上田西を初勝利に導いた元Jリーガー 松本山雅の地域リーグ時代を知る白尾監督
選手権初得点・初勝利という新たな歴史を作る
上田西が1−0で京都橘を破り、選手権初得点・初勝利という新たな歴史を作った 【写真は共同】
下馬評では圧倒的不利と見られた彼らだが、「全員攻撃全員守備」の哲学どおり、立ち上がりから一体感ある戦いを前面に押し出す。守備では3バックの中央に陣取るキャプテン・大久保龍成を中心とした堅守で相手を跳ね返し、攻撃も最前線に陣取る長身FW根本凌を軸にスピーディーな攻めで応戦。ボランチ・宮下廉の精度の高いプレースキックでも何度かチャンスを作った。
そして0−0で迎えた後半22分、直前に交代出場したばかりの田中悟がペナルティーエリア内の混戦でPKをゲット。大久保が確実に沈めて1点をリードする。その後、京都橘の猛攻を受けたが、全員が集中力を切らすことなく粘り強い戦いを続け、1−0でタイムアップの瞬間を迎える。上田西は選手権初得点・初勝利という新たな歴史を作ることに成功した。
直後の勝利インタビュー。マイクを向けられた就任2年目の白尾秀人監督は感極まって言葉に詰まり、涙をこぼしそうになった。
「(出身地の鹿児島県)与論島から仲間がたくさん来てくれたので……。もちろん選手権で初めて勝ったことにも感動しましたけれどね」と彼は恥ずかしそうに笑っていた。
自身の経験から、貪欲さと諦めない姿勢を伝える
その彼はV・ファーレン長崎、FC琉球を経て現役を引退した後、わざわざ長野県に根を下ろして指導者に転身。東海大三や地球環境、野沢南といった高校で経験を積み、16年から上田西へ。常勤講師になると同時にサッカー部監督に就任した。
「白尾さんが来る前はただロングボールをスペースに蹴って、そこに走り込むようなサッカーをしていた。でも白尾さんが来てからは『適当なプレーは絶対にするな』と厳しく言われるようになった。ロングボールを蹴るにしても、つなぐのか、スペースに展開するのかをハッキリさせるように指示された。何事も徹底してやり切ることの大切さをたたき込まれました」と大久保は語る。
上田西は松商学園や創造学園のような学校ではないため、県内外から広範囲にタレントを集めることはできない。大久保も地元クラブ・上田ジェンシャンのジュニアユース出身だ。好セーブを連発したGK小山智仁はAC長野パルセイロジュニアユースの第3GKだったという。この日のスタメンで県外出身者は根本くらい。それでも白尾監督は自らのプロ経験を踏まえて、高いレベルを選手たちに求め続けた。その貪欲さと諦めない姿勢が伝わった結果、彼らは長野県を制覇。選手権へと駒を進めてきたのだ。