すべてを懸けてつかんだACL決勝の切符 浦和が示したアジア王座奪還への思い

島崎英純

10年ぶりにACLの決勝へ進出

ラファエル・シルバのゴールで上海上港を下した浦和は、10年ぶりにACLの決勝へ進出 【赤坂直人/スポーツナビ】

 埼玉スタジアムを埋めた4万4357人のファン、サポーターたちは浦和レッズの堅牢で力強いパフォーマンスを目撃したはずだ。対戦相手はアジア屈指の選手層を誇る上海上港。ブラジル代表にも名を連ねたFWフッキ、MFオスカルに加えて、得点力のあるFWエウケソン、ボール奪取能力とパスさばきに優れるウズベキスタン代表のオディル・アフメドフ、そしてFWウー・レイを筆頭にした中国代表選手たちをFCポルト(ポルトガル)、チェルシー(イングランド)などを率いた経験のあるアンドレ・ビラス・ボアス監督が率いる。浦和はそんな中国の雄に対して一歩も引かずに局地戦を展開し、アウェーの第1戦で1−1のドロー、そしてホームの第2戦を1−0で制して2007年シーズン以来、10年ぶりにACL(AFCチャンピオンズリーグ)の決勝へ進出した。

 今季の浦和はシーズン中盤にJリーグの成績が下降し、02年から約5年半のあいだ指揮を執ったミハイロ・ペトロヴィッチ監督が解任される危機に陥った。後を任されたのは11年シーズンにもゼリコ・ペトロヴィッチ前監督の解任を受け、暫定でチームを指揮した経験のある堀孝史氏。堀監督は今回正式に監督として責を負い、チーム再構築に着手したが、リーグではいまだ中位に低迷し、14日に行われた第29節のヴィッセル神戸戦で1−1と引き分けたことでリーグ優勝の可能性が途絶えた。天皇杯、ルヴァンカップもすでに敗退していることから、17年シーズンの浦和が残すタイトルはACL、そしてアジア制覇を成し遂げた際に道が開けるFIFAクラブワールドカップの2冠のみとなった。

ターンオーバーを用いて態勢を整えた堀監督

堀監督は巧みなターンオーバー策を用いて上海上港との準決勝第2戦に臨んだ 【写真:築田 純/アフロスポーツ】

 堀監督自身はリーグ、ACLの大会をすみ分けしないと語っているが、現役時代に先輩、後輩の間柄で、指揮官の性格をよく知る福田正博氏は、こんな私見を述べている。

「ホリ(堀監督)は物事を深く考える性格で、緻密に戦略を練る。例えば今季のチームの目標がACLと定まった場合は、Jリーグの試合で、それに向けた準備や何らかのテストをする可能性は十分に考えられる。もちろん、そんなことは公の場で話さないだろうけれども、ホリはそれくらい、何事も計算立てて考えるタイプの指導者だと思う」

 堀監督は上海上港との準決勝第2戦に臨む前の神戸戦で、日本代表の槙野智章と遠藤航を出場させなかった。槙野はニュージランド代表戦、ハイチ代表戦の2試合で先発フル出場し、遠藤もハイチ戦にフル出場していたために疲労を考慮された面もあるが、上海上港戦を最大のターゲットにして万全の布陣を敷く意図があったと見るのが妥当だろう。

 また、ラファエル・シルバを神戸戦でわずか9分間の出場にとどめたのも、今季の上海上港戦で3試合2ゴールを挙げている彼の実績を考慮したはずだ。もうひとつ挙げるならば、上海での第1戦で出色の活躍を果たしたMF長澤和輝も神戸戦ではピッチに立つ機会がなかった。ポジティブな見方をすれば、堀監督は巧みなターンオーバー策を用いて最重要ゲームに臨む態勢を整えていた。

浦和の守備が堅牢さを増した理由

強力な攻撃陣を擁する上海上港に対し、堅牢な守備を見せた浦和 【赤坂直人/スポーツナビ】

 堀監督はチームの指揮を執ってから一貫して「4−1−4−1」を採用しているが、ペトロヴィッチ前監督時代に用いていた特殊な「3−4−2−1」から現システムへの移行に難儀していた。特にチーム全体のコンパクトネス維持には苦慮していて、新体制が発足した第20節・大宮アルディージャ戦からのリーグ戦9試合で無失点ゲームが1試合しかないことからも、その苦悩の跡がうかがえる。つまり失点数の増加にいまだ歯止めは効いていないわけで、強力な攻撃陣を擁する上海上港に対しても劣勢は必至という下馬評があった。しかしふたを開けてみれば、浦和は第1戦でフッキのミドルシュートを浴びて1失点した以外はほとんどの相手攻撃を受け止め、2試合合計2−1という堂々の成績で相手を下した。

 浦和の守備が堅牢さを増した理由として、上海上港の攻撃が個人打開、しかも中央エリアに偏重していた点が挙げられる。1トップのエウケソンは言うに及ばす、ウイングのフッキ、ウー・レイ、トップ下のオスカルが功を焦って浦和陣内バイタルエリア付近から独力突破を図るも、そのことごとくを浦和守備網に阻まれた。センターバック(CB)の阿部勇樹とマウリシオが集中力を保って応対し、アンカーの青木拓矢がエリアカバーを施し、その上でインサイドハーフの柏木陽介と長澤が自陣へ戻ってスペースを埋めたことで、上海攻撃陣に与えられた侵入経路は喪失した。キャプテンの阿部は試合後の記者会見でこう述べている。

「相手の前線に『個』が強力な選手がいるので、もちろん1対1で守らなければならない状況もあると思いますけれども、チームの戦い方としてチャレンジ&カバーもそうですし、前線のプレスバックもそうですし、今日は守備のところで戦えたのではないかなと思います」

 上海上港の攻撃は元々前線の4人に任されていて、それをダブルボランチのアフメドフとツァイ・フイカンが下支えし、後方の4バックは攻撃へ参加せずに低い位置で構える。裏を返せば、浦和は相手の4人、もしくはダブルボランチの2人を加えた計6人を監視すればよく、相手サイドバックのオーバーラップなどは警戒する必要がなかった。監督交代からシステム変更を施して月日が浅い浦和にとっては、縦幅と横幅を激しく揺さぶられるとコンパクトネス維持に苦慮しただろうが、相手にピッチを効果的に広く、深く利用する意図がなかったために、その不備が露呈することはなかった。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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