モーエンが福岡国際を欧州記録で制する 大迫はベスト更新で「練習に間違いない」

K Ken 中村

4分以上の自己ベスト更新で優勝

欧州マラソン新記録となる2時間5分48秒で福岡国際マラソンを制したモーエン 【写真は共同】

 3日に開催された福岡国際マラソンは、36キロで本命の一人、ビダン・カロキ(DeNA/ケニア)を突き放したノルウェーのソンドレノールスタッド・モーエンが2時間5分48秒の欧州マラソン新記録をたたき出して優勝。タイムは2009年にツェガエ・ケベデ(エチオピア)が記録した2時間5分18秒に次ぐ福岡国際歴代2位のタイム、そしてウィルソン・キプサング(ケニア)が今年の東京マラソンで記録した2時間3分58秒などに次ぐ日本国内歴代4位の好タイムでもある。

 以前の自己ベストが2時間10分07秒に過ぎなかったモーエンだが、10月にはハーフ・マラソンで59分48秒を記録し、マラソンでも新たな自己ベストが期待されていた。しかし4分以上の自己ベストの更新は期待を大きく上回っていた。2時間5分台の大記録をたたき出したモーエンだが「ウィンタースポーツ大国のノルウェーでは、そのタイムの意味がどれだけか、理解されるかどうかは分からない」と言う。11年続いたアフリカ勢による福岡国際マラソン連続優勝にストップを掛けたモーエンは、05年のドミトロ・バラノフスキー(ウクライナ)以来となる欧州選手による福岡国際優勝を成し遂げたのである。

イーブンペースで走り切ることを心がけた

30キロを過ぎてからもペースを落とさず、本人も驚きのタイムでレースを走り切った 【写真は共同】

 レース後の記者会見で「調子が良かったので2時間7分台で走れるかもという期待はあった。絶好のマラソン日和になれば2時間6分台もあるかなと思っていたが、2時間5分台は考えていなかった」とモーエンは驚きを隠せなかった。「今日は天候も良く、ペースメーカーも30キロまで良いペースで引っ張ってくれた。だから30キロ過ぎでもまだまだ余裕もあった」とモーエンは30キロからの5キロを14分37秒、そして40キロまでの5キロも14分38秒と、それまでの5キロ15分ペースから大幅に上げて、30から36キロまで並走していたカロキを簡単に振り切った。

 最後の2.195キロも6分25秒とペースは衰えることなく2時間5分48秒の欧州記録をマークした。しかしそのタイムは世界歴代では62位タイのタイムに過ぎない。上位をアフリカ勢が独占するマラソンの世界歴代リスト。アフリカ生まれでない選手でモーエンより速いタイムを記録したのは、米国のライアン・ホールだけだ。ただし、ホールの記録は公認記録としては扱われないボストンマラソンでマークしたものである。

 以前の欧州記録は00年にアントニオ・ピント(ポルトガル)が記録した2時間6分36秒だが、03年にはフランスのブノワ・ツウェルツチュースキーが同タイムを記録していた。その後16年に元ケニアの選手でトルコに国籍を変更したカーン・キゲン・オズビレンが2時間6分10秒を記録したが、国籍はいつトルコになったのかが、問題になっていた。しかし、今回モーエンがそのオズビレンの記録をも上回り、欧州記録は2時間5分台に突入したのである。

「(従来の)欧州記録は1キロ3分ペースより25秒ほど速いことは分かっていた」と言うモーエンは「36キロから37キロあたりでは、脇腹に差し込みがあり、あまり自信を持って走れていなかったので、ともかくイーブン・ペースで走ることを心がけた。しかし40キロでは自信が戻ってきて欧州記録は破れると思った」と続けた。「マラソンは自分との闘いだ。だから自分の力をコントロールしなければならない」とも付け足した。

神野、設楽らは次のレースに期待

日本歴代5位のタイムを出した大迫。「今までやってきた練習は間違いではなかった」とコーチと喜びあった 【写真は共同】

 日本人選手では大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)が日本歴代5位のタイムとなる2時間7分19秒で日本人トップの3位に入り、2019年9月以降に行われる20年東京五輪の日本代表選考レース、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)出場権を獲得。20年東京五輪に向けての第1歩を踏み出した。

 高岡寿成、藤田敦史、犬伏孝行そして佐藤敦之に次ぐ日本歴代5位に入る好タイムだったが、「今までやってきた練習は間違いではなかった。練習を続けていけばさらに上の成績が残せる」と言う大迫。現在指導を受けるピート・ジュリアンコーチのことを「本当に信頼できるコーチ」だと語る。「これだけ信頼できるコーチには日本では会うことはできなかった」とも言う。大迫が選んだ道は正しかったと言うことだ。大迫にとって日本記録はもうすぐそこまで来ているのかもしれない。

 日本人2、3位には上門大祐(大塚製薬)が2時間9分27秒、そして竹ノ内佳樹(NTT西日本)が2時間10分01秒の好タイムで入った。2人とも自己ベストを3分以上も更新して大きく飛躍。大迫とともに、MGCの参加資格を得た。今年のびわ湖毎日、そして今回の福岡国際と2回連続で2時間10分前後で走り切れたが、日本陸上競技連盟の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーによれば「注目されるようになってからのマラソンが難しい」と話す。上門と竹ノ内は次のマラソンで成功してこそ、一流のランナーの仲間入りができるということだ。

 一方、初マラソンが期待された“3代目山の神”神野大地(コニカミノルタ)は2時間12分50秒で13位、設楽啓太(日立物流)は2時間28分29秒で79位に沈んだ。1回目のマラソンで結果を残せない選手は珍しくない。伝説のマラソンランナーでもある瀬古リーダーも初マラソンは2時間26分台だった。神野も設楽も、注目すべきは2回目のマラソンとなるだろう。
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著者プロフィール

三重県生まれ。カリフォルニア大学大学院物理学部博士課程修了。ATFS(世界陸上競技統計者協会)会員。IAAF(国際陸上競技連盟)出版物、Osaka2007、「陸上競技マガジン」「月刊陸上競技」などの媒体において日英両語で精力的な執筆活動の傍ら「Track and Field News」「Athletics International」「Running Stats」など欧米雑誌の通信員も務める。06年世界クロカン福岡大会報道部を経て、07年大阪世界陸上プレス・チーフ代理を務める。15回の世界陸上、8回の欧州選手権などメジャー大会に神出鬼没。

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