「正直、泳ぎたくない時期もあった」 リオ五輪銀・坂井聖人が切った再出発

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コンディションを崩した要因

リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得しながら、昨季は不本意な結果に終わった坂井聖人。今季は再出発を切る1年になる 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

「いやぁ、だいぶ苦しかったですね」

 思うようにいかなかったという昨シーズンについて聞くと、坂井聖人(セイコー)は苦笑いを浮かべながらそう答えた。2016年のリオデジャネイロ五輪では、競泳男子200メートルバタフライで“水の怪物”マイケル・フェルプス(米国)を0.04秒差にまで追い詰め、銀メダルを獲得。世界のトップスイマーに躍り出た坂井にとって、昨年はさらなる飛躍を遂げるシーズンになるはずだった。

 しかし、金メダルを期待された7月の世界水泳(ハンガリー・ブダペスト)では、男子200メートルバタフライでまさかの6位に終わる。優勝はおろか、表彰台にすら立てなかったのだ。その原因について、坂井はこう語る。

「体重の増減が激しく、体調管理が自分でうまくできていなかったことがまず一つ。それに加えて直前の高地合宿で、山を下りるタイミングが合っていなかったんだと思います。いつもは3週間くらいそこで練習を積み、余裕を持って山を下りるのですが、そのときは1週間にしてみたところ逆に血液の流れが悪くなり、疲労がなかなか抜けなかった。調整ミスでした」

 高地トレーニングは、人間の環境に適応する力を生かし、運動能力を向上させるもの。酸素の少ない高地でトレーニングすることによって、低地より少ない運動量で心肺機能を鍛えることができる。その一方で、疲労回復には時間を費やし、高地への順応にも個人差があるため、下山するタイミングが重要となる。坂井は通常3週間ほどトレーニングするところ、昨シーズンは「挑戦」というテーマのもと、1週間で下山したことが、コンディションを崩す要因となってしまった。

「今までは順調に行き過ぎていた」

昨年の世界水泳はまさかの6位。「泳ぎたくない時期もあった」というほど落胆したが、「どん底まで落ちて、もう1回上がるのも手段」と気持ちを切り替えた 【スポーツナビ】

 昨年4月の日本選手権では200メートルバタフライで初優勝。課題としていた前半の100メートルを「世界でも出遅れないタイム(53秒81)」で入ることができ、後半はややバテてしまったものの、1分53秒71でフィニッシュした。自身の理想に近いレースとして、このときの泳ぎを挙げるほど、春先は調子を上げていた。自分に期待をしていたからこそ、それが裏切られたときは落胆も大きくなる。坂井にとって、世界水泳での6位という結果は失望以外の何物でもなかった。

「本当に残念な結果になってしまいました。世界水泳後は正直、泳ぎたくない時期もありましたね。練習中は何も考えずに泳いでいましたが、あのレースで抱いた感情が湧き出てしまい、あまり泳ぎたくないなという気持ちでした」

 とはいえ、いつまでも立ち止まっている時間がないことは分かっていた。坂井は1日オフをもらい、気分転換を図ったという。

「その日は何も考えずに遊びにいきました。そうしたらだいぶ気持ちが楽になったんです。今までは順調に行き過ぎていた。1回どん底まで落ちて、もう1回上がるのも(強くなるための)手段かなと思えるようになりました。昨年の6位という結果があるから、今の自分がいると思うので、ここからもっとステップアップして、より成長できるようにいろいろなことを考えながら頑張っていきます」

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