安藤瑞季がセレッソサポに“覚悟”を示す 密着マークに貫いたストライカーマインド

平野貴也

セレッソサポが見守る中でゴール

密着マークを受けながら後半アディショナルタイムにゴールを決めた安藤(左) 【写真は共同】

 高校サッカー選手権の会場に、Jクラブのグッズを身に付けたサポーターの姿があった。ひと際目立つ桜色。セレッソ大阪のサポーターだ。お目当ては、27日に来季からの加入が発表されたU−18日本代表FW安藤瑞季。

 C大阪が元日に埼玉スタジアム2○○2で行われる天皇杯の決勝戦に勝ち進んでおり、せっかくだからと1日早く大阪から上京し、高校サッカー界屈指のストライカーを観に来たという。ハーフタイムにメーンスタンドで観戦していたサポーターに声を掛けると「まだ見せ場がないですね。やってくれるのを楽しみにしているんですけれど。ちょっと難しくてもやれるようじゃないと、プロでは通用しませんからね」と早くも期待の裏返しとも言うべき叱咤(しった)の声が返って来た。

 彼らの気持ちを知ってか知らずか、安藤は密着マークを受けながら、驚異的などん欲さでゴールを狙った。多くは空回りに終わったが、後半アディショナルタイムにゴール。「最後は(アシストをした荒木)駿太とチームメートに救われました。チームに貢献しようと思ってずっと走っていたし、最後に実ったという感じです。でも、大迫勇也さん(ケルン/ドイツ)の記録には、まだ10点足りないので、そこに向けて頑張りたいです」と大会最多得点記録の更新に意欲を見せた。攻めの姿勢を貫き通して結果を残してしまう部分は、やはり“非凡”だった。

試合後に見せたストライカーの姿勢

 第96回高校サッカー選手権大会は、大みそかに関東各地で1回戦を行い、安藤が所属する長崎総科大附(長崎)は3−0で中京大中京(愛知)を下した。前半17分に前線に投入されたDF嶋中春児が先制点を奪い、中京大中京の反撃には体を張ったブロックで耐えた。終盤は、カウンターで追加点を狙い、ボランチの小川貴之が後半23分に追加点。最後は、アディショナルタイムに、相手最終ラインの裏に抜け出した荒木がGKを抜き、カバーに戻る相手の狭間を突いた横パスを通し、安藤がGKのいないゴールに落ち着いて決めた。

 安藤は、なかなかゴールを決められなかった。

 特に前半は“刺客”に活躍の範囲を狭められていた。中京大中京は組み合わせが決まった後、主力ではないがフィジカルコンタクトの強さを持つDF笛川翔矢を先発に抜てき。強豪校との3度の練習試合で相手エースを密着マークして予行練習をした笛川が安藤に張り付いた。安藤は無理にマークを外して豪快にシュートを打とうとするあまり、相手に当たってしまったり、椅子を壊すのではないかという強力なシュートをゴール裏のスタンドに打ち込んだりしていた。ただ「あそこまでガッツリ付かれたのは初めて」と話した安藤に話を聞いたとき、反省点が口を突くのではないかと思ったが「やっている中で改善できた。自分のマイナスなプレーはなかったと思う」と言い切った。ひたすら前向きでゴールを狙い続けるストライカーマインドだった。

 もっとスマートなやり方は、あっただろう。マークした笛川は「練習試合でけっこうやれたので自信を持って臨みましたけれど、強さが違いました。背負われたときに(背中越しにプレッシャーをかけても)びくともしない。ミスしたら反転して決められるという雰囲気が漂っていて、インターセプトも自信を持って狙えなかった。でも、周りを使ってワンツーとかをされる方が嫌でした。無理に打ちにきてくれるので助かった部分はあります」と話した。

 早い段階からゴールを期待して見ていると、もっと周りを使えば、力を抜けば……と言いたくなる部分があるが、安藤は十分に周りが見えている中で、ゴールを狙う姿勢を貫いていた。

 後半41分、左サイドで意表を突くヒールキックのスルーパスで決定機を演出した。マークしていた笛川は「あのヒールパスは対応できませんでした。食いついたら反転して抜いて来るだろうと思ってちょっと距離を置いたらパスを出されて……。あのコースが見えているとは思いませんでした」と驚いていた。一方で安藤は「自分が仕掛けていくところを見せて、見せつけてのスルーパスだったので狙っていた。周りを使いながらやれる自分の持ち味を出せた」とスッキリした表情だった。

小嶺監督「彼が失敗をしても僕は何も言わない」

 自分を信じ、難しい道を突き抜けて結果を出すのがエースだ。何人もの名選手をプロの世界に送り込んできた小嶺忠敏監督は「点を取る力はあるけれど、最近は不発だった。彼を生かすパスが出れば点を取る。だけど、それがないとイライラして自分で無理してやる。(良いパサーがそろっているわけではない)チーム事情があるので、彼が強引にやって失敗をしても、僕は何も言わない。それで点を取れるようになれば一流だから。もう少し味方を使った方がいいし、そうすれば相手の背後でもらえるパスが出てくるとは言うんだけれど、まあ無理をしますよね。分かる気がします」とベストではないプレーの選択も容認して、安藤を育てている。

 プロになる選手として見られる、高校サッカー最後の舞台。安藤は自分が何をすべきか、覚悟ができている。試合を終えた後、ロッカールームに戻った安藤は、アシストをした荒木にこう言ったという。

「次は、お前に(パスを)出すから」

 まず、ゴールを奪う。仲間を生かしながら、さらに自分の良さを出してチームを勝利に導く。こんなに頼もしい男はいない。
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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