サッカーを通して培う「リスペクト」 徳山大学女子サッカー部が目指すチーム像

岩本勝暁

ユニバ代表の龍、ここで学んだ「全員守備、全員攻撃の大切さ」

17年ユニバーシアードに日本代表として出場した龍沙也加 【写真:坂本清】

 環境はチームを、そして人も育てる。現在の部員は39人。17年には、3年生の龍沙也加が台北で行われたユニバーシアードに日本代表の一員として出場した。日の丸がついたユニホームに袖を通し、先発した初戦のコロンビア戦は最後までピッチに立ち続けた。

 龍が述懐する。
「すごくレベルの高いところでプレーさせてもらってうれしかったです。その分、緊張や不安も感じました。外国人選手は体が大きくてスピードもある。体をぶつけ合った時の激しさも、日本人とはまったく違いました。サッカーは一人で勝つことはできません。チームとして戦うから勝てるんだということを学びました」
 決勝でブラジルに敗れたものの、チームは銀メダルを獲得。自信という大きな手土産を持ち帰った。

 小学3年生でサッカーを始めた龍は福岡県の出身。ポジションはミッドフィルダーだ。中学を卒業すると、熊本県の秀岳館高に進学。そこで出合ったのが、徳山大の女子サッカー部だった。

 自分に合いそうだ――、直感でそう感じた。

「高校生の時に徳山大の練習に参加させてもらいました。その時に感じたのは、上下関係がなくてとてもフレンドリーだったこと。一人一人が楽しみながらサッカーをやっていると感じたんです。自分がやりたいサッカーができると思い、入部を決めました」

 持ち味はスピードを生かしたドリブル。田中監督の評価も高い。
「スピードがあります。しかも、スピードに乗った中でシュートが打てる。それが彼女の武器でしょう」

 徳山大に入って“ハードワーク”を身に付けた。プレースタイルも変わった。攻撃だけでなく、守備でも活躍できるようになった。
「自分はもともと攻撃派で、チームが守備をしている時は歩いたりしていました。ハードワークという言葉も知らなかった。だけど、徳山大にきてハードワークを学び、全員で守って全員で攻めることの大切さを知りました」

上下関係を気にせず思い切りプレー。ピッチ外でも「審判」「栄養」「ランドリー(洗濯)」「レクリエーション」などの係を、上級生も含めて担当している 【写真:坂本清】

 ただひたすら、大好きなサッカーに打ち込む生活を送っている。周辺の環境は抜群だ。四季折々の変化を感じることもできる。
「春は桜がきれいな近くの公園でお花見。夏は女子サッカー部のみんなで光市の虹ケ浜に行ってバーベキューをします。冬は4年生が引退する季節。みんなでお別れサッカーをします」

 徳山から世界へ――。将来は日本女子サッカーの最高峰、なでしこリーグでプレーすることを夢見ている。龍が、未来に思いをはせる。

「サッカー選手になりたいです。そのためにはコミュニケーションスキルがもっと必要だし、主体性を持つことも大切。今はフィジカルも足りないし、判断力ももっと上げなければいけません。最終的には、今まで自分が学んできたことを子どもたちに伝えたい。ずっとサッカーに関わっていきたいです」

田中監督「ここから世の中に出て、活躍する女性が増えてほしい」

全力で戦う、全力で笑う、互いを尊敬する。人生の土台となる時間を、彼女たちはこの場所で過ごしている 【写真:坂本清】

 田中監督がまいた種はやがて大きな実を結び、サッカーでつながった縁はどんどん広がっていく。

「『女子サッカーっていいね』『集団でスポーツをするのっていいね』。そこから競技人口が増えるといいなと思っています。サッカーじゃなくてもいい。ここから世の中に出て活躍する女性が、どんどん増えてきてほしいですね」
 こう話す田中監督の笑顔には屈託がない。

 山口県には女子サッカーがある。そう言われるのも、けっして遠い未来の話ではないだろう。
 そして今日もまた、人工芝が映える高台のグラウンドから、明るい声でチームの合い言葉が聞こえてくるのだ。

「今日の調子は? 絶好調!!」と。

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著者プロフィール

1972年、大阪府出身。大学卒業後、編集職を経て2002年からフリーランスのスポーツライターとして活動する。サッカーは日本代表、Jリーグから第4種まで、カテゴリーを問わず取材。また、バレーボールやビーチバレー、競泳、セパタクローなど数々のスポーツの現場に足を運ぶ。

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