韓国は「歴代最高の準備」でW杯へ!? 不安定な守備が露見、世論は悲観ムードに

慎武宏

国内では「3戦全敗もあり得る」との報道も……

ドイツ、メキシコ、スウェーデンと同組の韓国。国内ではWへの期待度は低い 【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会で韓国代表が属するのは、ドイツ、メキシコ、スウェーデンと同じF組。国内では“死の組”と呼ばれているグループだ。

 前回大会王者のドイツは、欧州予選を10戦全勝で突破し、FIFAランキング(4月12日付)1位を走る優勝候補の筆頭。北中米カリブ海予選を勝ち上がってきたメキシコも、今大会で16回目の出場となるW杯常連国。韓国には、1998年のフランス大会で1−3で敗れた苦い記憶もある。さらに欧州予選プレーオフでイタリアを破ってロシア行きを決めたスウェーデンとは、親善試合などで過去4度対戦したが一度も勝ったことがない。

 それだけに韓国メディアの論調も悲観的だ。グループリーグ敗退を予想するどころか一部のメディアは、「3戦全敗もあり得る」などと報じているほど。ただ、ロシア大会への期待値が低いのは、組み分けの“不運”のせいではない。韓国の成績が芳しくないことも、不安の声が収まらない理由の1つになっている。

シン・テヨン監督の別名は“消防士”

シュティーリケ監督の解任後、チームを率いるシン・テヨン監督。別名は“消防士” 【Getty Images】

 振り返れば韓国は、ウリ・シュティーリケ監督が指揮官を務めていたアジア最終予選から苦戦続きだった。中国に7年ぶりに敗れ、敵地では1勝も挙げられず、ロシア行き失敗も現実味を帯びていたほどだ。事態を重く見た韓国サッカー協会は、ロシア行きがかかった最終予選残り2試合のタイミングでシュティーリケ監督を更迭。代わって当時47歳の韓国人監督、シン・テヨンを指名した。

 これまでも2016年のリオデジャネイロ五輪や昨年のU−20W杯など、前任者の解任などを受けてピンチヒッターとしてチームを任されることが多かったシン・テヨン監督の別名は、“ソバンス(消防士)”。韓国でも就任直後に挑んだイラン、ウズベキスタンとのアジア最終予選2連戦をスコアレスドローで逃げ切り、なんとかW杯ロシア大会への出場権を獲得しただけに、“火消し役”としての役目をしっかり果たしたと言えるだろう。

 だが、その後に行われた昨年10月の欧州遠征ではロシアとモロッコを相手に2連敗。翌11月にコロンビア、セルビアを相手に行なったホーム2連戦では1勝1分けの結果を出し、12月のEAFF E−1選手権では日本に4−1で大勝して優勝を勝ち取ったものの、W杯イヤーを迎えた後は、再び低空飛行を続けている。

 1月に国内組中心で臨んだトルコ遠征では、FIFAランキング100位台のモルドバやラトビアを相手に苦戦。試合はいずれも1−0で勝利したが、同グループのメキシコを仮想したジャマイカとの対戦では、事実上2軍と言える相手に2−2で引き分けるのが精いっぱいだった。

 さらに3月の欧州遠征では厳しい現実も突き付けられた。ソン・フンミン、キ・ソンヨンら欧州組も合流し、現時点でのベストメンバーと言える布陣で欧州遠征に繰り出したが、仮想スウェーデンの北アイルランドには1−2、仮想ドイツと位置付けたポーランドには2−3と歯が立たなかった。W杯のシミュレーションとして臨んだ試合で、これといった成果が見受けられないだけに、メディアもファンも不安を隠せないのだ。

「3−4−3」の“プランB”は結果が出せず

「3−4−3」で臨む“プランB”ではソン・フンミン(写真)が孤立するなど、結果が出ないのが現状だ 【Getty Images】

 もっとも、シン・テヨン監督が頭を悩ませているのは、目先の結果よりも内容の方だろう。常々語ってきた「プランAとプランBの両立」に今なお手応えを得られていない状況なのだ。

 “プランA”とは、シン・テヨン監督になって韓国がもっとも多く採用してきた「4−4−2」システムだ。所属するトッテナムで今季リーグ戦12ゴールを記録しているソン・フンミンを2トップの一角に置く布陣で、前出の11月のコロンビア戦ではソン・フンミンの2得点で2−1と勝利を挙げている。ソン・フンミンのパートナーはまだはっきりと決まっていないが、スピードのあるファン・ヒチャンやイ・グノなどが有力と言われている。戦術的にも着実に完成度を高めている、言わばチームのベースとなる戦い方だ。

 だが、「3−4−3」のフォーメーションで選手たちを配置する“プランB”に関しては模索が続いている。例えば、3月の北アイルランド戦では196センチの大型FW、キム・シヌクをトップに置き、ソン・フンミンを左ウィングで起用したが、平均身長186センチの北アイルランドにはキム・シヌクの高さは通用せず、ソン・フンミンも生きなかった。ポーランド戦では1トップを務めたソン・フンミンの孤立が顕著だった。ファン・ヒチャンを投入しシステムを「4−4−2」に変えることで、ようやく攻撃のリズムを取り戻すなど、“プランB”ではなかなか成果を挙げられていない。

 こうした状況を受けて一部では「プランBを放棄すべきだ」との声もあるが、もともとシン・テヨン監督は、さまざまな戦術を使い分ける指揮官でもある。例えばU−20W杯で指揮を執ったときは、グループリーグ第1戦のギニア戦で「4−1−4−1」を使ったが、第2戦では「3−4−3」に変更し、アルゼンチンを2−1で破った。時にはその采配が裏目に出て批判にさらされることもあるが、監督としてはいくつかのオプションを持っておきたいと思うのは当然のことだろう。

 ましてや韓国がW杯で対戦するのは、ドイツ、メキシコ、スウェーデンといった格上ばかり。攻めるよりも耐えて守って勝機をうかがわねばならず、そのためには守備に比重を置いた「3−4−3」のオプションは持っておきたい。シン・テヨン監督が“プランB”の確立を急ぐのは理由があるのだ。

 ところが“プランB”をテストした試合では、ことごとく結果が出ていない。初めて3バックを試した10月の欧州遠征2連戦では合計7失点を浴び、3月のポーランド戦では相手の2列目からの攻撃に全く対処できず、前半だけで2失点を許している。それだけにシン・テヨン監督も3月の欧州遠征後に、「プランBの準備を急がなければならない」と焦りを見せている状況だ。

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている。

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