意外性なきターンオーバー同士の対戦 天皇杯漫遊記2017 長野対磐田
天皇杯の日程変更とシーズン移行
長野Uに初めてJ1クラブを迎えた長野は、ベテランの明神や宇野沢がスタメン出場 【宇都宮徹壱】
さて、ちょうどこの日、Jリーグに関する大きなニュースがあった。かねてよりJFA(日本サッカー協会)が導入を進めていたシーズン秋春制について、Jリーグ側がこれを受け入れない方針であることが報じられたのである。もちろん、28日の理事会での正式な決定を待つべきであるが、報道によれば、J1からJ3の全54クラブのうち、実に8割(ということは40クラブ以上)が、もともとシーズン移行には消極的であったという。当然だろう。いくらJFAが「欧州主要リーグとシーズンを合わせるメリット」を説いたところで、大半のJクラブにとっては「ウチにはあまり関係ない話」と捉えていただろうし、寒冷地のクラブはむしろデメリットのほうが多いと感じていたはずだ。
JFAとJリーグによる将来構想委員会では、(1)2019年から実施、(2)22年から実施、(3)当面は移行しない、の3案が挙がっていたという。実は私は、天皇杯が今大会から4月開幕となったのも、シーズン移行に向けた布石ではないかと考えていた。これほどの大改革を行うのは、タイミングからして「19年から実施」される(であろう)秋春制をにらんでのものではなかったか──。いずれにせよ、シーズン移行に向けた準備が粛々と進んでいると思っていたので、今回のJリーグ側の判断は十分に納得できるものであったと同時に、いささか拍子抜けするものにも感じられた。
思えばこの日に取材する長野もまた、冬季五輪の開催地になるくらい、積雪の多い地域である。改修工事を経て2年前に完成した長野Uスタジアムは、雪がスムーズに流れ落ちるような屋根の形状など、寒冷地の施設ならではの工夫が随所に見られる。とはいえ、真冬にホームゲームを開催するには、インフラが十分に整っているとは言い難い。そもそもスタジアムや練習場を何とかすれば済む話ではなく、スタジアムまでの交通インフラも考える必要がある。Jリーグの現実的な判断に、おそらく多くの長野サポーターも安堵(あんど)していることだろう。
J1とJ3のサブメンバー同士による対戦
カウンターで活路を見出す長野に対し、磐田は適度な距離感を保ちながら的確に対応 【宇都宮徹壱】
おそらく「中村俊輔が長野で見られるかも!」と期待した人も、ある程度はいただろう。だが、この日のメンバーリストには中村はもとより、川又堅碁もムサエフもカミンスキーもベンチにさえ入っていなかった。代わってスタメンに名を連ねたのは、普段は出番が限られた選手ばかり。今季のレギュラーと呼べるのは、DFの櫻内渚と高橋祥平くらいだ。相手が完全なターンオーバーを敷くのなら、ジャイキリの可能性はあるかもしれない。ところが長野もまた、いつものメンバーとは明らかに違う。チームの顔とも言える宇野沢祐次もいるにはいるが、今季の出番はわずかである。
端的に言えば、私が選んだカードは、J1クラブとJ3クラブのサブメンバー同士による対戦であった。天皇杯で、格上のチームがメンバーを落とすというのは、よくある話。だが、カテゴリーが下のチームもサブメンバーで挑んでくるというのは、ちょっと珍しいケースだと思う。当然ながら試合は、磐田が一方的にゲームを支配する展開が続いた。ただし若い選手が多いこともあり、前線に連動性と迫力を欠いていた。むしろGKの武田大をはじめ、長野の守備面での気迫のほうが上回っているように感じられた。他会場ではすべての試合でスコアが動く中、長野Uは0−0でハーフタイムを迎える。
前半は決定機をものにできなかった磐田が、ようやく均衡を破ったのは後半7分。右サイドから供給されたクロスを、ニアサイドに走り込んだ齊藤和樹が頭で合わせる。ボールはそのまま緩い円弧を描きながら、武田が守るゴールの左隅に吸い込まれていった。長野にしてみれば、それまで必死に相手のシュートをブロックしてきただけに、いささか不運な失点。長野はその後、有永一生や佐藤悠希といった攻撃の主力をピッチに送り込むが、90分でのシュート数はわずか2本に終わった(磐田は10本)。かくして1点のリードを守りきった磐田が、大きな波乱もなく準々決勝進出を果たした。