酒井宏樹が駆け抜ける充実のシーズン 左サイドバック、CBにも挑戦

木村かや子

今季初めて経験した左サイドバック

今季は本職の右サイドだけでなく、左サイドでも出場する機会が増えた 【写真は共同】

――今季はパトリス・エブラの離脱、ジョルダン・アマビのケガで、その穴を埋めるため左SBを務めるという、新しい出来事がありました。今でも左SBが出られないときはやらなければならないわけですが、この経験をどう振り返りますか?

 左は今でも自分の最適なポジションではないと思っています。ただ、ある程度の水準でやれれば、ローテーションの時に使える……という役で監督も使っていると思うので。それをちゃんと自分なりに消化できれば、ストレスなくできますし、何事も勉強なのでね。もう十何年も右サイドでプレーしてきたのに、いきなり今年からやって左サイドでいいプレーができるわけがない。本当に経験を積み立てることだけだと思うので、やり続けるだけかなと思います。

――酒井さんが左をできることでチームはかなり助かっていますが、やはりやり慣れないポジションをやるとストレスを多少は感じるのでは?

 ストレスというよりは、準備するものが多いなという感じですね。右と左だと視野が全く違いますし、右サイドだと無意識にできることが、左サイドだと意識しながらやらないと難しい。だから前もって準備しなければいけないことがたくさんあります。ストレスとか、やだな、というより、これもやらなきゃ、あれもやらなきゃ、という感じですね。

――その準備の一環で、YouTubeで左SBのビデオをたくさん見て、左の動きを勉強したと以前言っていましたが。

 それは最初のころですね。最初、(昨年12月のELグループリーグの)ザルツブルク戦に左で出たとき、本当に全然、動き方のイメージをつかめなかったので、ビデオを見たりして勉強していました。

――誰を参考に?

(酒井)高徳を見ていましたね。右利きで左サイドの人を見ていたんですけれど、左SBは左利きが多く、なかなか現代サッカーではいないんですよね。だから、ある程度見てやめましたけれど。自分のカラーがありますからね。高徳は左足がうまいから、自分とはまた違うなと思って。

――左でやるときに、特に気をつけていることはありますか?

 僕が左に入るということは、ブナ(・サール)が右で出るので、うまくチームのバランスをとりながら、右が詰まったとき、右が完全に閉じられているなというときに、左から出ていければ、と思ってやっています。また左の場合、組むのがルーカス(・オカンポス)とかが多いので、ルーカスだったら自分で前に攻撃に行けるから、彼の後ろでサポートしたりとか、困ったときにボールをもらいにいって、またそれを逆サイドに展開できるように準備したりとか、カウンターの準備をしたりとか、という感じですかね。

――左右アシスト数が同じ(左右2本ずつ)です。マークがフロリアン・トーバンの側に集中し、左が空き気味というのもあるのかもしれないですが、左で早々にアシストが出たことは自信になりましたか?

 結果が出てくれたのは幸いでしたね。あまり左で、いい感じではプレーができていない、と思っていたので、そこでアシストが出て、周りの人が納得せざるを得ない状況を作れたのは良かったと思います。

左サイドだと頭も体も疲れる

過密日程だった今季、酒井はすべての試合に出られたわけではない。「監督はうまくコントロールしていたということに気づいた」と酒井 【写真:ロイター/アフロ】

――左での評価も高めましたが、右へのこだわりは?

 こだわりというほどではないですけれど、やはりレベルが高くなったときに、相手との駆け引きを含め、しっかりとそのゲームを楽しめるのは右だろうな、という感じはあります。90分通して、「あ、もう終わっちゃったんだ」という感覚があるのは右ですね、間違いなく。反対に左だと、本当に考えないといけないことが多いので、「まだ70分なんだ」という感じですね。90分終わって、あー疲れた、と言いたくなるような。頭も体も疲れます。

 右ではプレーレベルも一段上だと、自分では間違いなくそう思っています。もしかしたら周りの人たちは、左からアシストもしているから、そう違わないと思っているかもしれないけれど……。いや、やはり周りも、やはり右が本職とはと思ってくれていると思います。

――以前、代表もあるので(左起用が多いことに)葛藤はある、と言っていましたが、そのあと気持ち的に吹っ切れたように見えました。そのあたりの気持ちの推移は?

 左ばかりだったら葛藤はありますけれど、現実的に、絶対にあり得ない。あのときは5試合連続とかだったので、そういう言葉も出たのだと思います。嫌だったのは――フランスの人たちは、本来右サイドだけれど、左の欠員のため左をやっている、ということを知っているけれど、欧州の他国の人から見たら、左SBをやっているのが酒井という認識になる。5試合ずっと左サイドで出ていたら、左SBの選手だと思われるから、そこは嫌でした。せっかくOMといういいチームでやっていて、いろいろな人が見てくれているのに、左SBをやっている自分が、本来の自分だと思われるのは嫌だなと。

――また昨年末ごろ、今季から右SBに転向したサールが攻撃的で、酒井さんは守備がより堅固という認識から、一時、より攻撃的にいくホーム戦で先発できないことがパターン化し、「やはりホームで試合に出たいので複雑な思いがある」と言っていた時期がありました。その後、2〜3月には日程が立て込み、逆に少しは休んだ方がいいんじゃないかと思うような状況になりましたが。

 2月、3月を経て、監督はうまくコントロールしていたんだな、ということに気づきました。あのとき(年末)にはホームで出たいとか、アウェーばかりだなと思いましたし、週2回ずっと続けてでも出られるのに、という気持ちもありました。自分でもそうできる体になっていると思っていたんですが、2月、3月はとにかく試合が多かったので、やはりローテーションがないと無理だと分かったんです。

 あのペースの日程で毎試合クオリティーの高いプレーをするのは絶対に無理ですし、実際、(3月18日の)リヨン戦でけがをしている。特にあの時期、PSGやリヨンなど、相手のレベルが高く負荷がかかる試合が続き、ELでも相手のレベルが上がってきていましたからね。やはりローテーションは必須と悟ったことは、本当に、精神的成長じゃないですか。考え方、とらえ方、我慢が変わり、何でああいうローテをしていたのかの意味が分かった。必要も必要、必須だったんだと思いましたから。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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