小塚崇彦が「選手の体を第一に」開発 フィギュア界の常識を覆すブレード

スポーツナビ

ようやくスタートラインに立ったところ

「フィギュアスケートは研究面でも遅れている」と小塚さんは言う。ブレード開発は今後への分水嶺となるかもしれない 【写真提供:TST Japan】

 実際にこのブレードで滑っているスケーターからの評判も上々だという。今季限りで引退した無良崇人さん、木原万莉子さん、現役では1月にトリプルアクセルを決めた竹内すい(大同大大同SC)、本田ルーカス剛史(滋賀ドリームFSC)らジュニア選手も使用しているそうだが、彼らからは一様に「1歩でよく滑る、ジャンプが跳びやすい、着地する際の負担が少ない」といったポジティブなフィードバックを受けている。

 小塚さんは、「研究面や道具でフィギュアスケートは遅れている」と以前から口にしていた。たとえばスピードスケートは1990年代後半にスラップスケート(編注:ブレードと靴のかかとが離れるスケート靴)が誕生し、98年の長野五輪ではタイムが飛躍的に上がった。そうした靴が生まれたのも、日本に限らず、世界でこの競技に対しての研究がなされているからだ。

 一方で、フィギュアスケートはそうした研究があまりされておらず、文章化もされていない。道具についても「軽いといいねくらいしかまだ言われていない」と、小塚さんは嘆く。この数年で男子は4回転時代が到来し、女子もより難易度の高い技術が求められてきそうな中、選手が身につける道具が従来のままでは、競技の発展は望めないし、何より選手たちの体に危険が伴う。そういう意味で、新たなブレードの登場はフィギュアスケート界の分水嶺(れい)となるかもしれない。

金属を削る加工機の前で。「より進化したブレードを開発していきたい」と語る小塚さんの挑戦はまだ始まったばかりだ 【写真提供:TST Japan】

 小塚さんはブレード開発を始めたころを振り返りつつ、こう語る。

「(競技を始めて)23年間、ブレードと付き合ってきたのに正直何も分かっていなかった。開発するにあたり、本当にゼロからのスタートでした。まずはブレードを知るところから始めて、ノウハウをとにかく詰め込み、それをパズルのように組み合わせていきました。今回、こうして製品として発表するまでに至りましたが、これでようやくスタートラインに立ったところだと思っています」

 今後も「より進化したブレードを開発していきたい」と話す小塚さん。そしていつかは「自分が提供したブレードを使った選手が、世界の舞台で表彰台に立ってもらえたらうれしい」と、未来を見据える。小塚さんの挑戦は、自身も言うようにまだ始まったばかりだ。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント