設楽悠太の記録を生んだHondaのスタイル 選手の意志を尊重したトレーニング計画
選手それぞれに合わせて距離を組み立てる
設楽の月間走行距離はそれほど長くないが、代わりに試合を質の高い練習の場として調整している 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
「自分が最初にコーチになった時は、コーチの人数も多かったのですが監督がメニューを立てて、コーチはタイムを取るだけだと。その時、もう少しコーチが主導権を持っていた方がいいのではないかと思っていましたし、私が監督になった時には小川がすでにしっかりやっていたので彼に練習メニューを立ててもらうようにしました。その点では今のうちのマラソン練習もうまくメリハリをつけるというか、やはり練習を積める選手がいれば積めない選手もいるので、そのあたりの特性や状態を見ながら小川がうまくさじ加減をしてやっているという感じです。だから練習でも全員がこういう練習をするというのはありますが、個人の事情を見て調整します。例えば石川の場合は若い頃『脚が抜けてしまう症状』を持っていたので、トラックではなく同じような内容をクロスカントリーでやっていました。トラックよりロードがいいという選手は、ほかの選手がトラックで1万2000メートルをやる代わりにロードで12キロをやるなど変化をつけています」
『試合を使う』ことで質の高い練習を行う
「今のところは確立しているノウハウをどうしていくかというのがこれからの課題」と語る 【スポーツナビ】
「設楽の場合は普段でもポイント練習の質は高いし、本人も狙った試合に向かって質の高い練習を維持していきたいという部分はあります。その点では『試合を使う』というのが一番質の高い練習をできるということですね。東京マラソンの前も11月くらいから試合に出続けてきたけど、その1試合1試合はレベルの高いタイムで走っているから、それだけ追い込んでいる中で40キロを入れるのは難しくなる。ただその間も練習をしないかといったら、全部を調整しながら出ているわけではなく、練習を普通にやりながら出ていますので。試合と試合との間の練習はすごく体もきつい中でやっているので、そういうことがすべてつながっているのだと思います。もし調整して試合、調整して試合という形だったら当然、練習量も減りますが、彼の場合はそうではないのでトータルしていい練習ができているのだと思います。
それに距離に対する不安も、本人が最後は気持ちだといっているように経験しておかなくても大丈夫というのはあると思います。ただそれを他の選手にやれといったら無理でしょうね。川内優輝選手もそういうところがあると思いますが、それができるかどうかは体の強さとかメンタルの問題もあるので。いくら練習感覚とはいっても、毎週毎週試合だと疲れますから。その辺は自然に調整できる能力を持っているということでしょう」
選手の意志を尊重しながら、個々の特性やその時の体や心の状況に合わせて微調整をしていくマラソン練習。それがうまくハマッた結果が今のHondaの状況だろう。
だが大澤監督は「設楽の場合は特別だが、ほかの選手のことを考えればこれからさらにもっと上に行くためには、もっと違ったことをやらせなければいけないとも思いますね。もう少し40キロ走を増やした方がいいのか、走行距離を伸ばす方がいいのか、トレーニングの質を高める方がいいのかというところで、今のところは確立しているノウハウをどうしていくかというのがこれからの課題になると思います」と話す。
設楽を中心に動きを見せ始めた日本男子マラソン。その流れを見ながら、Hondaを含めた各チームが、さらにどう進化させていくのかというのがこれからの注目点になってくるだろう。