「満員の会場でお客さんと涙を流したい」新会長・太田雄貴が目指すフェンシング
12月の全日本、2020東京五輪へ 楽しみな若手たち
11月のフェンシング高円宮杯W杯 男子フルーレ団体で3位となり、歓声に応える(左から)野口、西藤、松山、敷根ら日本チーム=駒沢体育館 【共同】
女子のサーブル、男子のエペは猛烈な勢いで伸びています。「太田選手でメダルが取れるんだから僕も、私も取れる」と思ってきたのが、僕が23歳、北京でメダルを取った時の小学生たちで、今の若手選手たちで、思えるか思えないか、というのはとても大事なポイントです。それはフルーレに限らず、今の世代は「勝てて当たり前だ」と思って過ごしている選手がすごく多いので、エペもサーブルもその段階に来たな、という気がします。実際に東京五輪でも、複数個のメダルが取れる可能性があると思っています。
――12月には全日本選手権も行われます。注目選手は?
まずは男子エペの見延(和靖)という絶対的エースと、それを追う加納(虹輝)という若手、そしてその間に宇山(賢)と山田(優)、4枚揃っている男子エペは一番存在感や厚みがあると思います。そして女子サーブルも7月の世界選手権ではエースの江村美咲、福島(史帆実)、田村(紀佳)の3選手がベスト8に進出する快挙を成し遂げました。もちろんサーブル、エペだけでなく男子フルーレは東京五輪で必ず金メダルを狙える選手が常に5、6人いるという状態をつくりたいと思っていますし、実際に世界選手権では西藤選手が銀、敷根選手が銅メダルを獲得しています。
世界を見ると2017年のトップ32の平均年齢が27歳である中、日本のトップ8人の平均年齢は21歳です。これから東京に向かって行く中ではポジティブなニュースしかないと思います。
“ライブ”のようなフェンシング会場に――。観客も楽しめる競技を目指し、太田会長は周囲とともに動き出している 【写真:築田純】
フェンシングはテクノロジーを生かし、音楽と組んで「フェンシング会場に行ったらライブみたい」と思われるような空気感をつくれたら面白いと思います。会長の僕も若いので、今までのやり方とは全然違う、むしろ日本らしさは全くなくて、日本人を変えるためにエッジの効いたことをやってもいいと思うし、やってみたいですね。
フェンシングだけでなく、日本全体と見ればパラリンピックも含め、五輪で東京の街をユニバーサルデザイン(誰でも利用しやすいサービス・環境などのデザイン)にすることをひとつの目標として取り組んでいるのですが、まだ実際はそうではないですよね。
例えば満員電車の時間帯に車いすのお客さんが入ってくると、面倒くさいな、という顔をする人もいるし、階段の前で困っていても「駅員さんがやるからいいだろう」という感じで、「手伝いましょうか」と声を掛ける人は非常に少ない。対してロンドンは地下鉄でエレベーターやエスカレーターがすべての場所にあるわけではないけれど、車いすの人がいればごく自然に階段をみんなで担いで昇る。まさに心のバリアフリーです。
街やインフラ整備をすることばかり重視して、責任者に全部をなすりつけ、自分達は関係がない……ではなく、全員が心に日の丸を持って、五輪、パラリンピックを見にくるすべての人たちを、日本人全員がおもてなすような気持ちで大会を成立させたい。そして、満員のフェンシング会場で日本人選手が金メダルを取り、お客さんと一緒に歓喜の涙を流す、それがベストな光景です。
人生を変える――。メダルを取った北京五輪前にそう言って、本当に自身の道を切り開いて来た太田雄貴が、これから描き、進む未来。今度は自分の人生だけでなく、もっと大きな変革に向け新たな一歩を踏み出した。