ブラジルにとって痛すぎるアウベスの離脱 層の薄い右SB、攻撃力が半減する恐れも

沢田啓明

ほぼメンバーが固まっていたブラジル代表

2月末に負傷したネイマールは順当に23人の登録メンバーに選ばれた(写真は4月のもの) 【写真:ロイター/アフロ】

 5月14日、チッチ監督はW杯ロシア大会の登録メンバー23人を発表した。この日は予備登録メンバー35人のリストをFIFA(国際サッカー連盟)に提出する期限だったが、一気に登録メンバーを明らかにしたのである。

 セレソンは、南米予選と強化試合を通じて、ほとんどのポジションでレギュラーと控えが固まっていた。未定だったのは、第3GK、右SBの控え、センターバック(CB)の4番手、左SBの控え、ボランチの3番手、センターFW(CF)の3番手の6人。いずれも控え、もしくは「控えの控え」という位置づけで、大きなサプライズはなかった。右SBのポジションには、これまでアウベスの控えだったダニーロ(マンチェスター・シティ)とファグネル(コリンチャンス)が選ばれた。

 現時点のレギュラーは、フォーメーションが「4−1−4−1」で、GKはアリソン(ローマ)、最終ラインが右SBにダニーロ、CBはチアゴ・シウバ(PSG)とミランダ(インテル)、左SBにマルセロ(レアル・マドリー)。アンカーがカゼミーロ(レアル・マドリー)、2列目が右からウィリアン(チェルシー)、パウリーニョ、コウチーニョ(ともにバルセロナ)、ネイマールでCFはガブリエウ・ジェズス(マンチェスター・C)となる。ただし、これは対戦相手が守備を固めてくることが予想されるグループリーグ3試合の場合で、決勝トーナメント1回戦以降、対戦相手がより攻撃的にプレーすることが予想される試合では2列目のコウチーニョのところにボランチのフェルナンジーニョ(マンチェスター・C)を入れて守備を強化し、コウチーニョは2列目右サイドに回る可能性が高い。

ダニーロの出来次第では攻撃が左偏重に

アウベスの代役となるダニーロの出来次第では、攻撃が左に偏る恐れがある 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 ネイマールは、3月3日に行った手術後の経過が順調で、5月4日にPSGへ戻り、5日にはフィジカルトレーニングを始めた。13日からはボールを使った練習を始めており、21日からのブラジル代表の合宿にも参加できる見込み。故障そのものはフットボールではありふれたもので、後遺症が残る心配もない。試合勘が不足しているのは確かだが、6月初めの2つの親善試合(3日のクロアチア戦と10日のオーストリア戦)を通じて解消できるのではないか。他国のエースのようにシーズン中の疲労の蓄積がないのは、逆にアドバンテージとも考えられる。

 しかし、世界最高の右SBの1人であり、チームの絶対的レギュラー、経験豊富でチームリーダーの1人でもあったアウベスを失ったのはチームにとって大きな痛手だ。しかも、このポジションは層が薄い。当面の代役候補であるダニーロは、右SBとしては大柄でダイナミックなプレーが特長だが、状況判断に課題があり、調子の波もある。ファグネルは、攻守に安定した力を持つが、アウベスほどの攻撃力はない。しかも、4月末に右太腿を痛め、現在、リハビリの最終段階にある。

 仮にチッチ監督がこの2人では物足りないと考えた場合、CBの3番手ながら右SBもこなせるマルキーニョス(PSG)が起用される可能性もある。登録メンバーの発表会見で、チッチ監督はマルキーニョスの起用方法について聞かれると、「彼はCB、右SB、ボランチがこなせる」と答えていた。

 両SBの攻撃力はこのチームの大きな強みだったが、アウベスの離脱でそれが半減してしまった感がある。ダニーロの出来次第だが、W杯におけるセレソンのサイド攻撃は左に偏ってしまうかもしれない。もしそうなれば、相手にとってはかなり守りやすくなる。

 とはいえ、W杯直前に選手が故障してしまうのはどこの国でも起こりえること。優勝を目指すのであれば、あらゆる困難やアクシデントを乗り越えていかなければならない。

 セレソンの底力が試されている。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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