日本が圧勝、女子ジャンプ団体戦 蔵王を盛り上げたチーム戦の意義

スポーツナビ
 20日のノルディックスキー・ジャンプ女子ワールドカップ(W杯)団体第2戦。高梨沙羅(クラレ)、伊藤有希(土屋ホーム)、勢藤優花(北海道ハイテクAC)、岩渕香里(北野建設)の4人で挑んだ日本は、2位のスロベニアに17点の大差をつけ、圧勝で2連勝を飾った。選手たちの大ジャンプを一目見ようと、会場となったクラレ蔵王シャンツェ(山形)には多くの観客が詰めかけた。

 女子のみの団体戦が日本開催のW杯で行われるのは初めてのことだ。この日の観客数は5,500人と発表され、個人戦が行われた前日の3,000人からほぼ倍増。市内中心部から蔵王エリアまでの主要な公共交通機関であるバスは満席の便も出て、臨時の増便が運行されたほどだった。

蔵王は過去最高の盛り上がり

W杯団体戦で2連勝を飾った日本チーム 【写真:松尾/アフロスポーツ】

「年々観客が増えていますが、今日は今までで一番多くお客さんが来ているのではないでしょうか。歩くスペースもないくらいで」と語ったのは、会場の応援をリードした「エイブル応援団」の浅田祐太朗さん。国内で行われる主要な女子ジャンプ大会に足を運んで3年目になるというが、決してアクセスの良くない蔵王シャンツェを埋めた観客に目を丸くする。

 人数だけでなく、この日は会場の盛り上がりも熱を帯びた。選手がアプローチを滑り始めればそこら中でチアホーンが鳴り響き、たいこやタンバリンの音色も聞こえる。日本選手がスターティングゲートに現れるとそのボリュームは最高潮に達し、加えて数多くの日の丸がはためいた。

 観客が生み出した日本のホーム、という雰囲気は、個人戦のそれと比べて明らかに増していた。浅田さんも「個人戦ももちろんそれぞれを応援するのですが、団体というカテゴリーになるとみんなで日本を応援するということで、より一体感を感じますね」と語る。個人戦と比べてより日本勢の勝利を期待できるという点も、会場のムードを押し上げた一因だろう。

定着してきた女子ジャンプの人気

蔵王シャンツェには多くの観客が詰めかけた(写真は19日のもの) 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 このように大きな盛り上がりを見せた20日の蔵王シャンツェだが、かつてはもっと“おとなしい”大会だったと言う。選手が好ジャンプを見せても、会場には拍手が起こる程度。浅田さんも「蔵王は静かなファンの方が多いイメージがあった」と振り返る。

 そこで浅田さんはスキー競技の人気が高い欧州の応援スタイルを調べて“輸入”し、他競技ではあまり見かけることのなくなったチアホーンでの応援を取り入れた。そこに「いけいけタカナシ!」「飛べ飛べイトユキ(伊藤有希)!」といった“日本的”な声掛けも加え、現在の応援スタイルが出来上がった。

 一度ムードが温まった会場は、自律走行的に盛り上がりが持続する。かつての女王サラ・ヘンドリクソン(米国)が登場すると、応援団のコールを待つことなく大きな声援が送られた。

 蔵王は、女子ジャンプのW杯が国内で初めて開かれた場所でもある。「高梨選手の活躍などから足を運ばれたファンの方が魅力を感じられて、女子ジャンプの人気が根付いてきているのかな」と浅田さん。競技者としてジャンプ競技を始める入り口である「ジャンプ少年団」の女子選手比率が、地域によっては男子を上回ってきていることからも、それは裏付けられるかもしれない。

個人戦では今シーズン、まだ日本勢の勝利がない。団体戦での優勝を飛躍のきっかけにできるだろうか 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 女子ジャンプのW杯が開催されるようになってから今年で7シーズン目を迎えるが、盛り上がりとともにその人気は少しずつ浸透してきている。表彰式のあと、雪が舞う蔵王シャンツェの夜空を照らしたのは何十発もの花火。かつて山岳信仰から修行の場として知られた蔵王エリアに、新しい文化は根付くだろうか。

 ファンの後押しもあってか、今シーズン苦しむ高梨は1本目でトップの93メートルを飛び、「1本目は昨日より少し良かった」と、全日本スキー連盟・斉藤智治ジャンプ部長も一定の評価を下した。2番手として飛んだ勢藤が「個人戦とは違う緊張感があった」と語ったように、チーム戦は選手にはいつもとは異質のプレッシャーを与える。21日には同じく蔵王で個人戦が行われる。今シーズンは海外勢に押され気味な日本勢だが、これを機に飛躍のきっかけをつかんでほしい。

(取材・文:藤田大豪/スポーツナビ)
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