「正直、泳ぎたくない時期もあった」 リオ五輪銀・坂井聖人が切った再出発
瀬戸とフェルプスを見習って
早稲田大の先輩でもある瀬戸大也(左)からは「オンとオフの切り替え方」を学びたいと語る 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
「たまに一緒に外出するのですが、そのときはいろいろと見ています。瀬戸選手は本当にオンとオフの切り替えがしっかりできる。息抜きするときはするし、練習のときは顔つきが変わって、ものすごく練習しています。僕はまだ瀬戸選手ほどオンとオフの切り替えができていない。それができるようになったらもっと結果が出ると思うので、そういう力を伸ばしたいと思っています」
競技面で理想としているのが、フェルプスの泳ぎだ。幼いころから五輪でフェルプスが多くのメダルを獲得する姿を見てきた(フェルプスのメダル獲得数は金23個、銀3個、銅2個の計28個)。自分もいつかこういう選手になりたい。そうした思いが競技を続ける原動力にもなってきた。
「テレビで見ていても次元の違う泳ぎをしていて、1人だけ輝いているんですよね。ストロークが体以上に大きく見えますし、オーラも感じられる。体もけっこう柔らかくて、水中の動きもすごい。僕もそういうオーラや泳ぎを見習って、あのレベルに到達できるように精進したいです」
坂井が感じる競技の難しさと楽しさ
勝負を分けるのはコンマ何秒の世界。そうした厳しい戦いを坂井たちスイマーは繰り広げている 【写真:エンリコ/アフロスポーツ】
「競泳に限らず、どの競技でも常に調子が良いということはないと思います。調子が悪い大会もあれば、すごく調子が良い大会もある。そこの調整は難しいです。また競泳はタイムにこだわっていてコンマ何秒の世界で、派遣標準記録が切れなかったり、負けてしまうことがある。それも競泳の辛さだと思います。逆に楽しさは、そうした苦しい思いをして頑張った分、リオ五輪のときのように、結果が出たときの喜びはかなり大きい。そういうところに僕は楽しさを感じています」
コンマ何秒の世界というのは、普通に生活していればほとんど意識することがない。そんな世界でスイマーたちはしのぎを削っている。坂井が言うには0.01秒でも記録を更新したら「ものすごくうれしい」のだという。本当にわずかなタイムを縮めるために、選手たちは日々鍛錬を続けている。
4月1日付けでセイコー所属となり、社会人としての一歩を踏み出した 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
「僕は小さいころに、フェルプス選手や松田丈志選手を見て水泳をやりたい、水泳で目立ちたいと思うようになったので、今度は自分のレースで子どもたちに勇気や感動を与えられる選手になりたいと思っています」
坂井は、穏やかな笑みを浮かべながらそう答えた。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)