浦和レッズを支え続けたサポーターの存在 耐え難き年月を経て、奪還したアジア王座

島崎英純

堀監督によって取り戻したチームバランス

堀監督はシステムを変更して改革を進め、対戦相手を入念にスカウティング。チームの共通意識は揺るがなかった 【Getty Images】

“ミシャ”からチームを引き継いだ堀監督が新体制にもたらしたもの。それは堅守だ。攻撃に特化することで独自のカラーを形成した前体制は16年シーズンにルヴァンカップこそ制したものの、Jリーグ、そしてACLのタイトルには届かなかった。「自分たちのサッカー」を標ぼうする姿勢は高尚だが、プロサッカー選手の責務である明確な結果を得られない日々は、チームの自信を喪失させる動機を生んだ。

 堀監督はその根本的な問題を是正すべく、偏重したチームバランスを取り戻し、システムをも変更して改革を進めた。指揮官はまた、対戦相手を入念にスカウティング。ACLに関してはホーム&アウェーの特性を生かし、第1戦の結果を踏まえて戦術、戦略の微調整を怠らなかった。実際に決勝のアル・ヒラル戦では第1戦で自陣の左サイドを攻略された反省を踏まえ、システムを4−1−4−1から4−2−3−1へ変更。局面勝負に優れる日本代表MFの長澤和輝をトップ下に置いてハイプレス&猛チャージを敢行し、相手のパスの出どころを封じて攻撃パターンを無効化させることに成功した。

 また、相手エースFWのオマル・ハルビンには日本代表でも実績を築きつつある槙野智章が適切に対応した。そのハルビンは、前半途中に宇賀神友弥のチャージを受けて左足を痛めてからは動きが鈍り、後半17分に交代を強いられている。アル・ヒラルは大会7ゴールをマークしているMFカルロス・エドゥアルドが第1戦で左膝靭帯損傷を負って欠場を余儀なくされていただけに、大会得点王の10ゴールを挙げていたハルビンをも失うハンディは多大で、この時点で彼らの勝機が遠のいた。

 また、今回のACL決勝の2試合では浦和の秩序だったプレーぶりも際立った。槙野&阿部勇樹のセンターバック、青木拓矢のアンカー、宇賀神の左サイドバック、ラファエル・シルバ&武藤雄樹のウイング起用など、堀監督体制になってから新たな役割を与えられた選手たちがチームコンセプトに則る姿は愚直でありながら、それが結果を導く最善策だと信じる共通意識は揺るがなかった。

 各選手はユニット間の距離を適切に保ち、安易なボールロストを控えて慎重にゲームを進めた。以前のチームがフリックパス(軌道を少しずらしながらつなぐパス)を多用して意外性のあるプレーを追い求めたのに対し、今のチームはセーフティなプレーを最優先とし、地味ながらも堅実な道を選択することでタイトルへの渇望を示した。

ACL優勝、スタジアム全体に歓喜が弾けた

後半43分、ラファエル・シルバ(左)が決勝点を挙げ、均衡が崩れる 【赤坂直人/スポーツナビ】

 第1戦で浦和にアウェーゴールを奪われているアル・ヒラルは勝利、あるいは1−1のドローで延長戦およびPK決着、もしくは2−2以上の引き分けによるアウェーゴール差で優勝する目標があった。しかし刻々と時間が経過しても浦和ゴールを破れないことで焦燥の度合いを増し、自慢のパスワークに陰りが生じていく。

 試合最終盤になると、いら立ちからラフプレーに走ってMFのサレム・アルダウサリが2回目の警告を受けて退場処分を下されるなど、彼らは理性も保てなくなった。その隙を浦和が見逃すはずもない。後半43分、自陣でのFKの流れから武藤が前方へ縦パスを送ったところで、DFオサマ・ハウサウィがまさかの空振りを犯し、前方へ抜けたボールを拾ったラファエル・シルバが強烈なシュートをたたき込んで先制ゴールをマークした。

 大歓声の輪に包まれるホームチームの横で、憔悴したアウェーチームの選手たちがうなだれている。アディショナルタイムは4分あったが、彼らはすでに戦闘意欲を失っていた。途中交代してベンチに座っていたハルビンがロングコートのフードを顔に覆って肩を揺らした時点で勝負は決した。

 ラフシャン・イルマトフ主審が試合終了の笛を吹く。柏木が達観した笑顔を浮かべ、槙野が吠えている。殊勲のラファエル・シルバに次々と仲間が抱きついている。興梠は、ゴール裏のサポーターが再度掲げたコレオグラフィーをいつまでも愛おしく見つめていた。12年シーズンにレスター・シティから浦和に帰還したキャプテン・阿部が優勝カップを手にして頭上にかざすと、スタジアム全体に歓喜が弾けた。

 ゴール裏、メーン、バック、試合終了からかなりの時間が経過しても、埼玉スタジアムのスタンドは立錐の余地がない。誰もが栄冠の余韻に浸るのには、理由がある。

 辛酸、辛苦、悔恨、屈辱――。タイトル獲得寸前までたどり着きながら栄光を逃した耐え難き年月を経て、浦和レッズ、07年シーズン以来、10年ぶりのアジア王座奪還なる。それは、赤き血のイレブンと仲間たちが、その誇りを高らかに掲げた瞬間でもあった。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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