43年ぶりの栄冠と最多優勝を懸けた戦い 天皇杯漫遊記2017 C大阪対横浜FM

宇都宮徹壱

「いつもとちょっと違っている」天皇杯決勝

今年の天皇杯決勝は埼玉スタジアムで開催。「いつもとちょっと違っている」雰囲気に戸惑う 【宇都宮徹壱】

 2018年の元日、関東地方は快晴。今年も好天の下、天皇杯の決勝が行われることとなった。もっとも今年の決勝は、「いつもとちょっと違っている」ように感じられてならない。理由の1つには、今年の決勝の会場が埼玉スタジアム2002(以下、埼スタ)になったことが挙げられよう。

 14年の夏に東京・国立競技場が2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて改修工事に入ったため、以降の天皇杯決勝はさまざまな会場を転々とすることとなった。14年大会は日産スタジアム、15年大会は味の素スタジアム、16年大会は関西に転じて吹田スタジアム、そして今大会が埼スタ。

 埼スタといえば、浦和レッズのホームゲーム以外では、まず代表戦のイメージがあり、最近はFUJI XEROX SUPER CUP(以下、スーパーカップ)やルヴァンカップ決勝、さらには高校選手権決勝の舞台にもなっている。だが、埼スタが天皇杯決勝の舞台となったのは、実は今大会が初めて。元日をここで迎えるのは、何とも不思議な気分である。

 もう1つ、「いつもとちょっと違っている」理由を挙げるならば、それは準決勝から決勝まで間が空いていたことである。今大会の準決勝が行われたのは、昨年の12月23日。試合前、会場では今大会の振り返り映像が流れていたが、ヤンマースタジアム長居で取材した準決勝が、ずいぶん昔の出来事のように感じられる。

 昨年までの天皇杯は、準々決勝以降は年末年始の慌ただしさとセットになっていた。ところが今大会は、1回戦が4月22日、23日に設定されたことにより、これまでになく余裕を持った試合日程が組まれた。クリスマスから大みそかにかけての年末、天皇杯の試合が見られなかったのは少し寂しい気もしたが、選手のコンディションを考慮するなら悪くない判断だと思う。準決勝から中8日、ここ埼スタで初めて開催される天皇杯決勝。この栄えある舞台にたどり着いたのは、セレッソ大阪、そして横浜F・マリノスである。

43年ぶりに顔を合わせたファイナリスト

試合前の横浜FMサポーター。彼らが4大会ぶりの天皇杯優勝を目指す理由はいくらでもあった 【宇都宮徹壱】

 C大阪の決勝進出は、これが14年ぶり12回目。対する横浜FMは4年ぶり9回目。これほど多くの決勝進出経験がありながら、両者の顔合わせはJリーグ開幕以降初めてである。それぞれの前身である、ヤンマーディーゼルと日産自動車時代を含めても、過去1回しかない。その唯一の対戦となったのが、1984年元日に行われた第63回大会の決勝(2−0で日産が勝利)。当時の記録を読み返すと、日本サッカーの「時代の境目」が垣間見えてくる。

 当時のヤンマーの監督は、選手兼任だった釜本邦茂氏。日本が世界に誇る不世出のストライカーは、この試合の後半途中に出場し、これが現役時代の公式戦最後の試合となった。一方、日産を率いていたのは、後に日本代表監督となる加茂周氏。74年に日本人初となるプロ契約監督として日産の監督に就任すると、10年目にして初の挑戦となった天皇杯決勝に勝利し、トップリーグ昇格後の初タイトルをもたらした。日産と横浜FMの栄光は、まさにこの天皇杯決勝が起点となっている。

 ここで余談。昨年のルヴァンカップでC大阪が優勝した際、「クラブ初のタイトル」というメディアの表現がどうにも気になって仕方なかった。なぜならヤンマー時代にJSL(日本サッカーリーグ)で4回、そして天皇杯で3回優勝しているからだ。最後に彼らが天皇杯を掲げたのは74年大会。もしも彼らが2冠を獲得すれば、同時に43年ぶりの快挙を達成することとなる。のみならず、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)にはプレーオフでなく、本大会からの出場となることも、クラブにとっては非常に魅力的だ。

 対する横浜FMも、4大会ぶりの優勝を目指す理由はいくらでもあった。まず、4シーズンぶりとなるACL出場権獲得。そして、今季限りでの退任が決まっているエリク・モンバエルツ監督に、優勝で花道を飾りたいという思いもあるだろう。さらに、今大会で優勝すれば天皇杯の優勝回数は8回となり、慶應BRB(慶応クラブ、全慶応も含む)が持っている最多優勝回数に並ぶこととなる(37年大会の慶應大学の優勝を除く)。84年元日から積み上げてきた栄光の数々。それが、初タイトルを獲った対戦相手との43年ぶりのファイナルに勝利することで、最多タイの記録達成となるのだ。さまざまな因縁や伏線をはらんだ今大会の決勝は、14時42分にキックオフを迎えた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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