リーグ戦の明暗が反映された関西対決 天皇杯漫遊記2017 神戸対C大阪

宇都宮徹壱

準決勝から決勝まで余裕があるのはいいけれど

天皇杯もいよいよ準決勝。ヤンマースタジアム長居での関西対決には2万4833人が詰めかけた 【宇都宮徹壱】

「ようやく天皇杯らしさが戻ってきた」──準決勝の会場、ヤンマースタジアム長居に到着して、そんな想いを新たにした。12月23日の天皇誕生日は好天。スタジアム周辺は、セレッソ大阪とヴィッセル神戸のユニホームを着た人々で溢れかえっていた。今大会の天皇杯は、4月22日と23日にスタート。1回戦は週末の日中に行われたが、2回戦(6月21日)から準々決勝(10月25日)までは、いずれも平日の夜に開催されている。余裕をもった日程で、トーナメントが開催されること自体は大歓迎。とはいえ、天皇杯といえば、やはり年の瀬の日中開催のイメージが今も根強く残っている。

 前回大会を含め、天皇杯は12月の後半から慌ただしいスケジュールが恒例となっていた。準々決勝はクリスマス(あるいはイブ)、準決勝は29日、そして決勝は元日、といった具合。ベスト8から決勝まで1週間という強行日程は、明らかにプレーヤーズファーストに反するし、サポーターにしてみても年末年始の予定が立てづらい。その意味で、準決勝が12月23日に行われるのは(今回が初めて)、非常に画期的な改革であったと言える。もっともそれは、「準決勝→決勝」を切り取った場合の評価だ。

 天皇杯という大会が、どうしても年末のベスト4以降に注目が集まりがちなのは認めよう。それでも、大会そのものは1回戦も含めて捉える必要がある。たとえば都道府県代表のアマチュアチームの場合、2回戦でのJクラブとの対戦こそが、彼らにとってのクライマックスだ。その晴れ姿を家族や職場の仲間に見てもらいたいと思うのは当然だろう。にもかかわらず、2回戦は平日の夜。スタジアムでの観戦を断念せざるを得なかった人は少なくなかったように思う(実際にそういう話を耳にしている)。すでに次回大会の日程は発表されているが、次々回以降はそうした事情も考慮してほしいところだ。

 さて、準決勝のカードにフォーカスしよう。この試合でホーム扱いの神戸は、GKのキム・スンギュがけがから復帰したのは好材料。しかし注目のルーカス・ポドルスキは左内転筋を負傷し、勝ち進んでも「決勝にも間に合わない」という理由でドイツに帰国してしまった。対するC大阪は、先に行われたEAFF E−1サッカー選手権で代表を辞退していた杉本健勇、山口蛍、清武弘嗣のうち、清武のみがスタメン出場。杉本と山口はベンチ外となった。どちらも主力を欠いたのはいささか寂しいが、それでもこの日のスタンドには2万4833人の観客が詰めかけた。13時4分、キックオフのホイッスルが鳴る。

きっ抗した試合の流れを変えた柿谷の投入

この日は1ゴール1アシストを決めたC大阪の柿谷曜一朗。決勝は万全のコンディションを期待したい 【宇都宮徹壱】

 この日は神戸もC大阪も、慎重かつ手堅い戦い方に徹していた。攻撃陣のやりくりが厳しいC大阪は、杉本の代役として山村和也をワントップに抜てき。もともと守備的な選手だった山村が、移籍後にトップ下にコンバートされて開眼したことは有名な話だが、最前線での起用は初めてである。山村がボールを受け、トップ下の福満隆貴が追い越してチャンスを狙う場面も見られたが、決定的な場面を作るには至らず。対する神戸は、全体的にラインを低く設定してカウンター狙いに徹していた。

「1カ月前にセレッソと対戦したときは歯が立たなかったので、この試合ではプランを変えて臨んだ」と語るのは、神戸の吉田孝行監督である。具体的には「後ろからつないでも自陣で取られて失点するシーンが多かったので、そこは割り切って(ロングボールから)セカンドボールを拾うためにボランチを3枚にした」。結果、中盤でガッチリかみ合う展開が続いた。神戸は前半13分にワントップの渡邉千真が、C大阪は後半10分と15分にソウザが、いずれも惜しいシュートを放つもネットを揺らすには至らず。

 最初に交代カードを切ったのはC大阪のユン・ジョンファン監督だった。後半32分、福満に代わって柿谷曜一朗。このところ別メニューが続いていた背番号8だったが、「後半で勝負を懸けるなら曜一朗しかない」というユン監督の言葉どおり、まさに満を持しての投入だった。柿谷と清武のコンビネーションにより、C大阪の攻撃にようやく「らしさ」が生まれたが、先制したのは神戸。時間は後半45分だった。途中出場の大森晃太郎が左から切れ込んで折り返し、渡邉と小川慶治朗が飛び込むも、ボールはそのままゴールに吸い込まれていく。試合終了間際での先制に、神戸のゴール裏は勝利を確信したはずだ。

 しかしその1分後、C大阪はすぐさま反攻に出る。中盤からソウザが長いボールを入れ、これを前線の山村がヘディング。いったんはキム・スンギュにはじかれるも、水沼宏太の狙いすました右足ボレーが神戸のゴールネットに突き刺さった。この鮮やかな同点弾により、試合は延長戦に突入。そして延長前半8分、C大阪は相手のペナルティーエリア内でのハンドからPKを獲得する。キッカーは柿谷。ゴール左隅へのシュートは、キム・スンギュにブロックされるも、こぼれ球を柿谷自身がダイビングヘッドで押し込んだ。

 神戸はその直後、大槻周平とハーフナー・マイクを同時に投入し、何とか形勢逆転を試みようとする。とりわけ、195センチのハーフナーをターゲットに置いたパワープレーは、C大阪にとって脅威となった。しかし延長後半9分、C大阪は柿谷のラストパスにソウザが走り込み、GKとの1対1を制してきれいにシュートを流し込む。この時間帯でも最後まで走り切る、ソウザの運動量にはただただ脱帽するしかない。かくして3−1のスコアで、C大阪が14年ぶりとなる天皇杯決勝進出を果たした。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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