スケート競技の第一線で長く戦うには 【対談】加藤条治×小塚崇彦 前編

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平昌五輪に出場するスピードスケートの加藤条治と、元フィギュアスケーターの小塚崇彦さんの対談が実現。以前から交流がある2人が語り合ったことは!? 【坂本清】

 スピードスケートの加藤条治(一般財団法人博慈会)は昨年12月30日、自身4度目となる五輪出場の切符をつかんだ。過去3大会は常に金メダル候補に挙げられながら、手にしたのは2010年バンクーバー五輪の銅メダルのみ。2月6日に33歳となったベテランは「今回は金メダル候補じゃない」と現状を認識しつつ、男子500メートルは混戦状態のため「今までと変わらないくらいチャンスがある」と、頂点を見据えている。

 一方、元フィギュアスケート選手の小塚崇彦さんは、加藤も出場したバンクーバー五輪で8位入賞。11年の世界選手権でも銀メダルを獲得するなど、長く競技の第一線で活躍してきた。昨年はゴルフを共にするなど、以前から交流があるという2人の対談が、平昌五輪直前に実現した。

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ピークを持っていくタイミング

4回目の五輪出場となる加藤。メダル候補だった過去3大会よりもリラックスした状態で過ごせているようだ 【写真:アフロ】

――加藤選手は4回目の五輪出場になりますが、心境はいかがですか?

小塚 五輪出場おめでとうございます。

加藤 ありがとう(笑)。心境としては、今までの五輪と比べてだいぶ精神的にも落ち着いた状態だと思います。過去3大会の五輪は、金メダル候補と言われて、精神的にもぎりぎりの状態だったんですけど、今回はそう言われていないので、リラックスした状態ですし、なおかつチャンスがないわけではない。むしろチャンスも今までと変わらないくらいあるし、自然体に近い状態で、チャレンジできる五輪だと思っています。

小塚 今回は選考会に向けて、急激に調子を合わせてきたように思いました。これまでは出るのが当たり前で金メダルを取ると言われ続けてきたのと、急激に状態を上げて選考会に合わせるのとで違いはありましたか?

加藤 ケガもあって、(14年の)ソチ五輪のあとはこれまでのようにずっと勝ち続けるという競技生活が送れず、夏のトレーニングはほぼ満足できない状態でした。ひざの調子が良くなく、スケートに大切な屈伸運動をほぼ避けていたくらいです。スクワットなどはするんですけど、ひざの曲げ方は違うし、基本的なウエートトレーニングはしていても、スケートにつながる動きは全くせずに夏を過ごしてきました。

 そういう状態で、五輪にピークを合わせると考えると、どのようなステップを踏んでいくかという話になります。今までみたいにシーズン頭からずっと勝ち続けていくことは、まず不可能だと自分で整理しました。前半は絶対に結果を求めてはいけない。今まで基本的なウエートトレーニングをしてきたことを少しずつスケートの動きにつなげていく作業を、シーズン前半はやってきました。五輪選考会の段階で、なんとかぎりぎり選ばれるところまでは持っていきたいと考えて、それをクリアしたところです。

 次の段階として、五輪では自分の力がスケートにマッチして、金メダルを狙えるところにまで持っていきたいと計画していました。ですから、計画通りには進んでいます。ピークを合わせる難しさというのは過去の五輪でもすごく痛感していましたし、ここまではうまくいっているけど、五輪でうまくいくかはこれから次第です。今の段階まで持ってくるのはそこまで難しくはないし、可能性としてはだいぶ高かった。ただ、ここから先はどんどん難しくなってくるので、今後の課題ですね。

小塚さんは現役時代、主に全日本選手権に向けてピークを合わせていたという 【坂本清】

――選考会から五輪までは1カ月半くらいです。段階を踏んでピークを合わせるのはどれくらい難しいのでしょうか?

加藤 フィギュアはどうやってピークを持っていく?

小塚 フィギュアスケートに関しては、全日本選手権があり、その前にも選考に関わる試合があります。すべての試合である程度の成績を残さないと選考にかからないので、けっこう難しい。全日本選手権だけではないし、ピークを1回1回作ってというやり方はあまり適さない。ただ、僕は主に全日本選手権にピークを合わせていました。やはり日本で一番の大会なので、そこで勝つことを目指していましたね。

加藤 選考基準に合わせた動きをしないといけないというのはあります。仮に選考基準が、前半戦からの結果を重視するなら戦い方も変わったと思います。ただ今回は、大会一発で決めるという選考基準だったので、迷わずにそこに合わせた作り方ができました。基準ありきで変わるところはあると思います。

小塚 蓄える期間があり、徐々に上がっていく段階では成績が出ないわけじゃないですか? ただ、周りは結果を求めてくるというのはありますよね。

加藤 それはある(笑)。今季は所属が変わって、新しく応援してくれる人は、加藤条治はもともと速い選手だと思っている。だから結果に必ず期待する。そこでの葛藤はありましたね。自分の中では「結果はもう少し待ってくれ」という状況なんですけど、応援する方としてはいつでも結果を出してもらいたいでしょうし、そのバランスの取り方はすごく難しかった。ただ、目先のことに合わせてしまうと、後々みんなが撃沈してしまう。だからそこは心を鬼にしてじゃないですけど……。

小塚 しっかりと調整することに重きを置く。

加藤 そう。こういう戦い方をしているとその苦しさはありますよね。

世界記録を出した直後の挫折は大きかった

――五輪や世界大会に出場すれば、結果を期待されると思いますが、そういうプレッシャーとはどう向き合ってきたのですか?

小塚 期待されるのはどのレベルでも同じだと思うんですね。なので、期待されるからこうしてやろうと思うのではなく、自分がどこにいきたいかを逆算していました。

加藤 プレッシャーとの戦い方は難しいですよね。今言っていたようにどのレベルでも期待はされる。これは五輪で戦っている人も、学生が市の大会で戦っていても、本気でやっていれば緊張度合いやプレッシャーは似たものがあります。もちろん重いプレッシャーはあるんですけど、あえてそれを特別視しないようにするのが、自分をコントロールする上で有効な手段だと思います。五輪という特別な大会で特別な注目を集めるのは事実なのですが、何でもかんでも自分の中で特別なことが起きていると思ってしまうと、平常心を保つのが難しくなるので、そういった心の整理はある程度できていたほうがいいかなと思います。プレッシャーとの戦いはうまくできていた?

小塚 う〜ん、どうかな。良い成績を取れば取るほど、周りの目がこちらに向いてくる。ありがたいことではあるんですけど、それに耐えうるだけの経験があるかというのが大切だなと思います。経験を積むことによって、風当たりが強くなっても耐えられる。そういう気の持ち方だと思いますね。

加藤にとって世界記録を出した後のトリノ五輪での挫折は、その後の競技人生に大きく影響を及ぼした 【写真:築田純/アフロスポーツ】

――お二人にとっての競技人生のターニングポイントはどこでしたか?

加藤 何箇所かあります。まず世界記録を出したというのが、自分にとっては大きなことでした。20歳くらいの若いころだったんですけど、高校3年生くらいから毎年1秒ずつくらいタイムを上げていって、世界記録を出したのが初めて世界大会で優勝したときだったんです。そこでトップ選手の仲間入りを果たし、追う立場ではなく引っ張る立場になった。時代を動かしたんだという気持ちもあり、選手として自分の中で大きく変わった瞬間だったと思います。

小塚 僕は19歳のときのスケートアメリカ(08年)で、後にバンクーバー五輪で優勝するエバン・ライサチェク選手とジョニー・ウィアー選手がいて、2人のどちらかが優勝するだろうと言われていました。その中で日本人の若造が優勝した。表彰台に立っていると日の丸が上がっていき、両脇に米国の選手がいて、しかも大会は米国で行われている。「なんだ、こいつ」という雰囲気になるかなと思ったんですけど、米国の人がすごく優しくしてくれたのを覚えています。プレスカンファレンスでも、話がこちらに投げ掛けられる。うちの親がスケートをやっていたのは前からメディアに出ていたので、「お父さんはどんな人なんだ?」とか、僕以外の人の話も聞いてもらえるようになった。「これで世界のトップレベルに入ってきたかな」と思った瞬間から、どんどん意識が変わっていきましたね。

加藤 あと僕は世界記録を出した直後の挫折も大きかったですね。世界記録保持者として勢いに乗っていた状況での(06年の)トリノ五輪で、練習の調子から見ても前日までメダルは間違いないと思っていました。どんなにミスをしても、メダルはいただきだと思っていたのが、結果は6位でした。調子に乗っていたんですね。勝っているときは勝っているなりの振る舞いがあるんですけど、それとの落差に衝撃を受けたので、考え方が変わりました。急に持ち上げられて、周りから神様のように扱われるけど、五輪で結果を出せないとすべてなくなってしまう。それを経験できたというのが、長い競技人生を送るために大事なステップだったと思います。あのときにいろいろ学んだことが、自分の中で土台になっています。

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