あっさりと敗れた前回のファイナリスト 天皇杯漫遊記2017 川崎対柏

宇都宮徹壱

スタメンが好対照となった川崎と柏

現時点で3冠の可能性を残す川崎。リーグ戦から8人の選手を入れ替えて準決勝進出を目指す 【宇都宮徹壱】

 4月22日にスタートした第97回天皇杯。あれから半年が過ぎて、出場88チームは8チームにまで絞られた。10月25日の準々決勝が終われば、準決勝は12月23日、そして決勝は来年の1月1日。2回戦以降、ずっと平日の夜に開催された天皇杯も、その頃には「冬の風物詩」らしさが戻ってくるに違いない。それにしても、あれほど「ジャイアント・キリング」をあおりながら、ベスト8がすべてJ1勢となったのは、いささか寂しい限り。そのせいもあってか、準々決勝4試合のうち3試合は、4日後のリーグ戦でも同じ顔合わせで対戦する珍事となった。

 そんな中、今回は等々力陸上競技場で開催される、川崎フロンターレ対柏レイソルのカードをチョイス。ホームの川崎は今年の元日、優勝した鹿島アントラーズとともに吹田スタジアムで決勝の舞台に立っている。前回大会の両ファイナリストは今大会も手堅くベスト8に駒を進め、J1リーグでも首位鹿島を2位川崎が2ポイント差で追う展開となった。しかし鹿島は、ルヴァンカップの準々決勝で敗退。現時点で3冠の可能性があるのが、主要タイトルとは縁がない川崎とセレッソ大阪という、実に興味深い展開となっている(もっとも残り4試合で、C大阪が首位との10ポイント差を覆すのは容易ではないだろう)。

 昨シーズン、「無冠とオサラバ」というクラブの目標が、結果として壮大なフラグとなってしまった川崎。あれから1年が経ち、彼らの目前には2つのタイトルがぶら下がっている。10日後にはC大阪との初タイトルを懸けたルヴァンカップのファイナルがあり、リーグ戦では鹿島とのデッドヒートもいよいよ佳境。そんな中、川崎はこの準々決勝をどう戦うのだろうか。貪欲にすべてのタイトルを目指すのか。それともタイトル獲得の確率を高める戦い方を選ぶのか。ちなみにこのカードも4日後、ホーム&アウェーを逆にして再び顔を合わせるため、両者がどういうスタメンで臨むのかが注目された。

 キックオフ45分前、等々力の記者席に到着。さっそくメンバー表を確認する。アウェーの柏は、リーグ戦前節(第30節・大宮アルディージャ戦)のスタメンから8人が残った。対する川崎は、前節(サンフレッチェ広島戦)から大幅にメンバーを入れ替え、スタメンで残ったのは奈良竜樹、車屋紳太郎、森谷賢太郎、エドゥアルドの4人だけ。小林悠、中村憲剛、谷口彰悟といったレギュラークラスは、今日はベンチスタートとなっている。冷たい小雨が降り続ける中、19時30分にキックオフのホイッスルが鳴った。

ポゼッションとプレッシングでゲームを支配した柏

クリスティアーノのゴールで先制した柏。その後も川崎に付け入るスキを与えず、ベスト4進出を決めた 【写真は共同】

 前半、ゲームを支配したのはアウェーの柏だった。前線から積極的にプレスをかけ、ポゼッションを高めながらチャンスを作っていく。前半から目立っていたのはキャプテンマークを巻いたボランチのキム・ボギョン、右サイドからスピードに乗った突破を見せる伊東純也、そして貪欲にゴールを狙うFWのクリスティアーノだ。前半25分には伊東の右サイドの折り返しから、その3分後にはクリスティアーノとのワンツーから、いずれもキム・ボギョンがシュートを放つも、1本目は相手DFにブロックされ、2本目は枠をそれた。

 一方の川崎も、ワントップには清水エスパルスとの4回戦でハットトリックを決めた森本貴幸が、そしてトップ下には推進力がある家長昭博がいる。小林や中村をベンチに置いても、それなりに迫力が感じられる陣容だ。前半36分には、自陣からドリブルで持ち上がった家長が相手DFをかわしてバイタルエリアまで進出、左足から惜しいシュートを放った。柏も40分、右サイドバックの小池龍太の折り返しにクリスティアーノが反応。しかしこれは、チョン・ソンリョンに代わってゴールマウスを守る新井章太のファインセーブに阻まれる。前半は0−0で終了した。

 ハーフタイム、川崎は森本を下げて中村を投入。中村はトップ下に入り、トップ下の家長が右MFに回り、右MFの知念慶はワントップに置かれた。鬼木達監督の言葉を借りると「憲剛はボールを受けることができるし、知念を前(のポジション)で見たかった」。実際、中村投入後は攻撃のバリエーションが増えたが、依然として試合の主導権を握っていたのは柏だった。そして後半16分、ついに均衡が破られる。左CKのチャンスに、キッカーのクリスティアーノはショートコーナーを選択。キム・ボギョンとのパス交換から右足で意表を突くシュートを放つと、ゴール右隅を貫いてこれが先制点となる。

 思わぬ形で先制された川崎。とはいえ時間は十分にあるし、頼りになる戦力も温存してある。後半19分にはハイネルOUTで登里享平IN、さらに25分には知念OUTで小林IN。システムも家長と小林の2トップに変更して、反撃の体勢を整えてゆく。ところが、より攻撃的な陣容になったにもかかわらず、後半の川崎のシュートは登里の1本のみであった。それ以外のチャンスは、中谷進之介と中山雄太による柏のセンターバックコンビが着実にブロック。守備陣だけでなく、チーム全体が賢くゲームをコントロールし、相手に付け入るスキを与えない。結局、1−0のスコアのままタイムアップ。勝利した柏は、2年ぶりとなるベスト4進出を果たした。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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