初めて“勝てない”高梨沙羅 それでも笑顔で「ワクワクする」

スポーツナビ

今季最高の2位に入ったが……

今季最高の2位に入った高梨(左)だが、昨季から合わせて7戦連続で優勝を逃した。ルンビ(中央)とアルトハウス(右)の“2強”が立ちはだかっている 【写真は共同】

 もしかすると高梨沙羅(クラレ)のワールドカップ(W杯)最多勝利記録をこの目で見られるかもしれない……。札幌・宮の森ジャンプ競技場を包んだそんな空気は、一瞬でため息に変わった。

 14日に行われたノルディックスキーのジャンプ女子W杯札幌大会2戦目、暫定1位に立つ高梨を最終競技者のマーレン・ルンビ(ノルウェー)が超えていく。最長不倒98.5メートル。高梨は90メートル超のジャンプを2本そろえたが、ルンビは95メートル超のジャンプを2本そろえた。両者の合計スコア差は20.2点、距離に換算すると11メートルで、今季最高の2位に入りながらも完敗と感じさせる試合だった。

 これで6試合を終えた今季の女子個人W杯はルンビとカタリナ・アルトハウス(ドイツ)の欧州勢がそれぞれ4勝、2勝と席巻。昨シーズンW杯総合優勝の高梨、同2位の伊藤有希(土屋ホーム)ら日本勢の前に“2強”として立ちはだかっている。

 高梨は13日の札幌大会1戦目でも“2強”の後塵を拝し3位。個人では今季6戦0勝、昨季最終戦から合わせると7戦連続で頂点を逃したことになるが、これはW杯に参戦した2011/12年シーズン以降初めてのことだ。

欧州“2強”が女子ジャンプ界を席巻

好条件下で行われた今大会の成績は、欧州勢との距離を示すものといえるかもしれない 【写真は共同】

 高梨の“6戦連続未勝利”は過去に2度あった。ひとつは初参戦からの6試合(参戦7試合目で初優勝)。もうひとつはソチ五輪シーズン翌年の14/15年シーズンだが、この時は「成長による体型の変化からの不調」(山田いずみ日本代表コーチ)が理由で、高梨自身に要因があるものだった。

 今回は少し事情が異なるかもしれない。札幌2連戦は天候に恵まれ雪はパラつく程度、風も弱めと非常に穏やかな条件の中で行われた。一般的に好条件下では実力通りの結果が出る。地元北海道での凱旋試合における3位、2位という成績は、連勝したルンビ、高梨と競りながら2位、3位に入ったアルトハウスとの現在地を表すものと言えるだろう。

 もちろんW杯シーズン総合優勝4回の高梨が本調子ではないのも確かだ。ルンビも「(高梨は)まだベストな状態ではないのかもしれない」と語れば、本人も「昨シーズンに自分のジャンプをかなり見失ってしまい、今は改善している途中だが、まだ求めている状態にはない」とコメントしている。

 高梨は同時に“2強”を「本当にお強い選手が2トップを組んでいる」と評した。特に身長173センチと大柄なルンビについては「テイクオフからアプローチまでの技術が昨シーズンよりも安定している。もともと足の強さがある選手なので、男子のジャンプに近い」と高く評価。今季4勝、シーズン総合ランキング首位と好調の要因を分析する。

 14年のソチ五輪から女子ジャンプが五輪種目に採用されたことで、欧州勢は強化に本腰を入れ始めた。最近は「若い世代の欧州勢が非常に伸びてきている」と女子ジャンプの関係者が口々に語っていた。現在の状況は、その芽がいよいよ花開き始めたことで生まれているのかもしれない。

久しぶりの追う立場に「ワクワクする」

追う立場に「ワクワクする」と表情や口ぶりは意外なほどに明るい 【写真は共同】

 自身の不調、そしてライバルの成長から初めて「勝てない」という経験をしている高梨だが、その表情や口ぶりは意外なほどに明るい。

「壁を乗り越えたいと強い気持ちを持って練習すること自体が楽しかったりするので、乗り越えた時はどれくらいうれしいんだろう、と想像しただけでワクワクします」

「自分はまだ完全でなく伸びしろがあるので、まだまだ戦える。上に選手がいるということは下からどんどん上がっていけばいい。そうやってポジティブに考えられるようになったことも成長しているところだと思います」

 16歳にしてW杯総合優勝を果たした高梨は、21歳にして久しぶりに追う立場になった。ライバル不在の中、ひたすら勝利数を積み重ねるよりも、競う相手がいた方がアスリートの本能に火がつくというものだ。「最近はなかったことなので」と笑顔を見せる高梨からは、強がりなどの感情は微塵(みじん)も感じられなかった。

 平昌五輪の開幕までは1カ月を切った。高梨はアプローチの姿勢や、スーツの改良など試行錯誤をギリギリまで続けていくという。かねてより本人が課題に挙げ習得に励んできたテレマークは、この日の2本目でピタリと決まり、マークした55.5点の飛型点は2試合通じて全選手中トップタイだった。地道な取り組みも実りつつあるだけに、焦らず1つずつステップを踏んでいく。

(取材・文:藤田大豪/スポーツナビ)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント