ブラジルにとって痛すぎるアウベスの離脱 層の薄い右SB、攻撃力が半減する恐れも

沢田啓明

38個目のタイトルを手にした試合でアクシデント

自身38個目のタイトルを手にした試合で右ひざの前十字靱帯を損傷したD・アウベス 【写真:ロイター/アフロ】

 2月末に右足首を故障して欠場を余儀なくされ、スタンドで試合を見つめていたネイマールが頭を抱えた。

 現地時間5月8日、パリのスタッド・ドゥ・フランスで行われたフランスカップ決勝のレ・ゼルビエvs.パリ・サンジェルマン(PSG)の80分。PSGの右サイドバック(SB)、ダニエウ・アウベスが自陣で相手選手を追いかけていてステップを踏み間違え、ピッチに倒れた。苦痛に顔をゆがめ、右ひざに手をやる。足を引きずりながら、86分にピッチを後にした。

 それでも、2−0で試合が終わると再びピッチに戻り、笑顔でチームメートと優勝を喜んだ。世界最多となる自身38個目のタイトルを手にしたのだ。この時点で、彼に非常事態が発生した気配はなかった。しかし、その夜、パリ市内の病院で検査を受け、右ひざの前十字靱帯(じんたい)を損傷したことが判明。翌日、再検査を行い、PSGは「手術をする必要があるかどうか、現時点では不明。3週間後(5月末)に検査をしてから治療方法を決める」と発表した。さらに、ブラジル代表のドクターがパリへ向かい、11日に患部の状態をあらためて診察。「手術が必要で、全治約6カ月」と判断し、チッチ監督に電話で伝えた。監督は絶句したが、ドクターの判断を尊重するしかなかった。

チッチ監督からの電話に涙ぐむ

チッチ監督(右)からの電話を受け、アウベスは言葉を失い、涙ぐんだ 【写真:ロイター/アフロ】

 アウベスの2010年、14年大会に続くワールドカップ(W杯)への3大会連続出場、そしてW杯優勝の夢は絶たれた。代表での通算試合数が107と現役選手の中で最多の35歳にとって、これがキャリア最後のW杯となるはずだった。

 チッチ監督は、ブラジルからパリのアウベスへ電話をかけた。「これまでの君の代表への貢献に深く感謝している」と前置きして、「監督として、君のような優れた選手、偉大なリーダーをW杯へ連れて行けないのは断腸の思いだ」と告げた。これを聞いたアウベスは、言葉を失い、涙ぐんだ。しかし、やがて気を取り直すと、監督の心遣いに感謝し、「僕の故障のせいで、あなたにもチームメートにもネガティブな気持ちになってもらいたくない。僕のエネルギーをロシアへ持って行ってほしい」と気丈に話した。

 ブラジル代表では、エースのネイマールが2月末の試合で右足首を骨折して手術を行い、約2カ月のリハビリを経て練習を再開したばかり。それに続く主力選手の故障だった。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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