連覇を狙うドイツのテストマッチ総括 W杯王座に溺れず、挑戦者として着々と

中野吉之伴

カギを握るクロースとキミッヒ

現在のドイツ代表において、戦術的に大きな役割を担うクロース(右)とキミッヒ(中央) 【Getty Images】

 こうした点でクロースのポジショニングと状況判断は秀逸だ。ボールを失ったとき、「ここに出されると危ない!」という場所に必ずいる。そういえばブラジルW杯ではバスティアン・シュバインシュタイガーのこうした動きが素晴らしかったことを思い出す。守備に汗をかいても持ち味は消えない。むしろ、より効果的に試合に絡めるようになる。「攻撃では、守備では」とぶつ切りに分けて考えられていない。すべて流れの中で行われているからだ。そして攻撃では常にボールを受けに動く。相手が奪いに来ても、さらりとかわす。リズムを作り、リズムを変える。だが、どれだけクロースが起点を作ってもパスのもらい手がいなければそこから先に運ぶことはできない。

 ブラジル戦のメンバーとスペイン戦に出ていた主力組とでは、ここに大きな差があった。エジルやミュラー、ドラクスラーやベルナーは自分がボールをもらうためだけではなく、意図的にスペースを作り、相手の意識を自分の動きにひきつけることで、次の味方の動き出しを促すことができている。1人が守備ラインの裏に飛び出し、相手の守備が動いたところで外のスペースに流れていくといったイメージが共有されている。

 また効果的に攻撃を組み立てるためには、ビルドアップの局面では相手の守備がスライドしようとする時間よりも早くパスを展開することが大事だ。例えばセンターバックからフリーのサイドバックへのロビングパスを相手守備は狙っている。滞空時間が長いとそれだけ相手に守備対応の時間を与えてしまう。だからその先を作り出さないといけない。そうした点でキミッヒの戦術理解の高さは素晴らしい。相手がプレスに来るところでダイレクトでパスをはたいてもらい直したり、ボールを一度収めることで食いつかせてからサイドを変えたりと幅広いプレーをすることができる。また守りを固める相手に対してはキミッヒからの高精度クロスは大きな武器になる。

 うまくいくこともあったが、課題も見られた。それだけにドイツにとってこの2試合は学ぶことが多い機会となった。レーブは「両チームにとって非常にいいテストになったと思う。いい認識を得ることができた。だからこそ、このような相手を探していたのだ。スペインとブラジルと対戦することで自分たちの立ち位置が分かる」と振り返っていた。やるべきことが分かった。そのことが何よりの収穫だったのだろう。「代表チームというのはどうしても試合間で期間が開いてしまう。大会前の合宿で14日間、集中的に取り組むことで整理される」と説明していた。

若手を叱責も「心配はしていない」

レーブ監督は4年前の優勝にあぐらをかくことなく、貪欲にチームと教え子の成長を求める 【Getty Images】

 一方でテストマッチとはテストする試合なのか。あるいはテストされる試合なのか。いやどちらかではなく、どちらも求められるものではないだろうか。だからこそブラジル戦の後、クロースはこの日チャンスをもらった若手選手のアピール不足を鋭く叱責していた。
「それぞれの選手が個人でできるところで責任を持ったプレーを見せなければならない。誰もがスタメン出場に向けてアピールできる可能性があるんだ。だが今日はその点で全く足らなかった」

 もちろんチームとしての取り組みがある。狙うべきサッカーがある。でも個人ですべきことをまずはやらなければならない。レーブもここを指摘する。

「前半は自分たちから優勢的にゲームを支配し、仕掛けていこうという姿勢がなかった。スタメンには若い選手がいたが、こうした強豪相手に今日のような試合展開というのはいい経験になったと思う」

 それぞれの国に、それぞれの選手に持ち味がある。戦略のために自分たちの良さを封印するのではなく、自分たちの力を最大限に発揮するために戦略が整理されることが必要であり、それが本当の意味でのチーム力なのだろう。レーブもそこを求めている。

 ブラジル戦後には「本大会に向けて不安を覚える試合となったか?」という質問もドイツ人記者にされていた。レーブは「いや、心配はしていない。うまくいかない日はあるよ。自分たちにどんなメンタリティーがあり、何をできるのかは分かっている。過去の大会前のテストマッチでも負けたことはあったはずだ」と落ち着いた声で答えていた。そして、「心配はいらない。自分たちはここから調子を上げていく」と語り、にっこりと笑ってみせた。

 王者としての自負。そして連覇に挑む挑戦者としての姿勢。本大会に向けて、着々と準備は進んでいるようだ。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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