MGCが生み出す長距離の意識改革
瀬古リーダー「日本のマラソン界変わる」

「段階をしっかり踏んでいける選考システム」

日本陸連が打ち出したマラソン選考方法の「MGCシリーズ」などについて、瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーに話を聞いた
日本陸連が打ち出したマラソン選考方法の「MGCシリーズ」などについて、瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーに話を聞いた【スポーツナビ】

 日本陸上競技連盟が2020年東京五輪へのマラソン強化策として新たに打ち出した選考方法である「マラソングランドチャンピオンシップシリーズ(MGCシリーズ)」。今年8月に開催された陸上の世界選手権ロンドン大会では、入賞者ゼロで資格獲得者は出なかった。しかし、国内レース第1弾だった8月27日の北海道マラソンでは男子2時間15分以内、女子2時間32分以内で優勝という条件を、男子は村澤明伸(日清食品グループ)、女子は前田穂南(天満屋)がクリア。「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」への戦いが動き始めた。


 日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーはここまでの結果をこう評価する。


「世界選手権は男女ひとりずつくらい入賞をして資格をクリアして欲しいと思っていましたが残念でした。世界大会初出場の若い3人に『何も考えずにやれば』と期待していましたが、考え過ぎて自滅した形になりました。ベテランの川内優輝選手(埼玉県庁)と中本健太郎選手(安川電機)はしっかり走ったと思いますが、若手に関しては経験不足だったと思います。夏のマラソンではありますが、数字的に見れば日本の選手も自分の力をしっかり出せれば絶対に入賞やメダルというところまでいけます。自分の力を出せていないというところに問題があるので、出せるように経験を積んでいかなければいけない。そのためにも段階をしっかり踏んでいける選考システムに変えて良かったと思っています」

MGC本番へのアプローチ方法もチャレンジできる

マラソンで成績を残すには「3〜4回目くらいがちょうどいい」と話す瀬古リーダー
マラソンで成績を残すには「3〜4回目くらいがちょうどいい」と話す瀬古リーダー【スポーツナビ】

 19年9月以降に開催される予定のMGCへの出場資格は既報されているように、MGCシリーズと指定された17年度と18年度に開催される男子5レース、女子4レースで6位以内に入って基準となる記録を突破した選手。さらにワイルドカードとして17年世界選手権8位以内、18年アジア大会3位以内のほかに、今年8月1日から19年4月30日までの国際陸連が世界記録を公認する競技会で、男子は2時間08分30秒以内、女子は2時間24分00秒以内の記録を出した者。期間内の上位2レースの記録の平均が男子は2時間11分00秒以内、女子は2時間28分00秒以内を出した者となっている。


 MGCで2名の代表を決めるが、さらに「MGCファイナルチャレンジ枠」を設け、“MGCファイナルチャレンジ派遣設定記録”を突破した選手1名を代表に選考する再チャレンジの道も残した選考方法になっている。


「夏のマラソンは我慢強さや粘り強さが必要ですが、それでは入賞が精一杯でメダルまでは届かないかもしれません。さらに世界選手権や五輪ではペースの上げ下げがありますが、それに対応するためにはスピードを持った者の方が有利ということもあり、最後の1枠ではスピードのある選手を選ぶという形をとっています。そこに至る過程のMGCシリーズでは、女子はペースメーカーを中間点までにしようと考えています。一方、男子の場合は世界基準でいかないとダメなので、そのためにもペースメーカーを置きますが、すべて同じペース設定だと面白味もないし、選手にも画一的な走り方を強いてしまいます。

 例えば東京マラソンが2時間3〜4分を目指すペースでいくなら、福岡国際マラソンは2時間6〜7分台を目指すペースにするなどバラエティーを持たせ、それぞれの選手が目指すレースを選択できるような形にしていきたいです」


 MGCシリーズの男子の1〜3位の2時間11分00秒以内、4〜6位の2時間10分00秒以内というのも余裕を持たせた設定だ。これなら初マラソンの選手でも最初から高望みすることなく挑戦できる記録でもある。


「当然それ以上いかなければいけないですが、最低限のところだし、初マラソンの学生でもいけるレベルだと思います」という瀬古リーダーは、自分の感覚からすればマラソンは3〜4回目くらいがちょうどいいと思うと話す。1回目はマラソンがどういうものか経験するためのレースで、2回目はそこで出てきた課題を克服する為のレース。そして本当の勝負はマラソンがなんたるかを知った3回目以降になる。そう考えればMGCシリーズが初マラソンの選手も、本番が3回目という形になるのだ。


 その点では今年のボストンを2時間10分28秒で走って初マラソンを経験した大迫傑(ナイキ・オレゴンプロジェクト)が12月の福岡国際マラソンで2時間7〜8分台を狙おうとしている取り組みを冷静だと評価する。またベルリンで2時間9分3秒で走っている設楽悠太(ホンダ)も東京マラソンあたりで記録を狙うだろうが、最悪でも2時間12分57秒で走れば2レースの平均で資格をクリアできる立場にいる。


「いろいろなアプローチの仕方はあると思いますけど一番やってほしいことは、早く記録を突破して資格を獲得して、来年をチャレンジの年にしてもらいたいということ。これまでは毎年、世界選手権や五輪などの重要な大会があるために、常に選考レースとなってしまい、練習という面ではどうしても控え目になってしまうことが多かったです。ですがMGCの資格を獲得していれば次に結果を出さなければいけないのはそのレースだけになるので、今までやれなかったことをやることもできるし、レースで失敗を恐れず冒険できる。半年とか1年とかガッチリ練習をするなど、普段できないことをやれる1年にすれば、その選手のステージもまた一段上がるのではないかと思います」

折山淑美

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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