川崎ブレイブサンダースはどう変わるのか 東芝からDeNAへ受け継がれる伝統

大島和人

ハード面の課題は「オペレーションの問題」

ハード面の課題は「オペレーションの問題」「DeNAが非常に得意としているところ」と元沢社長は自信を見せた 【(C)B.LEAGUE】

 アリーナを夢の空間に一変させるクリエーティブの製作について、元沢はこう述べる。

「議論を朝から晩までしています。議論が楽しくて終わらない」

“ベイスターズ流”をそのままは持ち込まなくても、取り入れられる要素は当然ある。元沢は「大型ビジョンを使ったお客さんを巻き込んでのイベントや演出は、DeNAが非常に得意としているところ」と一例を挙げる。

 とどろきアリーナはあくまでも公共の体育館で、ビジョンや音響などの施設が完備しているわけではない。飲食や物販のスペースも限られている。しかしそういう施設でのやりくりも、元沢たちがベイスターズで学んできた部分だ。彼はこう自信を口にする。

「横浜公園と横浜スタジアムはプロ野球の中ではキャパシティも非常に小さく、(スペースの)余裕が全くない状態です。そこはオペレーションの問題で、とどろきアリーナにおいても、ここにグッズショップを置く、ここに飲食を置くといったレイアウトと、どうお客様に並んでいただくかという導線のコントロールがすごく重要です。ベイスターズで非常に狭いところでやってきましたから、ノウハウがあります」

 元沢が「いろいろと練り込まないといけない」と言及するのがSNSを中心としたウェブ戦略だ。ベイスターズもプロ野球界の中ではSNSの運用を積極的に行っている球団だが、Bリーグではさらなる攻めが必要になるという。

「もっといろいろなツールで、頻度も多く、もしかしたらコミュニケーションの内容ももっとカジュアルなスタイルで……。距離もファンと近い状況にあるような存在の方がいいのではという感覚を持っています」

 集客面で大きなポイントとなるのは試合の開催日だ。川崎は主に「金土」でホームゲームを組んでいた。これは施設の需要が多い週末を1日空けるという市側への配慮だったが、やはり「土日」がベターだろう。16‐17シーズンからすでに交渉はスタートしていたこともあり、元沢は「今まさに川崎市さんと日程の話をしているところです」と述べる。

 元沢はDeNAの社風をこう説明する。「私たちはIT企業ということもあり、比較的攻めますし、従来型のやり方を必ずしも良しとしません。『良質な非常識』という言葉を使っていますが、常にまずは現状を疑う、もっと良い方法がないかと考えるカルチャーはわれわれのやり方です」

充実した体制づくり

DeNA側からは元沢をトップに15人前後がバスケ事業に関わっており、そこに現体制からのメンバーも合流するという 【スポーツナビ】

 IT企業の特徴といえばもう一つはスピード感だろう。元沢は改革のスケジュールについてこう口にする。

「市場環境が変わるという認識なので、3年くらいのスパンで考えないといけません。ベイスターズも6シーズン目ですが、5年前と今では全く異なります。2年目くらいには、基本的にどの試合も満員になるぐらいの集客をしたい。それくらいのコンテンツを、試合そのものと別に僕らがエンターテインメントとして作っていかなければいけない」

 DeNA側からは15人前後がバスケ事業のスタートアップに関わっている。ベイスターズ出身者に加えて、ゲームなどスポーツ以外のエンターテインメントに携わっていた人材も含まれている。そこにシーズンを終えた現体制からのメンバーも合流し、来季の体制が完成する。

 Bリーグクラブの中ではかなりの大所帯だが、元沢は「最低限やりたいことを実現する人的リソースを考えると、どうしてもそのくらいの人数になる」と述べていた。それだけの人材を使い、コンテンツへの投資も行って、質を上げてリターンにつなげる。飽きっぽい観客をつなぎとめるため、常にブラッシュアップを続ける。川崎をベイスターズと同じように飛躍させるなら、確かにそういう攻めの姿勢は必須だ。

新生川崎のお披露目はもう間もなく

チームの愛称、ユニホームカラーに変更があるのか。新生川崎のお披露目はもう間もなくだ 【(C)B.LEAGUE】

 Bリーグが「見るスポーツ」として野球やサッカーのように定着しているかといえば、それは違う。エンターテインメント性を追求するためには施設的な壁も高い。だからこそDeNAはそこにチャンスを見いだしている。元沢はこう言い切る。

「課題があるから、それを解決するために私たちが呼ばれたと思っています。いろいろなアンケートを取っていますが、バスケにはかっこいいポジティブなイメージがあります。しかし観戦の楽しみを皆さんが知らない。それは僕たちにとって最高の状態です。しかも私から見るとコントローラブルな、解決できる課題です」

 チームの愛称、ユニホームカラーに変更があるのか、それとも変わらないのか……。そこはファンにとって大きな関心事だが、チャンピオンシップ終了後の正式発表を待つことになる。そもそも「新生川崎のお披露目をどうするか」「どうインパクトを出すか」という部分からすでに彼らの戦いは始まっている。元沢はこう強調する。

「わくわくさせるネタは仕込んでいますが、ちゃんとした言葉とイメージはもう少しお待ちください。その伝え方が大事で、そこからエンターテインメントは始まっています。そこから楽しんでいただきたいと思います」

 伝統のバトンは歴史と伝統ある大企業から新興IT企業に引き継がれ、新しいチャレンジがスタートする。Bリーグが誕生し、東芝がプロ化を成し遂げたからこそ味わえる期待感だ。DeNAの参入は、Bリーグが提唱する「夢のアリーナ」実現に向けた強いブーストになるだろう。(文中敬称略)

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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