17歳でイングランド2部の年間MVPに フラムで輝く「ベイルみたい」な超新星

山中忍

イングランドで一番ホットなニュースター

2000年生まれの新星セセニョンは、英2部フラムで大活躍 【Getty Images】

 フラムの1軍選手にはライアンが2人いる。だが、「イングランドで一番ホットな若きタレント」と言えばライアン・セセニョンのことだ。17歳のウインガー兼左サイドバック(SB)は、4月15日(現地時間、以下同)に行われたフットボール・リーグ(イングランド2部〜4部リーグ)の表彰式で、チャンピオンシップ(2部)の年間最優秀選手賞と、若手カテゴリーの個人賞2つを受賞したばかり。同名でフラムの右SBを務めるライアン・フレデリクスとともに、年間ベストイレブンの最終ラインにも名を連ねた。

 また翌週に発表されたPFA(プロ選手協会)の若手年間最優秀選手賞は、今季プレミアリーグを制したマンチェスター・シティのレロイ・サネに譲ったが、セセニョンは最終候補6名に選ばれ、2部リーグからの同賞ノミネート自体が史上初の偉業だった。

 筆者が初めてセセニョンのプレーを生で見たのは、ホームのクレイブン・コテージで行われた昨季のFAカップだった。チームとしてはトッテナムとの力の差が歴然だったが(フラムは0−3で敗戦)、個人としてスラビサ・ヨカノビッチ監督が彼に寄せる期待の大きさも明らかだった。当時まだ16歳で、現在の3番ではなく30番を背負っていたユース上がりの攻撃的左SBは、2点差とされた後半早々、真っ先にベンチから送り出された。ポジションは基本システムだった4−2−3−1の2列目左サイド。得点に絡むことこそできなかったが、セセニョン投入を境に、上がりたい放題だったトッテナムの右SBキーラン・トリッピアーの攻撃参加が抑制された。

自信満々の攻撃とゴールパフォーマンス

ミルウォール戦でゴールを決めると、堂々たるゴールパフォーマンスを披露 【Getty Images】

 その昨季後半戦で進んだウインガーへのコンバートを経て、セセニョンは今季、3トップの左サイド定着に至っている。4月27日の45節終了時点での数字は、うち44試合に先発して15ゴール6アシストで、得点数はチーム最多。自ら表紙も飾った同節サンダーランド戦(2−1)のマッチデープログラム上でのインタビューで、「昨季の計30試合を超える出場数が今季の目標だった」と明かしている本人にすれば、予想以上の大活躍だ。前線のレギュラーに抜てきしたヨカノビッチ監督にとっては、トッテナムやリバプールによる引き抜きがうわさされたセセニョンを、昨夏、17歳の誕生日後に結んだ3年のプロ契約でつなぎとめたことが、プレミアリーグ昇格争いに向けての最高の“補強”だったと言える。

 指揮官が前線起用を決めた背景には、若さ故に守備でかいま見せる「うぶ」な一面もあるに違いない。たとえば、先のサンダーランド戦終盤での1シーン。味方の負傷退場で途中から左SBに回っていたセセニョンは、敵のクロスをペナルティーエリア付近にいたチームメートに頭でつなごうとして、危うくピンチを招きかけた。1点リードのフルタイム2分前という状況を考えれば、つないでカウンターに転じるよりも、無難なヘディングでのクリアが妥当だった。

 反面、相手のゴール前では若さに似合わぬ落ち着きを見せる。その前週のミルウォール戦(3−0)で快勝への口火を切った先制ゴールが好例の1つ。一見するとセーブ後のこぼれ玉を蹴り込んだだけに見えるが、実際は力任せではなく、相手GKの股間を正確に撃ち抜いたシュートだった。アウェーでのミルウォール戦は、熱狂的な相手サポーターから手荒い歓迎を受けることでも知られる。セセニョンもボールに触るたびにブーイングを浴びたが、決して冷静さを欠くことはなかった。「ブーイングはどうした?」とでも言うかのように、両手に耳を当てたゴールパフォーマンスを披露する度胸まで見せた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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