小塚崇彦が「選手の体を第一に」開発 フィギュア界の常識を覆すブレード
長年抱えてきた問題解決を目指す
共同開発したブレードを発表する小塚崇彦さん。フィギュアスケート界が長年抱える問題解決を目指す 【スポーツナビ】
「選手が、スケート靴の機嫌を取らずに滑ることはできないだろうか」
現役時代からそんな悩みを持っていたという小塚さん。フィギュアスケートのブレードは、3つの異なるパーツを溶接して作られる。人間の手によって作業が行われるため、どうしても品質にばらつきが生じていた。加えて、溶接された金属は氷上での大きな衝撃に耐えられず、折れてしまうこともある。
繊細な演技が求められる選手たちにとって、ブレードを取り替えるたびに起こる“誤差”は、たとえ小さなものでもあっても大きな問題だ。ちょっとしたずれがジャンプやスケーティングの感覚を狂わす。そのたびに選手たちは、自身の体を靴に合わせなければならず、負担を強いられてきた。
もっとも、こうした誤差への対処は「選手自身の技術で補う」ことがフィギュアスケート界の常識とされており、この調整力もトップに行くために求められる。しかし、「人によっては自身の技術不足として悩み、挫折していく姿を見てきた」と小塚さんは言う。
選手の技術に道具が追いついていない
進化するスケーターの技術に、道具が追いついておらず、選手たちは負担を強いられてきた 【写真提供:TST Japan】
そんな状況の中、小塚さんが共同開発したブレードはこうした問題を解決する可能性を秘めている。まず、詳細なデータで制御された加工機において、1つの金属の塊をドリルで削る。そこから立体的なブレードを作り出すため、これまでのような溶接の工程を必要としない。またコンピューター制御されていることで、人による精度のブレは発生せず、「99パーセントの同一品質」を実現できているという(以下の動画にて加工作業の一部を紹介する)。
加えて、ブレード自体に靭性(じんせい/編注:材料の粘り強さのこと)があるため、ジャンプの着地時などによる衝撃の吸収性が従来のものに比べて向上している。金属は日本製の特別なスチールを使っており、その柔らかさが体にかかる負担を軽減してくれるそうだ。
小塚さんはブレードを開発するにあたり、「選手の体を第一に考えた設計をした」と語る。自身も競技生活の最後はケガに苦しんだからこそ、少しでもそういう選手を減らし、長くスケートを楽しんでもらいたいという思いがある。やや丸みを帯びた形にしたのも、ドーナツスピンやビールマンスピンといったブレードを持つ技で、指を切らないようにするため。こうした細かな配慮までされている。