43年ぶりの栄冠と最多優勝を懸けた戦い 天皇杯漫遊記2017 C大阪対横浜FM
チーム一丸で泥臭いサッカーを貫いたC大阪
水沼(中央)が逆転ゴールを決め、泥臭く戦ったC大阪が歓喜の瞬間を迎えた 【Getty Images】
この日のC大阪は、キャプテンの柿谷曜一朗、そして清武弘嗣や山口蛍といったタレントがそろい踏みで、息の合ったパス交換から確実にチャンスを作っていく。後半に入っても、たびたび相手の分厚い守備に弾き返されるが、それでもゴールへの道筋を手繰り寄せる試みは続いた。その努力が実ったのが後半20分。水沼宏太のフェイントを挟んでのシュートは、横浜FMのGK飯倉大樹がブロックしてDFにクリアされるも、これをFWで起用されていた山村和也が拾って右足でネットを揺らす。タイスコアとなってからは拮抗(きっこう)した展開となり、試合の行方は延長戦に委ねられることとなった。
その後もC大阪の攻勢が続き、横浜FMは相手の攻勢を押しとどめるのが精いっぱい。モンバエルツ監督によれば、後半25分に途中出場となったウーゴ・ヴィエイラは「今週にけががあった」、前半アディショナルタイムに退いた山中亮輔も「準決勝で足を痛めていた」。それらのアクシデントについて、指揮官は「言い訳にはしたくない」としていたが、やはり彼らにできることは限られていた。そんな中、C大阪に逆転ゴールが生まれる。山村が左サイドからクロスを入れ、ファーサイドで待ち構えていた水沼が、下平の背後から飛び出して頭で反応。時間は延長前半5分であった。
鮮やかな逆転劇。しかしC大阪の戦い方が際立っていたのは、むしろここからであった。もともと守備的な選手だった山村を最終ラインまで下げ、5バックで守りを固める。それまで旺盛な運動量を誇っていたソウザが足をつると、代わって入った23歳の秋山大地がしっかり穴を埋める。あの清武までもが、身体を張って相手ボールを奪っている。今季のスタメン出場が1試合しかない若手も、ワールドカップ出場経験のあるベテランも関係ない。全員がタイトル獲得という目標に向かって、一丸となって戦っている。C大阪は泥臭い戦いを貫き、そしてついに歓喜の瞬間を迎えることとなった。
鳥栖時代から続く日韓師弟関係について
就任1年目にして2冠を達成したユン・ジョンファン監督(右)。来季のACL本大会の出場権も手にした 【Getty Images】
そんな水沼について、試合後の監督会見で「この1年、彼はどのような役割を果たしてきたのか」という質問があった。ユン監督は11年から14年途中までサガン鳥栖の監督を務めていたが、水沼とは12年から2年半を共に過ごしている。12年に鳥栖をJ1最高位タイの5位に導いた指揮官は、日本で最高のシーズンを共有してきた選手をC大阪でも重宝していたようだ。それは「この1年間が順調だったのは、水沼がいたからと言っても過言ではない。なぜなら私の考えを選手たちにうまく伝えてくれたからだ」という発言からも察することができよう。
もはや「師弟関係」と呼べるユン監督のコメント。韓国の指導者と日本の選手による師弟関係は、もちろん過去にも例がないわけではなかった。しかしながら、わが国のトップリーグレベルにおいて、これほど成功を収めた日韓師弟関係というものは、ちょっと記憶にない。これまで「絶対に負けられない」ライバルとして語られ続けてきた隣国とのサッカー関係。しかしここに来て、優秀な韓国人監督に率いられるJクラブが、今度はアジアの頂点を目指すこととなったのだ。来季のACLに、またひとつ新たな楽しみが加わった。
元日の天皇杯決勝は、シーズンの最後を締めくくる公式戦であると同時に、次のシーズンの予感にも満ち溢れている。今回も、プレーオフを含むACLの出場チームと、スーパーカップの対戦カードが決まった(C大阪は2月10日に川崎フロンターレと対戦)。そしてこの試合を現地、あるいはテレビで観戦したサッカーファンは、2年目のユン・ジョンファン体制のC大阪、そしてモンバエルツ以後の横浜FM、それぞれに思いを巡らせたことだろう。勝者はもちろん敗者にとっても、早くも次のシーズンの到来が待ち遠しくなる、今回の天皇杯決勝であった。