川崎ブレイブサンダースはどう変わるのか 東芝からDeNAへ受け継がれる伝統

大島和人

大企業から新興IT企業へ

2017−18シーズンをもって、東芝が川崎ブレイブサンダースの経営から退くことが決まっている 【(C)B.LEAGUE】

 Bリーグ屈指の強豪である川崎ブレイブサンダースのオーナー企業が、2018−19シーズンから変わる。東芝からクラブを承継し、運営に乗り出すのはDeNA。このIT企業は2012年にプロ野球へ参入し、横浜DeNAベイスターズを急成長させた実績を持つ。

 川崎は東芝時代から日本屈指の強豪で、NBLのラストシーズン(15−16シーズン)を制している。旧NBLクラブの中ではもっとも企業チーム色が強く、日本人選手は全員が正社員採用だった。地域密着、エンターテインメント性の追求といった発想はなく、社員の士気高揚を最大の目的としていた。東芝の運動部を統括し、クラブの初代社長も務めた荒木雅己は「スポーツを通じて将来的に会社へ貢献する人材になる過程という位置付けだった」と実業団時代の理念を説明する。

 東芝はグループの経営が厳しい状況下で、Bリーグの開幕を迎えた。Bリーグへの入会申請は15年4月に行っていたが、クラブが営業やファンサービスなどの体制整備を始めたのは16年4月。新リーグの開幕まで半年を切った時期だった。東芝は不適切会計問題が15年7月に発覚し、経営に深刻な影響を及ぼしていた。廃部も含めた「最悪の事態」を念頭に入れる必要があり、体制作りは後手を踏んだ。

 それでも川崎は東芝人事・総務部スポーツ推進室のメンバーを中心に、当初はノウハウもない中で、短期間でプロクラブへの大転換を果たした。開幕からの2シーズンで、とどろきアリーナの空気は劇的に変わった。キャプテンの篠山竜青はこう胸を張る。

「一昨年くらいまでは栃木(ブレックス)や千葉(ジェッツ)みたいなアリーナにはなれないだろうなという気持ちでした。それが昨シーズンからそこが目標に変わって、今シーズンは対等になった。Bリーグ屈指のアリーナになってきている自信があります」

平均入場者数は右肩上がり

今季は強豪ぞろいの東地区で3位となり、千葉とのチャンピオンシップ1回戦で敗れた。しかし、平均入場者数は右肩上がりを続けている 【(C)B.LEAGUE】

 17−18シーズンの川崎は強豪ぞろいの東地区で僅差の3位となり、千葉とのチャンピオンシップ準々決勝で激闘の末に散った。ただアウェーの「圧」の中で、川崎のファンも負けずに声を上げていた。ホームゲームの平均入場者数も昨季が144%増、今季が25%増と右肩上がりを続けている。川崎は企業チーム時代からエンターテインメント性を徐々に高め、「市民、ファンが支える開かれたクラブ」へと踏み出した。

 荒木社長が「今考えると勝手なプロ化を想像して、勝手に反対していた。DeNAさんに(クラブの経営権を)渡すとなって思うのは、プロ化をもっと早くやっておけばよかったということ」と反省するように、東芝側にも「やり残したことがある」という悔いがあるのだろう。しかし選手のキャリア、クラブの発展を考えれば、今回のオーナーチェンジは成長を加速させるいい契機になり得る。

 バスケ事業に関する東芝とDeNAの承継交渉が始まったのは17年7月だった。東芝は立て続けに2度の「激震」に見舞われ、15年の不適切会計問題に続き、17年2月にも原子力事業に関する巨額損失が表面化していた。

 企業スポーツは親会社の経営や統廃合に存続を左右される不安定な形態だ。川崎が実業チームのままならば、日本鋼管や住友金属、熊谷組といった古豪のように休廃部となっていたかもしれない。しかしBリーグ発足とともに法人として独立し、経営の「バトン」をスムーズに渡せる状態になっていた。

「全員一致で野球の次はバスケ」

DeNAバスケットボールの社長として川崎の運営を引き継ぐ元沢は、「全員一致で野球の次はバスケ」と決まったと話す 【スポーツナビ】

 DeNAは既にベイスターズで成功を収めている。彼らは球場の施設、演出、飲食などを見直して投資を行い、サービスとして魅力を高めた。投資に見合ったリターンを得る成功のサイクルも実現している。横浜スタジアムではトイレの改装といった身近なところから、大型ビジョンや音響の活用といったショーアップに至るまで、お客が快適に時間を過ごすためのさまざまな手が打たれた。快適性やエンターテインメント性を向上させる「腕」は、彼らが日本のプロスポーツ界の中でもトップに位置している。

 DeNAバスケットボールの社長として川崎の運営を引き継ぐ元沢伸夫は、バスケ界進出についてこう述べる。

「野球の次はバスケをやりたい。私も含めて、DeNAのスポーツに関わっている主要なメンバーが全員一致でそう考えていました。グローバルスポーツの中で、日本においてこれだけ伸びしろがあるものは他にない。そんな遠い将来の話でなく、数年くらいの中で爆発的に成長すると思っています」

 一方で元沢は「ベイスターズのやり方を100パーセントそのままやったら、100パーセント失敗します」と語り、野球とバスケの違いも強調する。彼はクラブの継承が発表される前後から、プロバスケの現場観察を続けていた。元沢は言う。

「(川崎の)ホームゲームは100パーセント行っています。お客様に混じって、2階の隅だったり、1階のゴール裏だったり、いろいろな席でこっそり見ています。Bリーグの主要なクラブはほとんど見ましたし、クラブによっては何回も見ました。NBAにも3月に10日間くらい行きました」

 元沢は現場でファンの「生の声」や「リアクション」にアンテナを張っていた。しかも彼の興味関心はバスケや野球、サッカーにとどまらない。

「1月4日は必ず新日本プロレスを見ますが、あれは非常に参考になりますね。ビジョンなど映像を使った演出がものすごいですし、音楽とか、盛り上げ方とか、非常に参考になります。他にも桑田佳祐さんのライブに行ったり、最近だとワンオク(ONE OK ROCK)のライブに行ったり、いろいろなフードイベントに行ったり……。一見するとそんなに関係ないと思われるかもしれませんが、いろいろな引き出しを増やして、自分たちなりにかみ砕いて取り入れるケースが多いです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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