リーグ戦の明暗が反映された関西対決 天皇杯漫遊記2017 神戸対C大阪
準決勝から決勝まで余裕があるのはいいけれど
天皇杯もいよいよ準決勝。ヤンマースタジアム長居での関西対決には2万4833人が詰めかけた 【宇都宮徹壱】
前回大会を含め、天皇杯は12月の後半から慌ただしいスケジュールが恒例となっていた。準々決勝はクリスマス(あるいはイブ)、準決勝は29日、そして決勝は元日、といった具合。ベスト8から決勝まで1週間という強行日程は、明らかにプレーヤーズファーストに反するし、サポーターにしてみても年末年始の予定が立てづらい。その意味で、準決勝が12月23日に行われるのは(今回が初めて)、非常に画期的な改革であったと言える。もっともそれは、「準決勝→決勝」を切り取った場合の評価だ。
天皇杯という大会が、どうしても年末のベスト4以降に注目が集まりがちなのは認めよう。それでも、大会そのものは1回戦も含めて捉える必要がある。たとえば都道府県代表のアマチュアチームの場合、2回戦でのJクラブとの対戦こそが、彼らにとってのクライマックスだ。その晴れ姿を家族や職場の仲間に見てもらいたいと思うのは当然だろう。にもかかわらず、2回戦は平日の夜。スタジアムでの観戦を断念せざるを得なかった人は少なくなかったように思う(実際にそういう話を耳にしている)。すでに次回大会の日程は発表されているが、次々回以降はそうした事情も考慮してほしいところだ。
さて、準決勝のカードにフォーカスしよう。この試合でホーム扱いの神戸は、GKのキム・スンギュがけがから復帰したのは好材料。しかし注目のルーカス・ポドルスキは左内転筋を負傷し、勝ち進んでも「決勝にも間に合わない」という理由でドイツに帰国してしまった。対するC大阪は、先に行われたEAFF E−1サッカー選手権で代表を辞退していた杉本健勇、山口蛍、清武弘嗣のうち、清武のみがスタメン出場。杉本と山口はベンチ外となった。どちらも主力を欠いたのはいささか寂しいが、それでもこの日のスタンドには2万4833人の観客が詰めかけた。13時4分、キックオフのホイッスルが鳴る。
きっ抗した試合の流れを変えた柿谷の投入
この日は1ゴール1アシストを決めたC大阪の柿谷曜一朗。決勝は万全のコンディションを期待したい 【宇都宮徹壱】
「1カ月前にセレッソと対戦したときは歯が立たなかったので、この試合ではプランを変えて臨んだ」と語るのは、神戸の吉田孝行監督である。具体的には「後ろからつないでも自陣で取られて失点するシーンが多かったので、そこは割り切って(ロングボールから)セカンドボールを拾うためにボランチを3枚にした」。結果、中盤でガッチリかみ合う展開が続いた。神戸は前半13分にワントップの渡邉千真が、C大阪は後半10分と15分にソウザが、いずれも惜しいシュートを放つもネットを揺らすには至らず。
最初に交代カードを切ったのはC大阪のユン・ジョンファン監督だった。後半32分、福満に代わって柿谷曜一朗。このところ別メニューが続いていた背番号8だったが、「後半で勝負を懸けるなら曜一朗しかない」というユン監督の言葉どおり、まさに満を持しての投入だった。柿谷と清武のコンビネーションにより、C大阪の攻撃にようやく「らしさ」が生まれたが、先制したのは神戸。時間は後半45分だった。途中出場の大森晃太郎が左から切れ込んで折り返し、渡邉と小川慶治朗が飛び込むも、ボールはそのままゴールに吸い込まれていく。試合終了間際での先制に、神戸のゴール裏は勝利を確信したはずだ。
しかしその1分後、C大阪はすぐさま反攻に出る。中盤からソウザが長いボールを入れ、これを前線の山村がヘディング。いったんはキム・スンギュにはじかれるも、水沼宏太の狙いすました右足ボレーが神戸のゴールネットに突き刺さった。この鮮やかな同点弾により、試合は延長戦に突入。そして延長前半8分、C大阪は相手のペナルティーエリア内でのハンドからPKを獲得する。キッカーは柿谷。ゴール左隅へのシュートは、キム・スンギュにブロックされるも、こぼれ球を柿谷自身がダイビングヘッドで押し込んだ。
神戸はその直後、大槻周平とハーフナー・マイクを同時に投入し、何とか形勢逆転を試みようとする。とりわけ、195センチのハーフナーをターゲットに置いたパワープレーは、C大阪にとって脅威となった。しかし延長後半9分、C大阪は柿谷のラストパスにソウザが走り込み、GKとの1対1を制してきれいにシュートを流し込む。この時間帯でも最後まで走り切る、ソウザの運動量にはただただ脱帽するしかない。かくして3−1のスコアで、C大阪が14年ぶりとなる天皇杯決勝進出を果たした。