攻撃権を多く消化する“ツジーカス” 最強コンビが川崎を悲願の優勝へ
攻撃権の約半数を消化するコンビ
【(C)B.LEAGUE】
敵が投じる槍をはじき返す守備に、相手の牙城を溶かすほどの烈火を浴びせる攻撃力、まるで川崎というチームは鋼のように硬いうろこをまとい、口から炎を噴く2つ頭のドラゴンのようなチームだ。失礼、ファンならば誰もが口から吐くのは“稲妻”だと言うに違いない。
Bリーグ初年度のMVPにして得点王のニック・ファジーカスと日本代表SG辻直人の2人“ツジーカス”は、一度対戦すれば相手にトラウマさえ植え付けてしまう川崎の強力な攻撃を司るコンビだ。出場時間とフィールドゴール(=フリースロー以外によるシュート、以降FG)試投数の多さがBOXスタッツ誕生以降、選手の信頼度を測る主な指標として活用されてきた。しかし、統計学的分析がますます流入してきた現代バスケットボールにおいては、選手がどのくらいチームの攻撃権を「消化」したか、という測り方も誕生した。
今回、川崎の攻撃権の内、何%が2人のFG・フリースロー・アシスト(AST)・ターンオーバーで終わったかを算出した結果、ファジーカスと辻はCS進出チームに所属する2選手の合計で圧倒的1位となる48.43%だった。次に多い三河でも42.3%であることからも、川崎の攻撃の半分近くが2人によって完結するインパクトの大きさを感じていただけるだろう。しかし、勘違いしてはいけない。チームのFG成功にASTが付く割合はCS進出中2位だった昨季に続いて、今季も3位と非常に高く、セルフィッシュからはかけ離れている。
「インサイド」だけではないファジーカス
今季これまで283回ポストプレーからシュートに持ち込んだファジーカスは最終的に右手で打つことを好み、対戦相手もそれを知りながらも、その精度は衰えることを知らない。しかし、ファジーカスをリーグで最も抑えにくい選手にしているのは「インサイド」だけではない。むしろコート上で彼が放つシュートに悪いシュートはないと言い切れるほどの「レンジ(シュート範囲の広さ)」と長身選手には似つかわしくない柔らかくしなやかな「タッチ」が、彼の存在を特殊なものにしている。
実際250回以上ポストプレーを試みた選手で、彼が決めた55本を上回る3ポイントシュート成功数を上回る選手はいない。Bリーグが定める3ポイントシュートランキングでは90本以上の成功が条件となっているが、彼の成功率42.3%は現時点でリーグトップにランクされている選手を上回る。リングを正面に捉える角度での3ポイントシュートの精度は27/51=52.9%と手がつられない。リング周りと3ポイントシュート、現代バスケで最も効率が高いと言われるエリアをこれだけ高いレベルで制圧できる選手は他にいない。
インサイドも長距離も阻止したとしてリーグ平均成功率が37.8%と効率が悪い、長めのペイントからシュートを打たせることに成功したとしよう。ファジーカスは決して素早いとは言えないステップを踏みながら、あざ笑うかのように67.5%の確率でふわっと浮かせ、長く伸びた守備の手の上を通過する「フローターシュート」をリングにもこすらず決めてしまう。
辻にボールの有無は関係ない!?
さらに厄介なのは、“ツジーカス”は1つの胴体でつながっているという事実だ。ファジーカスがピック&ロールのスクリーナー=つい立て役を果たせば、相手の守備は崩壊する。ファジーカスを意識し過ぎれば、辻が先ほどの200回以上ピック&ロールから自らのシュートに持ち込んだ日本を代表する猛者ひしめく選手16人中2位の得点効率をさらに伸ばす結果になるだろう。
では3人目のディフェンダーを送れば……。ファジーカスと辻、それぞれ2.8本と4.4本あげるアシストを逆サイドの味方に展開するだろう。
ピック&ロールという基本戦術は非常に守りにくく、数的優位を作るのに最も有効な戦術とも言える。これを守ろうとすると、守備側は大なり小なり何かを明け渡すことになる。あらためて他のビッグマンが持ち合わせないファジーカスの3ポイントシュートの精度を考えると、下がって守る機動力の乏しい相手Cは焼け焦げてしまう。CSが繰り広げられるコート上に雷鳴が轟いた時には時既に遅しということだ。ブレイブサンダースという名の双頭のドラゴンが全てを焼き尽くしに来る。
※データはすべて第27節終了時点のものです。
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