世界のラグビーを知るディーンズ監督 「各国の戦い方が均質化してきた」
選手としても指導者としても世界で活躍
選手としても、指導者としても、確かな実績を残してきたロビー・ディーンズ監督 【写真提供:WOWOW】
パナソニック監督としても就任1年目の2014年度からトップリーグ連続優勝。さらに世界選抜やバーバリアンズの指揮官として世界のトップ選手を招集、交流してきた。選手としてもオールブラックスでプレーしただけでなく、欧州でもプレー。選手として、コーチとして、世界のラグビーを知り尽くす名将が語るシックス・ネーションズとは?
――ロビーさんにとって、シックス・ネーションズとはどんな大会でしょうか?
一言で言って、素晴らしい大会です。そして、発展し続けている大会だと思います。
近年の特徴としては、各国の戦い方、プレーの仕方、ラグビーの環境などが均質化してきたことが挙げられると思います。
一方で、これまでの伝統的な魅力、歴史的な背景を考えると、各国のラグビースタイルに差があった方が良い、その方が魅力的だという考え方もあります。互いに長年のライバル意識もある。これまでは、その違いがテストマッチの魅力をつくってきたけれど、今はその差が本当に小さくなったと思います。
やはり、プロフェッショナルの時代になったことで、戦術やコーチング理論、トレーニング理論など情報面の交流が飛躍的に多くなりましたし、コーチ、選手たち自身も南半球、北半球の区別なく行きかうようになりました。それまでの違いが少なくなるのは避けられないのでしょう。
北半球でのプレーが「必要不可欠な経験に」
多くの選手を起用しながらパナソニックを成長させている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
フランスでプレーした経験があります。幸い、1シーズンだけでしたけどね(笑)。
言葉が違っていたのはもちろんのこと、それまでニュージーランドで経験していたラグビーとは何もかも違いました。特に違ったのは準備の部分です。同じことをするのでも、北半球と南半球、それぞれの国、さらに地域によって、いろいろなアプローチの仕方があると学びました。とても刺激的な経験でした。プレーヤーとしてもコーチとしても、私にとって必要不可欠な経験になりました。
――コーチングも違っていましたか?
当時はずいぶん違っていました。今は、ニュージーランドなど南半球のコーチがたくさん北半球に行っているから、昔ほど違いはなくなってきましたけどね。でも、文化的な背景や伝統的な戦い方があるから、プレー面の特徴は残っています。
ここ(日本)で行われているラグビーとは明らかに違います。同じ競技だから同じところもあるけれど、はっきりした違いもあります。気候も違うし、どこの国も自分たちの持ち味、強みを生かしたプレーをしていますからね。それは技術の面でも、戦術の面でも、そしてフィジカルをどう鍛えてどう生かすかと言う面にも及びます。
僕も、実際にプレーヤーとして北半球のラグビーを経験できたことはラッキーでした。どちらが良い悪いということじゃなく、それぞれの国に、それぞれのやり方があるということ。特にテストマッチみたいな大きな舞台では、いつもやっているスタイル、国の特徴がはっきり出ます。プレッシャーがかかるほど、いつもと違うものは出せなくなりますからね。
昨年11月の日本とフランスのテストマッチ(23対23の引き分け)は、その特徴が良く出ていたと思いますね。日本は早くワイドにボールを動かしたい。フランスはそのペースを断ち切って、ゲームをスローダウンさせたい。体の大きさ、腕力の強さを生かした戦いに持ち込みたかったはずです。
「イングランドはプレー面でものすごく進化」
エディー・ジョーンズHC(左)の下でイングランド代表は好調をキープしている 【写真:ロイター/アフロ】
一言で言うと資源の塊(かたまり)だね。多種多様なタイプの選手がたくさんそろっています。トレーニングする文化も備わっていて、体が大きく、強い選手がたくさんいます。そういうチームに対抗するのは大変なことです。もっと大きく、強く、速くならないといけませんから。
だけどイングランドは、プレーの面でもものすごく進化している。以前よりもゲームを進めるスピードが上がっているし、野心を持っているし、優れた判断能力を持った選手をつくり出していて、とてもバランスが取れたチームになっています。次のワールドカップが本当に楽しみです。
――ワールドカップで日本はアイルランド、スコットランドと同組になっています。
アイルランドは、ヘッドコーチのジョー・シュミットの影響が大きいと思います。
もともと、意欲のある選手が多い、努力する文化が根付いています。自国の持っている資源・素材を最大限に生かしていこうとすること、これはアイルランドの伝統といって良いでしょう。選手人口はイングランドよりもずっと少ないけれど、そんなことは微塵(みじん)も感じさせませんよね。本当に、心からリスペクトしたい国ですね。
スコットランドは、歴史的にはトップランナーと言うよりもチェイスする(追いかける)側、上位の国に食らいついていく側の国と見なされていましたけど、今はもう、その立場には甘んじていません。イングランドの次、アイルランドの次……といった見方をされるのはもうゴメンだ、という強い意志がプレーにあらわれています。プレーに進化が見えますし、結果を出そうという意志と、勝つことの喜びを覚えてきていると思います。
――シックス・ネーションズの他の国にはどんな印象をお持ちですか。
ウェールズは多様性を持った国という印象があります。イングランドの特徴とアイルランドの特徴がミックスされていると言えば良いでしょうか。
歴史的に見ても、1970年代の黄金期には独創的なラグビーを見せていましたし、歴史に残るような名選手がたくさん出ました。次のワールドカップに向けても、そういう素晴らしい選手をこれからもたくさん発掘していくと思います。試合では、ウェールズ代表からは戦う意志をすごく感じます。まだ南半球の相手に常に勝つようなところには行っていないですけど、その構図は近いうちに変わるかもしれませんね。
そして、フランスは外せない、要注意のチームです。特にワールドカップのような短期決戦ではね。
彼らは気持ちがパフォーマンスに表れるチームで、自分たちを信じているときはとてつもない力を出します。最近のフランスは力が落ちているという見方もあるけれど、2011年のワールドカップを思い出せば分かる。予選プールではトンガに負けたのに、決勝トーナメントではイングランドとウェールズに勝って決勝まで勝ち上がって、決勝ではオールブラックスと1点差の勝負を演じました。フランスが優勝してもおかしくなかったですよね。それがあるから、どんなときもフランスは侮れません。
「エディーは言ったことを実行する人間ですからね」
スーパーラグビー5度優勝と、経験豊富なディーンズ監督(中央) 【写真:ロイター/アフロ】
ワールドカップという大会では、すべての選手が、自分を捨ててチームを勝たせるためにあらゆるエネルギーを出し切る。代表として大会に臨む以上、その責任があると分かっているし、たくさんの人が自分たちに注目していることも分かっている。2019年には、日本中の人たちが釘付けになると思います。
2015年に日本代表が南アフリカを倒したときのことがまた語られるでしょうし、次はもっと上を求めることになります。チームも選手もファンも、もう一段上、決勝トーナメントに進むことを願っていますし、そこまで行かないと満足できないですよね。
日本代表はそれができるだけのポテンシャルを持っています。サンウルブズに入っている選手たちはスーパーラグビーを通じてインターナショナルの経験を積んでいますし、日本代表としてもスコットランドやアイルランドとも戦っています。今秋にはオールブラックスとも戦います。ワールドカップの頃には十分に経験を積んで、成功するためには何が必要なのかを理解したチームになっているでしょうね。
――最後に、今年のシックス・ネーションズの優勝を予想していただけますか?
ハハハ。人生で最後のギャンブルにしたいくらい難しいね。そもそも僕は賭けごとは好きじゃないんだ(笑)。
そうですね、もしも自分の家が担保に入っていて、どれかひとつをどうしても選べと言われたら……今シーズンなら、僕はイングランドを選ぶでしょうね。なぜなら、まずエディー(ジョーンズHC)が「結果を出す」と何度も言っていますし、彼は言ったことを実行する人間ですからね。彼は多くの選手を見てきて、コーチングの引き出しもたくさん持っています。そして、勝利を目指すことに対してものすごく貪欲で妥協がないのです。選手たちも、それについていくしかないと思いますよ(笑)。
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最終節:
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