となるプレーシステムを変えることになるかもしれない。

 トップチームの主力として定着して以降、イニエスタはフットボールにおける最も難しい役割の1つを担ってきた。スピードの重要性が増し、ユニホームの下に計測機械を装着してまで走行距離を重んじるようになった近年はますます難しくなってきた。その役割とは、より確実にボールを前に運ぶため、数秒間ボールを保持して周囲が考える時間を作ること、いわゆる「タメ」を作るプレーである。

 イニエスタはメッシとポジションを争うライバルになることなく、メッシの生かし方を熟知した最良のパートナーの1人であり続けてきた。創造性やタレント、タメ、パスの精度、ゲームコントロールといった要素をチームに加えてきたイニエスタに対し、メッシはひらめきと高精度のフィニッシュ、ゴール前のラスト数メートルにおける崩しのプレーを担ってきた。そのメッシができる限り相手ゴールの近くでボールを受けられるようサポートしてきたのは、他でもないイニエスタだった。

 イニエスタが退団する来季以降、バルセロナはメッシが必要以上に低い位置までボールを求めて降りてくることがないよう、何らかの解決策を見いださなければいけない。そうでなければ、今まで以上に長い距離を上下動しない限り、メッシはこれまで通りゴールに直結するプレーを連発することができなくなるだろう。

今後は縦に素早くボールを運ぶことを優先?

 だがそれもイニエスタがいなくなれば、今よりずっと難解な問題となるだろう。メッシにイニエスタの役割を委ね、コウチーニョをメッシのポジションで起用するような大きな戦術的変更を行うのならば話は別だが、そうでなければ来季のバルセロナは先週末にラコルーニャで見せたものとほとんど変わらないシステムでプレーすることになるはずだ。

 ドブレピボーテ(ダブルボランチ)を組むセルヒオ・ブスケッツとイバン・ラキティッチが攻守のバランスを取り、2トップの一角を担うメッシと左サイドのコウチーニョが実質的にメディアプンタ(トップ下)としてプレーし、デンベレは右サイドで深みを取り、スアレスが1トップを務める形である。

 このシステムでは攻撃専門のアタッカーを4人も併用する上、左サイドバックのジョルディ・アルバも実質的にはウイングとしてプレーすることになる。それでもデポルティーボ戦がそうであったように、現在のバルセロナは数年前までのようにボールポゼッションで圧倒しながら美しい連係プレーを繰り出すことを最優先するのではなく、より効率的にゴールを奪うことを重視するようになっている。

 横パスを多用し、タメを作りながら考えてプレーしていた時代はイニエスタの退団とともに終わりを迎え、今後は縦に素早くボールを運ぶことを優先した、全く異なるスタイルへと傾倒していくことになるかもしれない。パウリーニョを起用して中盤の守備力を強化しない限り、そのようなスタイルでは攻守が目まぐるしく移り変わるハイリスクなカウンターの応酬を招くことになる。それでも大抵のライバルを上回る得点力を有するバルセロナには、それが自分たちに有利な結果をもたらす自信があるのだろう。

今季の結果は見方次第

バルセロナはイニエスタを失った後も伝統のプレースタイルを維持しつつ、進化させることができるのだろうか 【写真:ロイター/アフロ】

 勝ち点より誇りをかけた戦いとなる今週末のエル・クラシコが残る最後のビッグゲームとなった今季は、バルセロナにとって良いシーズンだったと言えるだろうか。

 それは何に価値を置くかで変わってくる。ラ・リーガと国王杯の2冠獲得という点では、もちろん素晴らしいシーズンだったと言うべきだろう。だがローマにショッキングな形で逆転負けしたチャンピオンズリーグでの失態は、その喜びを半減させることになった。必要以上に守りに入ることなく、的確な選手交代ができていれば、より3冠獲得に近づくことができていたはずだからだ。

 それでも今季のラ・リーガ優勝は然るべき結果であるだけでなく、シーズンを通してライバルすら見当たらなかった印象を残した。レアル・マドリーは早々に脱落し、アトレティコ・マドリーもバルセロナのペースについていくことができなかった。極めて安定したパフォーマンスを維持し、34試合を終えていまだ無敗を維持しているという事実は、今季のバルセロナの優位性を雄弁に物語っている。

 これまでそうであったように、バルセロナはイニエスタを失った後も伝統のプレースタイルを維持しつつ、進化させることができるのか。それともわれわれは今、異なるスタイルへの移行期に立ち会っているのか。

 歓喜に沸くファンの傍らで、バルセロナはアイデンティティーに関わる難題に直面している。その答えが分かるまでには、もうしばらく時間がかかりそうだ。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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