選手・クラブとリーグの距離感は遠い!? 本音で語らうJリーグ 中村憲剛編

木崎伸也
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提供:(公社)日本プロサッカーリーグ

Jリーグ村井満チェアマン(左)と川崎の中村憲剛(右)が、リーグ発展のためにお互いの意見を交わした 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 全国に種をまき、水をやり続け、生態系を大きくする取り組みは無駄ではなかった。Jリーグ(J1・J2・J3)のクラブ数は計53にもなり、サッカーで思いをひとつにする巨大なネットワークができあがった。

 その潜在価値が証明されたのが、来季から10年間の放映権契約だ。年平均210億円という大型契約。これから開花時期を迎え、彩り豊かな花を目にできそうだ。

 とはいえ、ヨーロッパの4大リーグとは、まだ差がある。さらにJリーグが発展するためには何が必要なのか。Jリーグ村井満チェアマンとJリーグのトッププレーヤーが議論を交わし、リーグ発展のためにお互いの意見を交わす場を持つことになった。第1回のゲストは、村井チェアマンと川崎フロンターレの中村憲剛。中村が選手の立場から、チェアマンに意見をぶつけた。

中村「収入をどう使っていくんですか?」

10年で2100億円という放映権料を得ることとなったJリーグ。選手も収入の使用用途は気になるようだ 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

中村 放映権契約締結のニュースは、選手としても驚きました。ファン・サポーターの方たちもそうだったと思います。まさかあの額まで跳ね上がるとは想像してなかったので、正直グッジョブだなって思いました(笑)。

村井 ありがとうございます。ただ補足すると、10年で2100億円という契約で、この金額が高いか安いかは一概に言えない部分がある。この期間中にリーグの価値がすごく上がる可能性もあるからです。とはいえ、今の時点でのJリーグの価値からすれば、非常に大きい金額であることは間違いない。

中村 増えた分の収入をどう使っていくんですか?

村井 ひとつ理解してほしいのは、Jリーグは公益法人で、1年に数十億円単位で収入が増えても、それを貯金しておいたり、金庫にしまっておいたりすることは基本的にできないということ。内部に溜めないで、公益のために使いなさいっていうのがベースにある。つまり、クラブに分配することになる。

 育成に投資するクラブもあれば、有名選手や有名監督を獲得するクラブもあるでしょう。ここからはクラブの競争。つまり、これまで以上にクラブの経営力が問われることになるでしょう。

中村憲剛がチェアマンに伝えたかったこと

「チェアマンにぜひ伝えたかったことがある」と切り出した中村 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

中村 チェアマンに会ったら、ぜひ伝えたかったことがあるんですよ。

村井 突然きたね(笑)。

中村 それを話すために、「高田スマイルフェス」について触れさせてください。2011年の東日本大震災以降、フロンターレは岩手県陸前高田市を支援する活動を続けてきました。今年は「高田スマイルフェス2016」と名付け、7月3日にサッカー教室などの交流イベント、そしてベガルタ仙台との親善試合を行いました。子どもたちがすごく喜んでくれたと感じています。

 そういう経験を踏まえて村井さんに伝えたいのは、クラブが個別に取り組むだけじゃなくて、もっとJリーグとも一緒にやれないかということ。たとえばJリーグが呼び掛けて、各クラブから選手が集まって、子ども向けの教育番組に出てもいい。子どもが興味を持てば、保護者もスタジアムに足を運んでくれますから。

11年の東日本大震災以降、川崎は岩手県陸前高田市を支援する活動を継続的に行ってきた 【(C)川崎フロンターレ】

中村 もともと自分自身「サッカー選手なのだから、サッカーだけをすればいい」と考えていました。ただ、フロンターレという地域活動に力を入れるクラブに入ったおかげで、サッカーだけでは十分ではないと思うようになった。

 ヨーロッパみたいにピッチで表現したものだけで、お客さんがたくさん来る環境だったらいい。けど、日本には娯楽があふれている。いかに自分たちで付加価値をつけるかが大事、というのをすごく感じています。実際、僕がフロンターレに加入したときは観客が3000人程度だったのですが、地域活動を続けたことで今では約2万6000人に来てもらえるようになった。それが自分の成功体験になっています。


村井 確かにフロンターレは選手出演の算数ドリルを作ったり、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の人を呼んで宇宙飛行士と交信をしたり、子どもたちの興味を引くイベントをしているね。

 フロンターレの場合、選手がやらされているのではなく、「これをやることが僕たちの使命なんだ」と心の底からやっているのがいいのだと思う。現在J1・J2の計40クラブで、年間4000回くらい地域活動をしている。決して少なくないけれど、大事なのは回数ではなく、その真剣度なのかもしれない。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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