酒井宏樹が駆け抜ける充実のシーズン 左サイドバック、CBにも挑戦

木村かや子

35、36歳になったらCBになるのかなと

4月にはCBにも挑戦。新たな発見もあったという 【Getty Images】

――さらに4月には、今度は正CBが2人とも負傷し、元来MFのルイス・グスタボ、18歳のブバカール・カマラとともに3バックの右をやりました。その経験について「手ごたえがかなりあった」と言っていましたが……。

 自分的には昔、J2時代(柏レイソル)にやったことのあるポジションで、あのときと比べ、考え方とか、守備に対する局面での対応の仕方というのが、欧州での経験のおかげで変わってきたと思ったので、今やってみてどうなんだろうという気持ちで、ELに臨みました。結果、チームとしてうまくいけたし、僕も自分のポジションでの仕事を果たせたし、ビルドアップという面では、CBの方がSBより全然やりやすいんだな、と感じました。CBは全体が見えるじゃないですか。SBは自分のサイドが主で、CBからボールが来る時にはすでにプレッシャーも受けている。だから、新たな発見ではありました。

――ビルドアップできる分、面白いと感じた?

 面白さは、けっこう感じることができました。一番後ろの、そこで最後に止めるべき場所で、さらにCBがぶれているとチームにも影響が出る。重大なポジションということを、自分の中で言い聞かせてやっていたので。もちろんその分、頭の疲れはすごいですけれどね。取られたら終わりですし、9回いいプレーをしても、1回集中力が切れてそれが失点につながったら、もうダメなポジションなので。10回よくないといけないので、そこはストライカーとは真逆ですよね。だから常にいい準備をしておかないといけない、という気持ちで入っていました。

――SBは攻撃に出られますが、CBは出られない分つまらないのかと思ったら……。

 自分の中では、面白さはかなりありました。まあSBも相当面白いですけれどね。CBをやったときは、走っている距離が9.8キロとか、10キロ切っていたんですよ。いつもより1キロくらい少なかったのですが、その分、局面局面に集中力と体力を費やせる。自分たちが攻めているときから自分の守備は始まっているのがSBなんですが、それよりもう少し早く始まるのがCBなんです。だから自分たちが攻めているときのルーズボールをまた自分たちが保持し、そこから再び自分たちの攻撃が始まるときに、すごく面白さを感じました。

――「ゆくゆくはCBということになってくると思うので」とライプツィヒとのEL準々決勝第1戦後に言っていましたが、自分がゆくゆくはCBになるという考えを持っているのですか?

 35、36歳になったら、もう僕はSBではなく、CBになるのかなと。いくつになってもできるすごい選手もいますけれど、やはり上下運動があってこそのSB。最低限は動かなければいけないポジションなので、将来的にそういう幅もあればいいと思ったし、CBはやってみたいポジション……というか、試してみたいポジションではあったので。

 もちろん、右SBが一番好きですけれど、オプションで、そういうポジションもできればいいなと思いました。まあこういうクラブにいるので、1つのポジションしかできない選手は、使われるのがかなり難しくなる。マルセロとか、ダニエウ・アウベスだったらまた別ですけれど、ほかの選手は2、3ポジションできないといけないと思うので、そういう意味で。

――その姿勢は監督としてはありがたいですね。

 そうでないと、外人枠を取っている日本人なので、生き残っていけないです。でもブナが出てきたのは、自分にとってすごくありがたいことでした。おかげですごく、自分のプレーに集中できるようになりましたね。客観的に見て、ブナみたいなSB、サイドアタッカーでない自分は、何を求められているんだろう、というのがすごく見えたので。ああいう自分とは正反対の選手が同じポジションにいることは、すごく良かったです。じゃあ自分は何をすればいいんだろう、としっかり考えることができたという意味で。

――その問いの答えは。

 試合中に、自分のカラーを出せるようにするべきだな、と思いました。守備的な選手ですけれど、守備だけやっていればいいというわけではない。この試合で監督に求められていることは何だろう、自分は何で今日試合に出ているんだろうということを、自分なりに考えて試合に入らないといけない、と。監督はもちろんそこまでは僕に言わないですけれど、配置されているポジション、自分が今日ここで出る、ということには、必ず理由がある。それは何だろう、なぜなんだろう、ということを自分で考えないと、自分のカラーは出せないし、そこで効果的な動きができないから、そういう部分を、すごく考えさせられました。

 今シーズンは、ローテーションとかも含めて、なんでブナが出るんだろうとか、何で自分が出ているんだろう、とすごく考えることができて、すっきりする部分がかなり多かった。お互い、使われ方がはっきりしているので、僕もブナも、不満をもったシーズンではないと思います。そこが崩れてくると、また何か出てきますけれどね。とにかく、監督が理にかなった采配をしてくれるので、いい意味で僕もブナも、監督を信頼することができていると思います。

――その自分のカラーを一言で言うと。

 一言では難しいですが、やはり日本人プレーヤーによくあるように、最後まであきらめないとか、準備を怠らない、という部分に関しては、自信を持って――というか、カラーとして出さないといけないところだと思っています。自分で突破してゴールまでもっていけない代わりに、周りの選手を生かす連係をするなど、基本的なところを高い水準でやれれば、と。

 シンプルに、フリーの選手にボールを預けるとか、少ないタッチ数で、なるべく相手のプレッシャーがかかっていないときに、フロー(トーバン)に預けるとかして、それがチャンスになればいいと思う。やるべきことを高いレベルでやれれば、それが僕のカラーだと思いますし、ブナであればフローなみの機動力で、右サイドを崩していけるというのは強みだと思います。そこは僕にはない部分なので、僕は違う意味での機動力というのを、出していければと思っています。

CL、EL、W杯は大きな夢

「評価が自分自身の評価より余計に上がっているな、という感じがあるので、気をつけないといけない」と酒井は気を引き締める 【木村かや子】

――CL出場権を獲れるかはまだ分からないとはいえ、マルセイユはそれを狙えるところに、昨季よりも確実に近づいてきています。

 もちろん、CL、EL、ワールドカップ(W杯)は、自分にとってすごく大きな夢です。もちろん一番難しいのはCLとW杯なのですが、そこが今、届きそうで見えない場所なので、すごくもどかしい気持ちもあります。でも、まだ可能性は自分たちの手に中にある。正直、リーグ戦ではいまや他力本願になってしまい、難しい部分はあると思うんですけど、ELは自力でつかみ取れる場所なので、すべての試合に全力で向かっていきたいですね。

――最後に、ホームでのEL準々決勝は、全フランスを熱狂させる試合になりました。特に酒井さんのゴールが決まった瞬間、ファンは天にも昇る至福の境地に至ったと報じられましたが、自覚は?

 全然ないです(笑)。うれしいことですけれどね。自分のゴールが最後、というのは、いいところをもらえたなと思います。やはり、皆が感動するシーンでしたよね。でもその分、特にこの1、2週間、いや、シーズンが終わるまで、しっかり自分なりに立ち位置をわきまえなきゃいけないな、という気持ちはあります。評価が自分自身の評価より余計に上がっているな、という感じがあるので、気をつけないといけない。僕としては――もちろん超うれしいですよ――だけど、自分から、もうそれを過去のことにしていかないと。

――ファンの態度まで変えたすごい試合だったと言われています。

 皆すごく反応してくれたので 気が付いてはいますし、いい試合だったとは思います。でも準決勝がもっといい試合になればいいと思うし、まだ先があるので、これからやってくる試合に集中したいと思います。そうしないと、ディフェンダーなんて一歩間違えただけで失点なので。まあ、オフになったら滅茶苦茶喜びます!

3/3ページ

著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント