独立時代に増田大輝がバットを思い切り振れなかったワケ 北米遠征で自信をつかんだ直後に「今年で辞めます」
【写真は共同】
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バットを振れなかった理由
「バットコントロールがうまいよねえ」
「あれ、体ができてきたら面白いんじゃないか?」
だが、増田自身のなかではまったく満足なプレーができていなかった。ブランクの影響が大きく、まったく打てそうな気がしない。守備においても体が動いていない。
「俺なんてこんなもんなのかな? やっぱりこんなもんか。NPBなんて、もう無理だ……」
2013年シーズンを最後に、森山コーチと長内孝コーチ(元・広島ほか)が退団し、森山コーチは愛媛でコーチを務めることになった。徳島には中島輝士コーチ(元・日本ハムほか)と武藤孝司コーチ(元・近鉄)が新たに就任している。
武藤をコーチとして招聘することを決めたとき、そのパイプ役となったのは、実は森山だった。かつて近鉄の遊撃手としてならした武藤に坂口代表は、守備面の強化を期待している。そこには増田のさらなるレベルアップも当然含まれていた。
「森山が『これはいけます』って言ってた選手だし、ポジションもショート、セカンドだから、ぜひよろしくお願いします」
ある試合で、増田が簡単なゴロを捕球ミスしたことがあった。
「もっと1球の大事さ、1球の怖さを知れ!」
試合後のミーティングで、武藤コーチからそう叱咤を受けた。
その1球に仕事が、お金がかかっている。もうアマチュアではない。ここで学ぶのはプロとして戦うための何たるかだ。それを考えながら守備をすると、いつの間にか納得のいくプレーができ始めた。
増田が再び野球を始めたことを知り、球場に通い始めた男がいた。小松島高校時代の中西コーチだ。スタンドから見ていて気になっていることがある。増田のバットが振れていないのだ。
中西の指摘は図星だった。
増田が思い切りバットを振れない理由。それは「バットを折りたくないから」だった。
アイランドリーガーとなってから、増田が最もキツいと感じていたのは金銭面だ。バットを1本折るたびに、1万数千円が消えていく。それを考えないようにしても、痛いものは痛い。なるべくなら折りたくないと思う気持ちが、いつしかバットを振れなくさせていた。
「バットなんか、何本でも折っていいから。もっと思い切っていかんとあかん。ゲームメークできる力があるんだから、もっと自分らしさを出せ!」
そうだな。折っても仕方がないよな。割り切って打席に入ると、徐々にバットが走り始めた。
「詰まってもOK。しっかり振ろう」
味方投手に負担をかけないよう、守備でリズムを作る。バッティングならしぶとく粘って、相手に嫌がられるようなバッティングをする。そういうところを出していこう。器用で技術があって、数字も残せる。そういう選手になりたい―。
打率が上向き始めると同時に、自信もつき始めていた。
島田監督自身、野手をNPBに送り込むことを目標として掲げている。武藤コーチと連携しつつ、増田を上に押し上げられるレベルにまで育てたいという明確な意図があった。
体は小さいが、身体能力は非常に高い。それゆえに、二遊間へのゴロに対して体の正面で捕らず、バックハンドで捕って、一塁へのジャンピングスローでアウトにしてしまう。アクロバティックな反面、軽率に見えるところがあった。
「基本に忠実に行こうよ」
「回り込んで、真正面で捕れるってところを見せようよ」
守備において、武藤コーチは確実性を求めた。打撃でも同じである。ヤマを張って一発を狙うような打撃ではなく、きっちり走者を進められる。ヒットエンドランを決められる。より実戦で生きる打撃をするような指導に努めている。
二塁手としての守備で、よく言われる欠点があった。
「腰が高い」
島田監督の目には腰が高い分、エラーすると雑に映ってしまう。だが、深く腰を落とし、基本に忠実な守備を心がけようとするなかで、増田のなかに「これは自分本来の守備じゃない」という違和感が生まれてきた。
「あのエラーは納得だな。自分の捕り方だったら捕れてた」
たとえミスをしても「この姿勢じゃしょうがない」と思うようなプレーが増え始めている。感じていたのは、自分自身のプレーがなくなりかけていることだった。「自分の色」が消えてしまっている。
「ああ、俺は姿勢をあんまり低くしすぎないほうが、タイミングよく捕れて、あとのステップにもつながってるのに……」
プレーヤーとしての強烈な自我が、己のスタイルを変えられることを拒否し始めている。
導き出した折衷案は、「腰が高い」と言われていたころの捕球姿勢に戻しながら、より「1球の大切さ」を意識していくことだった。
「このほうが、もっと自分が出せるような気がするな」
2015年、増田にとって2年目のシーズンが始まろうとしていた。坂口が「NPBに行かせる」と約束した2年目のスタートを前に、増田の周りを取り巻く状況は、大きく変わろうとしている。