複合・渡部暁斗を脅かすライバルたち フレンツェルら独勢、ノルウェー陣も難敵

小林幸帆

渡部暁の評価は「ジャンプ10:クロカン7」

平昌五輪個人ノーマルヒルNHで金メダルを獲得したフレンツェル(手前)。LHに向けて渡部暁のライバルは1人ではない 【写真:ロイター/アフロ】

 14日に行われた平昌五輪ノルディック複合個人ノーマルヒル(NH)で、日本のエース渡部暁斗(北野建設)が2大会連続の銀メダルに輝いた。頂点にはあと一歩届かなかったが、20日のラージヒル(LH)で再び同種目で日本人初の個人金メダルに挑む。

 4年前のソチ大会に続き、NHで渡部暁とのデッドヒートを制したエリック・フレンツェル(ドイツ)が最大の難敵のように見えるが、LHに向けては金メダルをめぐるライバルは1人ではない。

 フレンツェルは今季ジャンプで苦しみ、史上初となる総合5連覇中のワールドカップ(W杯)でも14戦を終え1勝、総合ランクも8位だった。それでも、渡部暁が「エリックは勝つと決めた試合で勝つ」と言うように、並外れた勝負強さの持ち主。平昌五輪のNHではジャンプを修正してくると、「W杯6連覇より五輪連覇」を有言実行し、ドイツの旗手として任務もきっちり果たした格好だ。

 渡部暁は、昨年3月のW杯でフレンツェルとのゴール前スプリントで競り勝ち、走りで優勝に持ち込めることも証明しているが、今季5勝のうち4勝はジャンプでトップにつけており、台が大きく差を広げやすいLHは大きなチャンス。走力のある選手に25秒ほどのリードをつけられれば理想的か。

 選手を見るものさしとして、国際スキー連盟がジャンプとクロスカントリーの能力をそれぞれ10段階で評価したものがある。渡部暁は最新の指標で「ジャンプ10:クロカン7」とされている。

 年明けから絶好調のジャンプは満点評価だ。NHでもライバルたちが次々とメダル圏外へと外れていくのを尻目に、3位につけた。ヒルサイズまで飛んでも着地でテレマークが決まるのも大きな強みで、自画自賛する飛型は全体トップの点数をもらうことも多い。クロカンが7点と低いが、今季はジャンプで大きくリードして余裕の一人旅というレース展開が多いことも関係していそうだ。ちなみに、昨季は「9:8」だった。

行く手を阻むのはドイツの金メダル候補?

フレンツェル(中央)を筆頭に、ルゼック(左)、リースレ(右)はドイツが誇る“飛んで走れる”金メダル候補 【写真:ロイター/アフロ】

 これまで渡部暁の行く手にしばしば立ちはだかってきたのが、“飛んで走れる”金メダル候補3人を擁するドイツだ。手強い彼らに、思わず「毎回毎回、ジャマしやがって」と本人が笑い飛ばしたこともある。

「ノルディック複合とは、飛んだあとに走って最後はドイツ人が勝つ競技」

 ドイツの大衆紙が、なんとも高飛車な見出しをつけていたのは1年前のこと(※元ネタは、イングランドの名選手ゲーリー・リネカーの「サッカーとは22人が90分間ボールを奪い合い、最後はドイツが勝つ競技」)。

 ソチ五輪後から他国を圧倒し始めると、昨季は一強体制が完成。W杯では23戦のうち渡部暁の2勝以外は全てドイツの誰かが優勝をさらっていくやりたい放題だった。ところが、今季は開幕からそろってジャンプで苦戦し、ライバルたちの逆襲を食らったが、五輪に合わせてジャンプの調子を上げてきている。

 ともに今季W杯1勝のヨハネス・ルゼック(ジャンプ7:クロカン9)とファビアン・リースレ(8:9)は、フレンツェル(8:9)にも引けを取らないバランスの取れた選手だ。

 昨季、フレンツェルから主役を奪うキャリアハイの大活躍だったのがルゼックで、世界選手権では、団体も含む全種目で金メダルを独占し、複合では史上初の4冠達成。W杯でも、「ジャンプ9:クロカン10」という見たこともないようなハイスコアをたたき出し、「10:9」のフレンツェルとスーパーマン手前で総合優勝をめぐるバトルを繰り広げた。

 14日のNHは、ジャンプで首位から1分26秒差の11位と出遅れたが、得意のクロカンでパワー全開。猛チャージで一時はトップから15秒差近くまで詰めると、全体3位のタイムで駆け抜け、5位フィニッシュした。

 ビッグタイトルを手にしている2人の陰に隠れがちだが、リースレは今季W杯でドイツ勢最高の総合4位につける。クロカン猛者で、スプリントの馬力は抜群。渡部暁いわく「すごくアグレッシブに走って、他人が転んで自分が勝つみたいな泥臭さ、勝ちへのハングリーがある」。ソチ大会のLHでは、ゴール目前のカーブで接触して転倒させたルゼックを置き去りにして銅メダルをもぎ取っている。今大会のNHではルゼックと同じようにジャンプで失速したが、16位から7位まで巻き返した。

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著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

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