「中途半端な人間にはなりたくない」 友野一希を変えたスケート人生の転機

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世界の舞台に立って分かったこと

ジュニア時代、1学年下の山本草太(中央)がなぜ強かったのか分からなかったという友野だが、世界の舞台を踏んだことで、それが理解できたと振り返る 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――逆に一番悔しかった出来事は? 今、選考会で3回連続で落ちた話をしてくれましたが。

 間違いなくそれですね。もう思い出したくないレベルで悔しかったです。でも、今思えば中途半端な気持ちでスケートをやっていたことを、ジャッジの方たちに見破られていたように感じます。ただ、こうした経験をしたことで、自分を冷静に分析できるようになったし、周りの選手を見極める力というものがついたように思います。例えば、生意気かもしれないですが、選考会に来ているジュニアの選手を見て、「この子はいけるな」とか、「この子はちょっとまだ無理かな」というのが見極められるようになりました。スケートに対してどのくらいの気持ちで練習して、どのくらいのレベルでやればどれだけ通用するか。その落ち続けた3年間で冷静に分析できる力がつきましたね。

――具体的にどういった部分を見て分かるのですか?

 具体的に、と言うと説明しづらいのですが、世界の舞台に立つ選手というのは他の選手とは練習の姿勢や、スケートに対する気持ちというのが違うんですね。技術とかではなく、目標を設定して、そこに向けてやるという気持ちが人一倍強い選手はやはり強い。そうした目標があるから、なんとなく練習することもないし、何をやればいいのか、何が大切なのか、何が自分に必要なのか、というのを常に心掛けて練習している。それを分かっている選手というのが成長できる選手だと自分なりには思います。

――友野選手が選考会で選ばれなかったのは、やはりそういう気持ちが……。

 なかったんです。向上心というのがまだまだ足りなかったんだと思います。

――その向上心を持てるようになったきっかけは?

 トリプルアクセルを下りることができたときですね。ジュニア4年目の夏ごろだったと思います。ちょうど町田樹さんが臨海スポーツセンター(大阪)で練習していたときで、初めて下りたのが町田さんの目の前でした。それを鮮明に覚えています。トリプルアクセルを下りてすごく自信がついたというのがあり、大技を習得してまだ頑張れるかなというふうに思いました。

――それが先ほどお話されていたJGPシリーズの初参戦、世界ジュニアの出場につながったのですね。

 そうですね。でもそのシーズンは失敗に失敗を重ねて初JGPシリーズは惨敗に終わりました(リガ杯に出場。合計147.93点の13位)。その後、世界ジュニアにも出て、そこで初めて自分がなぜだめだったのかが分かったんです。僕は世界大会というのを知らなかったので、山本選手や当時(14−15シーズンまで)ジュニアで活躍していた宇野昌磨選手(トヨタ自動車)がなぜ強いのかが分からなかった。彼らはすでに世界大会というものを経験していて、世界を相手にスケートをやっていたから強い、高い目標を持っていたからこそ国内では圧倒的な強さがあったんだと。それまで僕は国内で頑張ろうと思っていたので、世界を目標にして練習すれば、彼らのようにうまくなれるのではないかと感じられたのが、成長できた理由かなと思います。

――目線がそもそも違ったと?

 違いました。彼らは全然違うステージに立っていた。世界大会に出てそれを感じたんです。今回の世界選手権もそうですし、出たことによってまた世界のトップで戦っている選手たちの目線や気持ちというものが分かりました。これを経験することによって自分が成長できるというのは分かっていたので、また良い経験ができたと思っています。

ゴールは決めたくない、常に成長できる

北京五輪に向けた新たな4年はすでに始まっている。これまでは夢だったが、今は「本当の目標」として視野に捉える 【坂本清】

――同年代で強い選手も多くいますが、意識している選手はいますか?

 本当にたくさんいます。それこそ本当に今まで日本スケート界を引っ張ってきた先輩方はすべてにおいて尊敬していますし、まだまだ僕は全然及ばないと思っています。それで今一緒に週末だけ中京大で練習しているのですが、一番意識しているのは田中刑事選手(倉敷芸術科学大)です。これまでは雲の上の存在だったんですけど、少しずつ近づいていけているという実感もありますし、来季も必ず世界選手権の一枠を争うことになると思います。本当に尊敬できる先輩でもありますし、普段からとてもお世話になっていて、大好きな先輩の一人でもあるんですけど、スケートに関しては田中選手に勝ちたいという気持ちが出てきましたし、練習でもすごく意識はしますね。

――その来季についてですが、プログラムはどうするか決めていますか?

 話し合ってはいるんですけど、ルール変更のこともありますし、全然確定はしていないです。

――4月のプリンスアイスワールドではエキシビションで新プログラムとなるペンタトニックスの『Daft Punk(ダフトパンク)』を披露しましたが、その曲を選んだ意図やコンセプトを教えてください。

 自分が好きで昔から聞いていた曲だったので、これを振り付けする佐藤操先生に「やりたい」と言いました。普段はけっこう却下と言われるんですけど、今回はすごく乗り気で(笑)。僕の選曲が良かったのかもしれないです。

――来季に向けて、このオフに挑戦したいことはありますか?

 新しく4回転トウループは習得したいです。ほかのジャンプも挑戦していきたい気持ちはあるんですけど、まず現実的なのはトウループかなと思います。あとはスケーティングスキルの向上が大切だと考えています。やはりそこが足りないので、その底上げですね。

――来季のプログラムには4回転トウループを?

 入れたいです。そうでなければ戦っていけないので。本数もフリーではサルコウ2本、トウループ2本を入れられたら理想ですが、現実的にはサルコウ2本とトウループ1本かなと思っています。もちろん決めつけるのも良くないので、可能な限りは挑戦していきます。とはいえ4回転だけではなく、一つ一つのジャンプのクオリティーも上げていきたいですし、ケガのリスクはあるので、体に負担をかけ過ぎずやっていきたいと思います。今回の世界選手権で、技術点に関してはサルコウ2本でもそれだけの演技をすればけっこう点数がついてきたので、挑戦するだけではなく確率の高さも重視したいですね。

――22年の北京五輪に向けてまた新たな4年が始まります。

 夢だった五輪が本当の目標となりました。これまではあやふやだったのですが、今は絶対にいけると思っていますし、具体的な目標として北京五輪を設定しています。それができるくらい五輪の存在が大きくなりました。

――最後の質問です。競技者としてのゴールはどこに置いていますか?

 ゴールはないと思っています。常に成長できる部分もあると思いますし、4回転が全種類跳べたからと言って、5回転もあります。引退したらその先は分からないですし、今は一つの目標として五輪を目指していますが、現役を続けている限り、ゴールは決めたくないと思っています。理想にしているのは、人としてもスケーターとしても人に勇気や元気を与えて、尊敬されるような選手になりたいというのが一番です。技術的な面や競技者としては、自分の限界を決めずに、結果が出てもより上を目指して、向上心を持ってやっていけるような選手になりたいと思っています。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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