設楽悠太の記録を生んだHondaのスタイル 選手の意志を尊重したトレーニング計画

折山淑美

マラソンでも実績を出してきた

マラソン日本記録を更新した設楽悠太のトレーニングについてHondaの大澤陽祐監督に聞いた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 今年2月の東京マラソンで2時間06分11秒の日本記録をマークした設楽悠太が所属するHonda陸上競技部。かつては浦田春生が1991年世界選手権・東京大会、92年バルセロナ五輪に1万メートルで出場するなど、トラックで活躍する選手が多いチームだった。

 だがマラソンでは近年、中央大4年時に現在も日本学生記録として残る2時間08分12秒を出して2003年世界選手権パリ大会のマラソン日本代表になりながらもケガで欠場した藤原正和が、それ以来の低迷を脱して10年東京マラソンで2時間12分19秒を出して日本人初優勝。さらに13年3月のびわ湖毎日マラソンで2時間08分51秒を出して10年ぶりに世界選手権モスクワ大会の代表になっている。

 また32歳になって初マラソンに挑戦した石川末廣も3レース目だった13年のびわ湖毎日で2時間09分10秒で走ってチーム4人目の“サブ10(2時間10分を切るタイム)”ランナーになった。そして16年びわ湖まで3レースで2時間09分台で走り36歳にして16年リオデジャネイロ五輪代表になるなど、他チームとは少し違った特色を見せているのだ。

 そんなHondaのチームスタンスを、就任6年となる大澤陽祐監督に聞いてみた。

ニューイヤーで走れなければマラソンも難しい

大澤監督はHondaの特徴として練習サイクルの短さを挙げる 【スポーツナビ】

「かつてはどちらかというとそんなにマラソンランナーはいないチームだったが、02年に浦田監督から灰塚吉秋監督に変わった時に、NTT西日本で清水康次(97年、99年、03年世界選手権出場)を指導した矢野哲さんがコーチとしてきて、その辺りからマラソンにも力を入れていこうという流れになって来ました」

 03年には世界選手権代表が決まっていた藤原が入社し、同年12月の福岡国際マラソンでは野田道胤がチーム初のサブ10となる2時間09分58秒を出した。藤原は入社してから再度マラソンを走るまで5年もかかったが、学生時代から彼の面倒を見ていた小川智もコーチになり、試行錯誤してHondaのマラソントレーニングを確立していった。

 藤原が走れるようになってきた頃から年齢の近い石川がマラソンに取り組むようになったり、03年から走っていた堀口貴史が2時間09分16秒を出すなどという流れになってきたという。

「うちの場合は基本的には、練習で『40キロを何本走る』という点にこだわることはないですね。強いて特徴を挙げるなら他のチームと比べるとマラソン練習のサイクルは短いと思います。『夏にこのくらい走り込んだ』という他のチームいますが、うちの場合は、何カ月もかけて(マラソン練習をする)ということはあまりありません。各選手の特性に合わせて『確実にスタートラインに立たせることが大事』ということが今のやり方になっています。今の日本の競技スケジュールだと(1月1日に)ニューイヤー駅伝がありますので。最近では2月、3月のマラソンでしっかり走っている選手はニューイヤーも走ってからというケースが多いです。ですからどのチームもその時点で仕上げているように、実業団にとってはチームの目標として『駅伝』というのは外せないのが現状です。他のチームはそれを挟みながらうまくマラソン練習をやっていると思いますが、本格的なマラソン練習となるとやはり期間が短くなってしまいます。ひとつにはそういう理由もあると思います。
 昔の九州地区の選手たちは九州一周駅伝を走って、福岡国際マラソンに出るというスタイルでしたが、今はそのように走れる駅伝がないのは事実です。でも、今年の各マラソンの結果を見てみると、ニューイヤーの4区でしっかり走っている選手がマラソンでも結果を残している傾向ですよね。特に今年の4区は今までとコースが変わって、起伏も多くて向かい風も吹くずいぶんきついコースになったと思いますし、そういうコースをしっかり走れるくらいの走力がないと(マラソンは厳しい)、ということになるでしょう。その点では今は一概に、駅伝がよくないとは言えないと思います」

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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