次の四半世紀へ歩み出したJリーグ ワークショップで示した新たな方向性

宇都宮徹壱

Jリーグ25回目の誕生日前日に行われたワークショップ

「Jリーグをつかおう!」ワークショップで再会した川淵氏とジーコ氏 【宇都宮徹壱】

 2018年5月15日は、Jリーグの25回目の誕生日だった。ただし火曜日のこの日は、Jリーグ主催の試合はなし。よってピッチ上で、このメモリアルデーを寿(ことほ)ぐイベントは、残念ながら行われなかった。

 だが、まったく盛り上がっていなかったのかと言えば、決してそんなことはなかった。DAZNのYouTubeサイトでは、今はなき旧国立競技場で開催された、ヴェルディ川崎と横浜マリノス(いずれも当時)による開幕戦の映像が配信された。そしてツイッターでは「#もしJリーグがなかったら」というハッシュタグがトレンド入りしている。Jリーグの25回目の誕生日が、当時はほとんど普及していなかったインターネット上で盛り上がっていることには、ある種の隔世の感を禁じ得ない。

 25周年といえば、Jリーグが掲げる「百年構想」の4分の1が経過したことになる。その意味では5年前の「20周年」以上に、重みが感じられるものであるといえよう。これまでもJリーグでは、節目節目で盛大なパーティーが開催されたようだが、どうも今回は趣が異なるようだ。前日の14日、都内のホテルにて「未来共創『Jリーグをつかおう!』ワークショップ」というイベントが開催されるというので、取材に行ってきた。そこで感じたのは、次の四半世紀に向けての、Jリーグとしての明確な「意思表示」であった。
 
「われわれやクラブの皆さん、そして日本を良くしていきたいと考えている皆さんの力が結集できれば、54クラブというのが大きなパワーを持つのではないか。Jクラブを使ってどんなことができるのか、今日は皆さんと一緒に考えたいと思います」

 冒頭でこのようにあいさつしたのは、Jリーグの村井満チェアマンである。25年前に「オリジナル10」と呼ばれる10クラブでスタートしたJリーグは、四半世紀を経てJ1からJ3まで合わせて54クラブにまで増えた。全国47都道府県のうち、Jクラブがないのはわずかに9県。人口が最も少ない鳥取県でも、あるいは総面積が最も小さい香川県でも、Jクラブが活動するようになった。そして、それぞれのクラブはJリーグの理念である地域貢献のために、さまざまなホームタウン活動を行っている。Jリーグが集計したところでは、54クラブのホームタウン活動の総計は1万7832回。1クラブ平均で330回となるから、ほぼ毎日のように活動している計算だ。

「Jリーグを社会貢献のためのプラットフォームに」

ワークショップでは54のテーブルに分かれてディスカッションが行われた 【宇都宮徹壱】

「ところが、こうした社会活動があまり知られていないという現状があります」と語るのが、今回のワークショップ開催を実質的にハンドリングした、Jリーグの米田惠美理事である。Jリーグの内部では「これからは回数よりも質を重視すべきではないか」という意見もあったそうだが、もちろんホームタウン活動はクラブのメーンの仕事ではない。ましてや地方クラブともなれば、当然ながらリソースは限られる。「これ以上、クラブに負担をかけられない。それなら、Jリーグを社会貢献のためのプラットフォームにできないだろうか?」(米田理事)。それが、25周年を迎えたJリーグが出した結論であった。

 それでは「Jリーグを社会貢献のためのプラットフォーム」にするとは、具体的にはどのようなことなのだろうか。米田理事が挙げていたのは「活動立ち上げor参加募集機能」「クラウドファンディング(寄付での参画)」「発信機能」「活動ノウハウの型化」「社会的インパクト評価(成果の測定&可視化)」。要するに、Jリーグのネットワークとナレッジを使えば、クラブ単体ではできなかったことも可能になる、ということだ。

 具体的には、社会貢献プロジェクトの立ち上げや人集めを行い、お金が足りなければクラウドファンディングを実施し、プロジェクトの意義や成果を発信し(現役選手やOBの協力も仰げる)、プロジェクトが属人化しないようにノウハウがシェアできる仕組みを作り、そして最終的には成果の測定や可視化も行う。人と人をつないだり、広く発信したり、コンサルティングをしたり、成果の「見える化」をしたり──といったことが、Jリーグであれば可能になる。だからこその「Jリーグをつかおう!」なのである。

 そのスタートとして行われたのが、今回のワークショップ。広い会場には54の丸テーブルが置かれ、それぞれに54クラブの社長や関係者、そして、この日招待されたゲストの総勢300人あまりが座っていた。彼らはこれから4時間にわたって、いかにJリーグを活用して社会貢献をしていくか、さまざまなアイデア出しやディスカッションを行っていく。300人の職業はさまざま。学生もいれば、医師もいれば、NPO団体の主催者もいる。Jリーグの説明によれば「さまざまなオピニオンリーダーや、これまでJクラブを活用してきた人、あるいは普段サッカーに関心がない人にも声をかけた」ということである。

 そんな中、ひときわ目立っていたのが、ちょんまげ隊のツンさんだ。チョンマゲのかつらに甲冑姿のツンさんは、日本代表の有名なサポーターであると同時に、東日本大震災で被災した東北地方への継続的な支援活動を行っていることでも知られている。現在は、原発被害のあった南相馬の中学生たちをワールドカップ(W杯)ロシア大会に招待する「ともにロシア」プロジェクトで奔走中だ。そんなツンさんを、いったい誰が招待したのだろうか。当人に聞いてみると「(Jリーグ副理事長の)原博実さんから、直接電話があったんですよ」という驚くべき答えが返ってきた。ツンさんの意外な人脈もびっくりだが、それ以上に驚かされたのが、原副理事長も本件にしっかりコミットしていたこと。そこにも、Jリーグの本気度が感じられる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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