連覇を狙うドイツのテストマッチ総括 W杯王座に溺れず、挑戦者として着々と

中野吉之伴

主力は健在、新戦力も台頭

主軸のエジル(右)はもちろん、ベルナー(中央)やドラクスラー(左)など若手の台頭も著しいドイツ 【Getty Images】

 これがワールドカップ(W杯)イヤーということなのだろうか。久しぶりに代表戦のワクワク感があった。ここ最近ドイツ代表の親善試合ではチケットの売行きが芳しくなく、多くても7割程度しか埋まらないことがしょっちゅうだった。だが、この日、3月23日に訪れたデュッセルドルフでも、その4日後のベルリンでも、久しぶりに満員となった。

 対戦相手がスペインとブラジルという極上レベルだったこともある。でもそれ以上に、スタジアムに向かうトラムの中やスタジアムでドイツのサッカーファンが、4年ぶりの世界大会を待ち望んでいるのがしっかりと感じられた。

「ミッション・タイトル防衛」

 それがロシアの地でドイツ代表が狙う唯一にして最上の目標だ。そしてそれを果たせる可能性もこの国の代表にはある。目標を前に自分たちの立ち位置を詳細に分析し、やるべきことと向き合い、ひとつずつ道を切り開いていく姿勢は大きな強みだろう。

 もちろん、連覇の難しさは周知の事実。他の優勝を狙う国々と比べて圧倒的な戦力があるというわけではない。4年前、ブラジルの地でW杯優勝トロフィーを掲げた後に、キャプテンのフィリップ・ラームをはじめ、ミロスラフ・クローゼ、ペア・メルテザッカーといった主軸級の選手が代表引退を表明した。代表チームにおける彼らの存在感は絶大だったために、その穴は簡単に埋まらないといわれ、事実、直後に行われたユーロ(欧州選手権)2016予選ではポーランドに完敗するなど、その後しばらくは安定感に欠ける戦いぶりを露呈してしまった。

 だが、そんな話がうそのように現在の代表チームの選手層は充実している。前回大会までの主力メンバーであるマヌエル・ノイアー、トーマス・ミュラー、メスト・エジル、マッツ・フンメルス、ジェローム・ボアテング、サミ・ケディラ、トニ・クロースらは負傷離脱中のノイアーを除いて今も健在で、昨年6月に開催されたコンフェデレーションズカップではこれまで出場機会を多くもらえなかった若手中心のメンバーで臨んで見事に優勝。ティモ・ベルナー、レオン・ゴレツカ、ラース・シュティンドル、サンドロ・ワーグナー、ヨシュア・キミッヒ、ユリアン・ドラクスラー、ヨナス・ヘクターらが代表での立ち位置を確立している。

強豪との連戦でレーブが試したこと

ミュラー(左)がゴールを決めた3月23日の親善試合スペイン戦は、1−1のドローに 【Getty Images】

 本大会開催まで100日を切った今回のスペイン、ブラジルとの2試合でドイツはどのような狙いを持って取り組んだのだろうか。選手起用のポイントとして代表監督ヨアヒム・レーブは、「テストマッチというのは今回のように2試合あったら、その中で可能な限りの選手を起用して試したいというアイデアを持っている」と話していたが、スペイン戦では現時点で主力とみられる選手が中心、ブラジル戦では7選手を入れ替え、当落線上の選手にアピールのチャンスを与える場のように活用していた。なぜスペイン戦に主力をぶつけたのか、ということに関しては「スペイン戦の前にそうしようとした直感があった」とレーブは理由を口にしていた。インターナショナルマッチウイークで取り組めることにはどうしても限りがあるため、最初の試合に慣れ親しんだメンバーを送ったのは非常に理解できる話だ。

 この2試合では結果そのもの、内容そのものにこだわりすぎるのではなく、現時点でできることを、優勝を争うであろう対戦相手との試合の中で見極めることを重要視していた。そのため、ある程度リスクを抱えながらも2試合を通して守備ラインを非常に高く上げ、敵陣から積極的にボールを奪いに行くサッカーを志向した。

 とはいえ守備ではすべての局面で狙い通りに奪い取れるわけではない。実際にパスの出口の作り方がうまく、プレスをかいくぐる術(すべ)が確立しているスペインのような相手からボールを奪い返すことは非常に難しい。だから抑えるべきポイントの優先順位が重要になる。前からプレスに行くときはそこから縦への展開を許してはならない。もし許した場合は、相手の攻撃を遅らせながら素早く帰陣。裏を取られたらペナルティーエリア内にブロックを作る。折り返しを狙ってくるから中盤選手はそこを埋める。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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